まだかな、の夜
夕ごはんを食べ終えて、テーブルを片づけながら、
はるは時計をちらっと見た。
「……パパ、おそいね」
さちは手を止めて、はるの方を見る。
「そうだね。今日はちょっと遅くなるって言ってたよ」
「ふーん」
はるはうなずきながらも、なんとなくリビングを見回す。
いつもなら聞こえてくる足音が、今日はまだ来ない。
絵本を読んでいても、
おもちゃで遊んでいても、
ふとした瞬間に玄関の方を見てしまう。
「まだかなあ」
小さな声で言うはるに、さちは笑って答える。
「もうすぐかもよ」
そのとき、ガチャッと玄関の音がした。
「……!」
はるの顔がぱっと明るくなる。
「パパだ!」
はるはスリッパもそのままに、玄関まで駆けていく。
「パパー!おそかったね!」
「ただいまー!」
パパは少しかがんで、はると目を合わせる。
「おそくなってごめんな。待ってた?」
「うん。ちょっとだけね」
そう言いながら、はるはパパの服をぎゅっとつかむ。
「そっか。ありがとうな」
パパははるを抱き上げて、くるっと一回まわる。
「今日ね、はるのこと考えながら帰ってきたんだよ」
「ほんと?」
「ほんと。はる、なにしてた?」
「えっとね、ごはんたべてね、えほんよんでね、
でもね、パパこないなーっておもってた」
パパは少し笑って、はるの頭をなでる。
「そりゃそうだよな」
リビングに戻ると、さちが「おかえり」と声をかける。
「遅くまでおつかれさま」
「ただいま。はる、ちゃんと待っててくれたんだよ」
パパがそう言うと、はるはちょっと照れた顔をした。
「パパ、あのね」
「ん?」
「あしたはやくかえってこれる?」
「うーん、明日はね……今日より早い!」
「やった!」
その一言で、はるはすっかり満足したようだった。
寝る前、布団に入ってからも、
はるはパパの手をぎゅっとにぎる。
「パパ、きょうかえってきてくれてありがとう」
「こちらこそ、待っててくれてありがとう」
そのまま、はるの呼吸はゆっくりになっていった。
さちはその様子を見ながら、
“遅い夜も、ちゃんとつながってるんだな”と、
静かに思った。




