第1話:始まりは夢を以って
こんにちわ、魔狗羽です。初めてのホラーですが、よろしくお願いします。
遂に‥‥この時がやってきた‥‥。
敬子は左手に握り締めた包丁を見つめて、額から冷や汗を流した。
「じゃあなケイ!」
「また明日な俊人!」
今日も部活が終わり、友達と別れて俺、五神俊人は帰路についた。いつものように、部活後の肩に掛けるテニスラケットの重みには苦しまされるが、もうすぐ家だ。それに今日は俺の誕生日。夕食後のケーキを想像しながら学校から15分かけて帰宅した。
「ただいまぁーっ!」
ドアを開けると、恥ずかしいからやめてくれと言っても結局毎年仕掛けられるクラッカーの破裂音に迎えられる‥‥筈だった。
しかし、クラッカーの音はおろか、何の物音もしなかった。電気さえ付いていない。静寂と暗闇が我が家を包み込んでいた。‥‥誰も居ないのか?車は駐車場に停まっていたから母さんは外出していない筈。弟は友達の家に遊びにいってるからいいとして‥‥母さんは?
まぁいいや、夜には帰ってくるだろう、と思って二階に上がり、自分の部屋のドアを開けた。母さんが、いた。左手に包丁を握り締めて‥‥。
ザクッ、ザクッ、ザクッ‥‥
早く‥‥早く埋めなければ‥‥。
深夜の樹海は暗闇に包まれている。本当に‥‥ライトがなければ何も出来ない。私はスコップを持ち直す。もう20分以上も掘り続けている。もう正直疲れた。だが、やらなければ‥‥。
私は息子の冷たい身体を抱え、複雑な気持ちになった。最後くらいちゃんと顔を見てお別れしたかった。だが本当に辺りは真っ暗で何も見えない。せめて感触だけでも、と思い、刺した傷口と頭に手をやって、最後に手を握った。別に私は‥‥好きでこんなことをした訳では無い。‥‥俊人。
だが私の中ではもう一つの気持ちが芽生え始めていた。私がそれを自覚するようになるのはもう少し後のことだが。
「さて‥‥どういうつもりなのかなぁ、あの奥様は」
「?どうかしました?城山刑事。どこか不審な点でも?」
翌日、五神敬子によって息子の失踪が通報された。
「いや‥普通ならもっと取り乱してもいい筈なのに‥‥妙に黙ってましたよねぇ‥‥」
城山刑事は足と腕を組む。
「はぁ‥‥確かにそうかもしれないですね‥‥」
「普通じゃないのは‥‥本人に何か理由があるか‥‥起こってることが普通じゃないか、だ」
城山の眼がぎらり、と光った。
「はっはっは‥‥またそれですか‥‥しかし城山刑事、この事件は‥‥」
「そう。『五神家は一人っ子だ。兄弟は居ない』。ですがたまぁに話がねじれて信仰されてたりしますからねぇ‥‥‥‥おもしろそうですねぇ、私も独自に動いてみます」
「全く‥‥城山刑事も物好きですねぇ。今時ある筈無いじゃあありませんか‥‥割心斬なんて‥‥」
城山は椅子から立ち上がると、同僚の方を振り向く。
「まぁ、ただの暇潰しですよ。最近割心斬は全然見ませんからねぇ‥‥。多分すぐ帰ってきますから‥‥ここ、よろしくお願いしますよぅ?」
「お‥‥おぃ聞いたかよ‥‥俊が‥‥‥‥」
高丸中学校。朝のホームルーム前の教室には、これ以上ないくらい暗い雰囲気が漂っていた。
「あぁ‥‥。意味わかんねえよ‥‥」
その中でも俊人といつも行動を共にしていた鳥宮紅と小希川啓太郎、吉野陸也に利根元竹昭は絶望の真っ只中にいた。
「居なくなったって‥‥どういうことなんだよ‥‥」
紅は身体中から力が抜け落ちているようだ。陸也も目に涙を浮かべている。皆、それ程に俊人と仲がよかったのだ。
「見つかるのかなぁ‥‥俊‥‥」
竹昭がそう呟いた。すると啓太郎がバンッ!と机を叩いた。
「見つかるのを待つんじゃなくて!俺等が探し出すんだ!俊を!」
ひそひそ声が絶えなかった教室が、その叫び声にシーン、となった。
高丸町、高丸銀行。
「おらぁ!金だせぇ!金ぇ!」
目出し帽を被った四人の男達に強盗に遭っていた。彼等は強盗の常習だった。
結局、その日高丸銀行はおよそ200万円を奪われた。
人は、何か目的を持つと積極的に動く。