第1話
「おかあさーん、あそこ人住んでるのー?」
1人の少年が町の商店通りから眺め太陽に被さる位置の丘の上にある古屋を指差し母に問う。
「彼処はね、町の恩師様が住んでいらっしゃるのよ。今度一緒に挨拶に行きましょうね。」
「そうなんだ。わかったー!いく!」
子供は母の言葉に素直に頷いた。
その古屋はこの町が町として栄えた当時からあったと町民達は言う。栄えた理由も其処にあると...
「また失敗か...」
1人の女性が自室の机に向き合いそう呟く。
コンコン
「御免下さい、ミラです。息子の5歳の誕生日に恩師様にご挨拶に参りました。」
古屋をノックしたのは先の親子だった。その者は躊躇なく戸を開け親子達を家中に招いた
「どうぞ」
両者が机を囲み椅子に座り合いミラが話を切り出した。
「恩師様、今年で5歳になった息子のレノンです。この先も息子を見守り下さい。」
「あぁ...こんにちわボク。私はレジーナだ」
レジーナの挨拶は簡潔だがミラは不快に感じていない。恩師はこの町を栄えさせ今も昔も変わらずに見守っていてくれてる恩人であり性格も承知しているからだ。
この町では5歳になった子供を恩師に紹介し"自身がこの世に消えた後もお世話になります"と言う意味合いを込めて挨拶に伺うのが慣わしになっていた
「こ、こんにちわ」
少年は母の手をギュッと握りしめ自身と母のシワとシワの隙間に汗が溜まるのを感じながら勇気を出して挨拶をした
ミラもそれを感じ取っていたのか黙ってレノンの背中を暖かく見守っていた。
「髪が長くて怖いかい?」
そんな少年の姿を見て問いかける。レジーナの髪は黒く膝の位置まで伸びていて日常的にかき分けていなく研究中の急な来客にも対応する暇がなかったのだ
「今結ぶから待ってなさい」
「恩師様、こちらの都合にも合わせてくださって有難うございます。」
「構わないよ、子供の我儘は好きなんだ。君の小さい頃と良く似ている。」
「そんな...覚えててくださったのですか」
母の感謝に好意的な面で返した。
普段は研究に没頭していて髪をかき分けなかったが後ろで長髪を結ぶと端正で美しい顔立ちが現れる
そんな姿をみた少年は思わず口が開いた
「ぼく将来この人と結婚する!!」
「こらレノン、やめなさい!」
母は急な息子の発言に戸惑いながらも叱る。そんな姿を見て思わず笑いが込み上がった。
「あっはっはっは、やめてあげなよミラ」
「君、面白いね。子供はやっぱりこうでなくっちゃ」
「少年よ私はもう既に結婚しているんだ。」
少年はその言葉を聞いて酷く落ち込んだ。
「今日はもう遅い。レノン、5歳の誕生日おめでとう。長生きするんだよ」
「本日は有難うございました。何卒この先も宜しくお願いします。」
ガチャ
ミラとレノンはその場を後にしレジーナは研究を続け夜を明かした。その研究はひと段落つき、休憩がてら町にある行きつけの酒場に顔を出した
チャンリン
「マスターいつものお願いね」
「はいよ」
ここのマスターは代々一家の長子が店を引き継ぎレジーナの事も知っている。秘事も含めて...
「最近何かと町が物騒だね」
「そうさ、近々帝国が魔族に対してまた戦争をおっ始めようとしてるらしい。こっちまで被害が来なきゃいいが...」
レジーナは町に広がる商人達の動向を日常的に時には注意深く観察している。
商人は普段、害を及ぼさない存在だが一度争い事になると裏で絵を書く者やそいつに便乗して利益を無理矢理にでもかき集めようとする輩が多いからだ。
そんな商人達にとって帝国と魔族の戦争は金塊を何度も生み出す素材と同義とも言える
「帝国はいつになったら学ぶの...」
半分呆れた様子でレジーナが返す
ミシュタル帝国は500年の歴史を築き初代皇帝が魔族との戦乱の際に殺されその恨みを晴らすが如く幾度となく戦争を繰り広げている
その戦火は過去、戦後の大陸中を有りとあらゆる導火線で覆うほどに広がっていた
「今回はどうやらお宅の家が多少なりと介入しているらしい」
「出来たよ。ビーツ100%のワイン」
「有難う。」
「そういう事なら私は少し旅に出るよ。町には宜しく伝えといてね。お代は此処に置いとくよ」
「わかったよ。気をつけるんだよ」
出されたワインを一口飲みそう言い残したレジーナは酒場を後にする。
家に戻り最低限の身支度を終え仕立て屋に寄る。
ガチャ
「いらっしゃいませ。恩師様、?さっきぶりですね。新しい服を新調で?」
此処はミラの一家が代々営んでいる町で唯一の仕立て屋だ
「少し旅に出ようと思う。黒の上下が繋がっているスーツで伸縮性と防御に優れている素材で頼みたい」
「そうですか...寂しくなります。黒のスーツ承知しました」
ミラはレジーナが旅に出る事を寂しがりながらも私情と仕事を混同せず請け負った。
「サイズはお変わりありませんか?レジーナ様。」
「ああ。」
「羨ましい限りです。」
「そんなにか?」
「はい。」
採寸をしている時に思いそう言った。それは何年経ってもミラが最初にレジーナを採寸した記憶と記録が寸分なく変化していないためだった
「私はもう老いました。この先はレノンが引き継ぐ事になるのでそろそろ引退ですね」
「ミラはまだまだ大丈夫だよ」
