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お迎えまであと10分。働くママの足元には小さな奇跡がある  作者: オレンジ


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傘の下、手をつないで

 会社を出ると、雨は思ったより強かった。

 駅までの道を少し早足で歩きながら、俺はスマホを一度だけ確認する。


 さちからのメッセージは、昼過ぎに来ていた。


〈今日は雨だから、はるのお迎えお願いできる?〉


 その一文を思い出して、自然と口元が緩む。

 きっと、朝の雨の登園も大変だったんだろうな、と思う。


 ――今日も、おつかれさま。


 心の中でそう言いながら、保育園へ向かう。


 玄関のドアを開けると、少し湿った空気と、子どもたちの声。

 もう残っている子は、ほんの少しだけだ。


「はるちゃん、パパ来たよ」


 先生の声に反応して、ぱっと顔を上げる小さな影。


「パパー!」


 にこにこで駆け寄ってくる。

 この瞬間だけで、今日の疲れは全部どうでもよくなる。


「おかえり」


「パパ、みて!ながぐつ!」


「ほんとだ。雨の日仕様だな」


 手をつなぐと、少しひんやりしていて、でもすぐに温かくなる。


 外に出ると、雨は相変わらず降っていた。

 傘を広げて、はるの歩幅に合わせる。


「パパ、みずたまり!」


 予想どおり、足が止まる。


「ちょっとだけね」


「やったー!」


 ぴちゃ、ぴちゃ。

 長靴が水をはねるたび、はるは嬉しそうに笑う。


「さちも朝、大変だったかな」


 ぽつりと口に出すと、はるは首をかしげる。


「ママ、あめ、きらい?」


「うーん、嫌いじゃないけど、忙しいと大変かな」


「じゃあ、かえったら、ぎゅーする」


 その一言で、胸の奥がじんわり温かくなる。


「それ、いいね」


 家が近づくころ、はるは少し眠そうになってきた。


「おうちついたら、パパとおふろはいろ」


「うん。あったかいね」


「歌も歌おうか」


「かえるのうた!」


 それはもう雨の日じゃなくなるやつだな、と思いながら笑う。


 玄関の鍵を開けると、家の中は静かだった。

 たぶん、さちは少し休んでいる。


 ――今日は、俺の番。


 そう思いながら、濡れた長靴を揃える。


 傘の下で手をつないで帰ったこの時間が、

 きっと、さちにとっても、はるにとっても、

 ちゃんと意味のある一日になっている。


 そう信じられる夜だった。



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