はるの「なんで?」
朝の支度をしていると、はるが窓の外を見ながら聞いてきた。
「ママ、なんでくもってうごくの?」
急に来た「なんで?」に、さちは一瞬手を止める。
「風が押してるんだよ」
そう答えると、はるは少し考えて、また聞く。
「じゃあ、かぜはなんであるの?」
次から次へと続く「なんで?」に、さちは思わず笑ってしまう。
「うーん、むずかしいねえ」
そう言いながらも、はるの目はまっすぐで、ちゃんと答えを待っている。
保育園への道でも、はるの「なんで?」は止まらない。
「なんででんしゃははしるの?」
「なんでママはおしごといくの?」
その一つひとつが、今のはるにとっては大事な疑問なんだと思うと、さちはなるべく言葉を選んで答えた。
保育園では、先生にも「なんで?」をぶつけていたらしい。
「今日は“なんで?”がいっぱいでしたよ」
お迎えのとき、先生が少し嬉しそうに教えてくれた。
帰り道、はるは手をつなぎながら、ぽつりと言う。
「ママは、なんでもしってるね」
さちは少し驚いて、すぐ首を振る。
「ママもね、わからないこといっぱいあるよ」
「じゃあ、いっしょにかんがえようか」
はるはそれを聞いて、にこっと笑った。
「うん!」
その日の夜、布団に入っても、はるの「なんで?」は続く。
でもだんだん声は小さくなって、最後は途中で止まった。
寝息を立て始めたはるの顔を見ながら、さちは思う。
答えを全部用意しなくてもいい。
こうして一緒に考える時間そのものが、きっと大事なんだと。
そっと布団をかけ直しながら、さちは小さくつぶやいた。
「明日は、どんな“なんで?”が聞けるかな」