ミラの言葉に安心を預けるかの様にレジーナが返答をする。レジーナから見れば先の酒場のマスターもミラも変わらず我が子と同然なのだ。
「ミラは自分の孫を見れるよ」
「本当ですか?レジーナ様」
「ああ。」
その言葉に絶対的な安心感を覚えたミラは一切の迷い無くスーツを作り上げる。
「出来上がりました。此処で試着はいたしますか?」
「ああ、そうするよ」
「畏まりました。」
ミラが仕立てたスーツを着たレジーナの姿は黒を全面に使い細身の体にもフィットし美しい体格の輪郭をしっかりと捉えていた。
その仕事ぶりにレジーナは大変満足している。黒の持ち前の手袋を嵌める。お代を出そうとした矢先ミラが言う
「お代はお受けできません。」
「そうか...服、有難う。行ってくるよ」
「レジーナ様、行ってらっしゃいませ」
その言葉を後にしレジーナは町を発った
向かった先は世界樹を囲む様に商売が栄える場所、商業都市プラハルだ。その都市は人の行き交いよりも異種族と言われる者達の割合の方が多い所である。
元々その土地はおよそ150年前までエルフと言われる長命種が住まう地であり当時のエルフの長がその土地を大々的に開き人と異種族で管理する自治領として皇室に認められた事で今のプラハムが出来たのだ。
その為主に異種族との争い事が大小様々起こりやすいのも現実問題として今も議論の話題になっている。だがその問題を覆すほどの額がこの都市で生まれているのもまた事実。
その金を見過ごさないのが人類の欲だ。だがレジーナにとってそんな事は気にする価値が無い。
レジーナはプラハムに拠点を置く魔会の場所へと向う。
ガチャ
「いらっしゃいませ、会員証をご提示下さい。」
戸を開けると目の前に窓口があり挨拶をしてきたのは魔会の支部で働く娘だった
ガサゴソ
「これかな...」
レジーナは黒の長方形のバッグを開きうる覚えながらも会員証と思しきカードを渡す
「お預かり致します。吸血種のレジーナ様とお見受けします。この支部では右に続く通路を真っ直ぐ行き、突き当りを右に進むと依頼・雇用などの主に大陸情報を取り扱う情報部署と突き当りを左に進むとシーダント大陸に広がる各魔会支部に繋がる転移門がある転移部署となっております。」
「ああ、有難う」
「良い旅を」
娘は各部署の説明をしてくれた。最もレジーナは過去に来た事があるので説明は不要だったがわざわざ職務に忠実な子の説明に対し嫌味ったらしく言う理由はない。
魔会はその名前に「魔」が含まれる様に人と異種族、果ては魔族を分け隔てなく取り入れておりその信頼から全国に支店を持ち大陸に広がる各皇室からも身を委ねられている
先ずは情報部署に行く事にした。戦が始まるにあたり皇室と魔族の動向を探るためと自身の家の者達の事も...。通路を歩き右に進むと木の一面の板に様々な紙が貼り付けられている
主に魔会は魔術を行使する者達が集まってできた会な為、依頼や雇用が来るのは魔術を必要としている貴族などが該当する
其処には誰かを殺めて欲しいなど物騒な依頼や魔物からの荷馬車の守り人を探していたりとシーダント大陸や稀に別大陸からの依頼など様々な内容がある
所々に魔族や帝国軍の正規軍を募っている依頼もちらほらと...
まだ全面戦争の下準備程度らしい。
人は何かを奪われる場合強い反抗心などそれに伴って生まれる強奪心を利用し民衆を誘導し戦を開戦させる。それは土地であれ人物であれ物であれ様々だ
魔族は逆に奪う事で武勇を極める性質がある。そんな魔族の先走りを誘発する様に侵攻しているのがこの依頼を見渡せば容易に想像はつく
相変わらず帝国というのは好きになれんな。
レジーナはその依頼の数々を目に焼き付け脳裏に刻んだ後、情報部署を後にし向かいの転移部署に移動した。
帝国首都・テロンに繋がる転移門を潜りテロン魔会支部に転移した
プラハムの支部同様過去に訪れた事があった為、思い出しながら進む
ホームに出るとレジーナの記憶のテロン支部とは打って変わって其処は酒場になっていた。
そんな光景を目の当たりにしても動揺せずにカウンターに座り会員証を見せ確認を済ませた後に店を出た
「良い旅を」
「ああ」
景色が変わる事など吸血種のレジーナにとっては日常茶飯事なのだ
帝国の首都は田舎とは違い建物が隙間なく敷き詰められている。レジーナからしてみれば少し生きづらい環境だがそんな事は言ってられない
首都に住まう吸血種の城に着いた。門を潜ろうとした矢先門番に止められる。レジーナは呆れてため息を吐き出し門番達に向かって言葉を放つ
「其処に眠れ」
レジーナの声を聞いた門番の2人は自身の意思とは関係なく睡魔に囚われてしまった。
バタンッ
これでよし。と思い城に足を踏み入れる。この城は首都の中央付近に位置し皇室が目と鼻の先に見える場所に居を構える吸血種の住処だ。
白昼堂々と城に入り吸血種の王が居る場所へ向かう。
ガチャ
「やっぱり此処に居たのか、ベル」
「グスン...グスン...レジーナおばさま?...」
レジーナが訪れたのは城の設備用具などが保管されている棚だった。其処にはベルという吸血種の少女がいた。
「ああ、私だよベル。」
ベルは銀色の髪を靡かせながらレジーナに胸に抱きつく。




