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お迎えまであと10分。働くママの足元には小さな奇跡がある  作者: オレンジ


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雨の日の登園

 朝から、雨の音がしていた。

 窓を叩く、やわらかい音。


「ママ、あめー!」


 はるは、カーテンを開けるより先に長靴を探し始めている。

 雨の日は、はるにとって特別な日だ。


「みずたまり、あるかなあ」


「あると思うよ。でもね、今日はゆっくりしすぎないでね」


 そう言いながら、さちはタオルを1枚多めにバッグへ入れた。

 着替えも、いつもより念入りに確認する。


 玄関を出ると、アスファルトがつやつやしていた。

 はるは案の定、水たまりを見つけて立ち止まる。


「じゃんぷ!」


 ぴちゃっと跳ねた水が、少しだけズボンに飛ぶ。


「もう、はる。濡れちゃうよ」


 言いながらも、声は強くならない。

 楽しそうな顔を見ると、どうしても。


 でも、時間は待ってくれない。

 頭の中で、今日の予定が流れる。


 ――ちょっと急がないと。


「はる、そろそろ行こうか」


「もう1かい!」


 そのやり取りを、あと何回か繰り返して、

 ようやく保育園が見えてきた。


 入口で、先生が笑顔で迎えてくれる。


「おはようございます」


「おはようございます。雨の日、うれしいみたいで」


 さちは苦笑いしながら、はるのリュックを下ろす。


「ママ、いってきます!」


「うん、いってらっしゃい。いっぱい遊んでね」


 ぎゅっと抱きしめると、はるはすぐに手を振って、部屋の中へ走っていった。

 振り返らない、その後ろ姿。


「……よし」


 小さくつぶやいて、さちは踵を返す。


 雨はまだ降っている。

 でも、さっきより少しだけ、軽く感じた。


 バッグを持ち直して、歩く速度を上げる。

 心はもう、仕事のほうへ向かっている。


 ――雨の日は大変。

 でも、こういう朝も、悪くない。


 さちは、濡れた道をまっすぐ進んでいった。



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