花火の帰り道
家を出る前から、はるはそわそわしていた。
浴衣のすそをちょんとつまんで、鏡の前でくるっと回る。
「ママ、これ、どう?」
「うん、すごく似合ってる」
「ほんと? ねえパパも見て!」
パパは笑ってうなずく。
「かわいいよ。お祭り、楽しみだね」
「うん! たのしみ! はやくいこ!」
玄関を出ると、いつもと違う夜の空気。
遠くから聞こえる太鼓の音と、甘い匂いに、はるはぎゅっと手を握る。
「なんかね、ドキドキするね」
「お祭りの音だね」
「ねえ、あれなに? あれもおみせ?」
屋台が並ぶ道に着くと、はるの目は忙しく動き出す。
色とりどりの提灯、光るおもちゃ、湯気の立つ鉄板。
「ねえ、きんぎょ!」
「くじもある!」
「ママ、パパ、みてみて、あれ!」
さちとパパは顔を見合わせて、自然と笑う。
こんなふうに全部が新鮮なんだな、と。
金魚すくいでは、はるは真剣な顔でポイを水に入れる。
すぐに破れてしまって、少しだけ口をとがらせた。
「あ…」
「でもね、たのしかった!」
「そうだね、挑戦したもんね」
くじ引きは、紐を引く前からにこにこだ。
「どれかな〜」
「これにする!」
結果は小さなおもちゃだったけど、はるは大事そうに握る。
「これね、かえったらかざるの」
お好み焼きを三人で分けて食べる。
はるはほっぺたをふくらませて言う。
「おいしいね」
「お祭りの味だね」
「またたべたいね」
そのとき、空に音が響いた。
ドン、という音に、はるは一瞬びくっとして、すぐに空を見上げる。
「…あ!」
大きな花火が、夜空に広がる。
はるは何も言わず、ただぎゅっと手を握った。
光が消えるたび、また次を待つ。
「きれいだね」
「うん……すごいね」
静かだけど、はるの表情はいっぱいだ。
さちはその横顔を見て、胸があたたかくなる。
帰り道、はるは少し眠そうで、でも足取りは軽い。
「ねえ、きょうね、たのしかった」
「うん、楽しかったね」
「またいきたいね」
パパが笑って言う。
「また来年も行こう」
「うん。やくそくね」
家に着くころ、はるは半分夢の中。
浴衣のまま、さちはそっと声をかける。
「楽しい夜だったね」
返事はなかったけれど、はるの口元は、まだ少し笑っていた。




