第二話:包み、溺れ、弾ける
『3人目!メッタ刺し殺人!連続殺人か?』
朝刊にはこんな見出しが躍っている。全く、いくらスポーツ新聞だからって、こんな‥‥何かのイベントのように掲げなくても‥‥と思う。まぁ、犯人の私としては、微妙な心境だけど。
そう。今までの三人、殺したのは私。なぜこんなことをしたんだろう、と思う。しかし本能的にやってきたこれらのことについて、自分でも少しずつわかってきた。
息子を‥‥俊人を殺した時の感触がきえないのだ。そしてそれに快感を感じ取ってしまった私。
私は、死ぬまで殺人行為を止められないのだろうか‥‥。絶望が私を支配していたが、やがて快感が身体からこみ上げてくる。‥‥やはり、止められない。
「俊は、昨日はいつもみたいに俺と一緒に帰ったんだよ‥‥だから居なくなったんならそれから何かあったんだと思う‥‥」
放課後、四人は皆の溜まり場と化している井蛹川の大きな橋の下の川原に来ていた。
「っつかその日俊誕生日だったじゃん。なんかばあちゃん家行ってる‥とか‥‥じゃねぇの‥‥‥‥?」
言っている内に自信が無くなったのか、竹昭の声は次第にしぼんでいった。
「バッカ、そしたら失踪の届けなんて親が出さねぇよ‥‥」
啓太郎が即座に否定するが、声はしぼんでしまう。希望を潰された感じがしたのだ。
「確かに落ち着いていられないのはわかる‥‥ってか僕だってそうだよ。でも、僕等だけで捜し出すのは無理があるんじゃないか‥警察だって捜索は進んで‥‥」
「ぅるせえよお前ふざけんなよこのままでもいいってのか!?ぁあ!?」
「け‥‥ケイ落ち着いて‥‥」
紅の言葉に啓太郎がキレて、それを竹昭が止めようとする。が、啓太郎は止まらない。
「ぁあ!?アキ黙れよじゃあお前俊の居場所知ってんのかよバーカ!」
皆、混乱していた。当然だ。中学二年生に友達の失踪は‥‥辛過ぎる。‥‥が。
「‥‥陸也?」
陸也一人、さっきからずっとだまっている。
「陸也?どうかしたのか‥‥?」
気のせいか陸也は震えている。
「ぁ‥‥あのさ‥‥‥‥」
「ん?陸也どうかしたのか?」
啓太郎達も不思議に思って陸也の方を向く。
「‥‥じ‥‥実は‥‥さ‥‥」
「な‥‥何だよなんか知ってんのか?」
皆、身を乗り出す。
「じ‥‥実は、言ってたんだよ‥‥俊が‥‥‥‥消えるかも‥‥消されるかも‥って‥‥‥‥」
陸也は震え、冷や汗を流しながら言った。
「あぁ‥‥懐かしぃねぇ‥‥割心斬かぁ‥‥」
「そうでしたよねぇ、私達が最後に関わった割心斬は‥‥何年前でしたっけ?」
そしてハハハハハ、という笑い声。
「いやぁ、それにしても。本当にごぶさたぶりですねぇ、網綿刑事」
散らかった、狭い畳の部屋。小さなちゃぶ台には缶ビールが二つ。
「んで?わざわざぬるい缶ビールを出されることがわかってて、俺ん家に何の用だ?まさか辞めさせられた俺に捜査協力しろって訳じゃねぇだろうな?」
顔を赤くしながら、Yシャツ一枚に短パン姿の綿網刑事が鋭い眼付きで聞いた。
「はっはっは‥‥まさか、とか言っておきながらやる気満々なのは見え見えですよぅ?」
「ふん‥‥ったりめぇだろ。敵討ちだよ。一生分の」
缶ビールを煽る網綿。ヤケになっているのだろうか。
「兄弟または姉妹の上の方が、十七歳に『大人へ成長する証』として子供との境をくっきりつける為に、下の方を殺す儀式‥‥割心斬。儀式をする方は親からこっそり教えられ、嫌がっても半強制的に殺させる。本来はそれが高丸村に伝わる正しい言い伝えなんですがねぇ‥‥」
「もし城山の言うその事件を無理やり割心斬だと見ると、親がなんらかのけじめをつける為にやった又は‥‥」
「やらされた、ですか‥‥」
城山がにやり、と笑った。
血が騒ぐ。今度は四人目か‥‥。
私は夕暮れかかった町を、ただひたすら獲物を求めて彷徨っていた。
バッグに入れてある包丁の感触を、今一度確かめる。
胸が高鳴る‥‥。
確かにあの割心斬は私を変えた。そしてもう後戻りできないところまで来てしまっている。私をこんなにしてしまった割心斬。でも、引き換えに快感を教えてくれた割心斬。
胸が高鳴る‥‥。
騒音は、その人にとっては大切な音の集まり。




