夕ごはんの時間
夕方、キッチンから聞こえるフライパンの音。
今日は特別なことはない、いつもの平日。
テーブルの上には、湯気の立つお味噌汁と、焼き色のついたおかず。
さちは最後にお皿を並べながら、リビングの方を見る。
「はるー、ごはんできたよ」
「はーい!」
ぱたぱたと足音がして、はるが椅子によじ登る。
エプロンはしていないけれど、ちゃんと“お手伝いした気分”の顔。
「きょうね、ほいくえんでね、ぞうさんのえほんよんだの」
「そうなんだ。ぞうさん、大きかった?」
「うん!おおきかった!このくらい!」
はるは両手を思いきり広げる。
さちは思わず笑って、パパも箸を持ったままうなずく。
「この前、動物園で見たもんね」
その一言に、はるは少しだけ考える顔をしてから、にこっと笑う。
「うん。みたね」
それ以上は何も言わないけれど、
その笑顔はちゃんと前を向いている。
「いただきます」
三人で声をそろえると、部屋の空気がやわらかくなる。
はるは一口食べて、すぐに言う。
「おいしい!」
その一言で、今日一日の疲れがすっと抜ける気がする。
特別な出来事はないけれど、
こうして同じテーブルを囲んで、同じ時間を過ごす夜。
さちは、はるの小さな背中を見ながら思う。
日常は、ちゃんと続いている。
そしてきっと、これでいい。




