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お迎えまであと10分。働くママの足元には小さな奇跡がある  作者: オレンジ


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おとなのばしょ

「きょうはね、ママの用事につきあってもらってもいい?」


そう言うと、はるは少し考えてから、こくんとうなずいた。


「うん。はる、いく」


最初に行ったのは、役所。

大きな建物で、ひんやりしていて、声も小さめ。


「ここ、えほんないね」


「ないね。ここはね、おとなの人がお話するところなんだ」


番号の書いた紙をもらって、椅子に並んで座る。

周りは知らない大人ばかり。


はるはさちの腕をぎゅっとつかむ。


「ママ、ここ、しずかすぎる」


「そうだね。ちょっとドキドキするよね」


順番を待つ間、はるは天井を見たり、足をぶらぶらさせたり。

電光掲示板の数字が変わるたび、首をかしげる。


「なんで、かず、かわるの?」


「うーん、みんなの番を教えてくれてるんだよ」


「むずかしいね」


役所を出ると、はるはふうっと息をはいた。


「おとなのとこ、たいへんだね」


「そうなの。ちょっと大変なんだ」


次は銀行。

ここも、静かで、待つ時間が長い。


「ここも、ママのおしごと?」


「お仕事じゃないけど、大事な用事かな」


はるは窓口の向こうをじっと見てから、ぽつりと言う。


「はる、まってるの、がんばってるよ」


その言葉に、さちは思わず笑ってしまう。


「ほんとだね。すごく助かってるよ」


全部終わって、外に出ると、空気が少しあたたかい。

はるの表情も、ふっとゆるんだ。


「つぎは?」


「最後にね、スーパー行こうか」


「やった」


スーパーに入ると、急に足取りが軽くなる。

かごを持って、はるは楽しそうに歩く。


「ママ、これ、すき」


「これは今日は買わないかな」


「じゃあ、こっちは?」


レジに向かう前、さちはお菓子売り場で立ち止まった。


「今日は、いっぱいつきあってくれたからね」


はるの目が、ぱっとひらく。


「いいの?」


「いいよ。ひとつだけね」


しばらく悩んで、はるは一つ選ぶ。


「これにする!」


レジを出るころには、はるは袋を大事そうに抱えていた。


「おとなのとこ、むずかしかったけどね」


「うん」


「でも、おかし、うれしいね」


そう言ってにっこり笑うはるを見て、

さちは「ありがとう」を心の中で何度も言った。



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