「きょうは、たのしかったよ」
保育園のお迎えの時間。
さちは少し早足で門をくぐった。
朝のことが、まだ胸の奥に残っている。
あんな顔で送り出してしまったな、と。
「はるちゃんのママ」
先生の声に顔を上げると、にこっと笑ってくれた。
「今日は大丈夫でしたよ。
最初は少し静かでしたけど、きょうごくんと遊び始めてからは、いつも通りでした」
その言葉に、さちの肩からふっと力が抜ける。
「ほんとですか……」
「ええ。
お昼もよく食べて、外遊びも楽しそうでした。
安心して、お仕事頑張ってくださいね」
その一言が、胸にじんわり染みた。
靴箱の方を見ると、はるがちょうどこちらに気づいた。
「ママー!」
ぱたぱたと駆け寄ってきて、ぎゅっと抱きついてくる。
「きょうね、きょうごくんとね、
おままごとしたの!
はる、ケーキつくったんだよ!」
目をきらきらさせて話すはるに、さちはしゃがんで顔を合わせる。
「そうなんだ。楽しかった?」
「うん!
あとね、せんせいにね、
“じょうずだね”っていわれた!」
少し誇らしそうに胸を張るはる。
「そっかぁ。はる、がんばったんだね」
そう言うと、はるはにへっと笑って、さちの手をぎゅっと握った。
帰り道、はるは今日の出来事を次から次へと話してくれる。
その声を聞きながら、さちは朝の後ろめたさが、少しずつほどけていくのを感じていた。
――ちゃんと、自分の一日を過ごしてきたんだ。
家の前に着くころ、はるがぽつりと言う。
「ママ、
あさは ないちゃって ごめんね」
さちは立ち止まって、はるを抱き寄せる。
「いいんだよ。
それでも、ちゃんと行けたでしょ」
「うん」
小さくうなずくはるの頭を、そっとなでた。
今日は、いっぱい甘やかそう。
そう思いながら、さちは玄関のドアを開けた。




