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お迎えまであと10分。働くママの足元には小さな奇跡がある  作者: オレンジ


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いつもの場所に戻ってきた朝

 朝の空気は、少しだけひんやりしていた。

 さちは、はるの小さな手を握りながら、保育園までの道を歩く。


「はる、もうだいじょうぶ?」


「うん! げんきー!」


 昨日までの熱が嘘みたいな声。

 その元気さに、胸の奥がふっと緩む。


 保育園の門をくぐると、先生が笑顔で迎えてくれた。

 体調のことを簡単に伝えて、はるの背中をそっと押す。


「いってきます、ママ!」


 振り返って手を振る姿を見届けてから、さちは深く一度、息をした。


 ――よし。


 駅へ向かう途中、スマホが震える。


『はる、元気そうでよかったね。無理しないでね、さち』

『今日は俺、少し早く帰れそう』


 短いLINEなのに、それだけで心強い。

 さちは小さく「ありがとう」と呟いて、画面を閉じた。


 会社に着くと、いつものデスク。

 席に荷物を置いた瞬間、隣の同僚が声をかけてくれる。


「昨日大変だったね。うちもこの前、熱出してさ」


「子どもなんて、しょっちゅうだよね」


 別の席からも、そんな声が飛んでくる。


「仕事のことは気にしないで。代わりは何とかなるから」


 その言葉に、さちは胸の奥がじんわり温かくなる。


「ありがとうございます」


 それだけ言うのが精一杯だった。


 パソコンを立ち上げて、キーボードに手を置く。

 昨日までの慌ただしさが、少しずつ遠ざかっていく。


 ここに戻ってきた。

 でも、ちゃんと守れた。


 さちは画面を見つめながら、静かに思う。

 仕事も、家族も、どちらも大切で。

 そのどちらかを想って悩む自分も、きっと悪くない。


 デスクの上に差し込む朝の光が、やさしかった。



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