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お迎えまであと10分。働くママの足元には小さな奇跡がある  作者: オレンジ


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はるとパパでがんばる日

 キッチンの方から、ひそひそ声が聞こえてきた。


「今日はね、ママ、ちょっと体調が悪いんだ」


「え……?」


 布団の中で、さちは目を閉じたまま耳を澄ます。


「だから今日は、いっぱい休ませてあげよう」


「はる、できるよ!」


 少しだけ、張り切った声。


「そうだね。じゃあ、はるにお願いしていい?」


「うん! まかせて!」


 その会話を聞いたところで、さちはふっと力が抜けた。

 大丈夫だ、と胸の奥で思える。


 少しして、はるがそっと部屋に入ってくる。


「ママ……だいじょうぶ?」


「うん、ちょっとね。でも、休んだら元気になるよ」


 そう言うと、はるは大きくうなずいた。


「じゃあね、はる、しずかにするね」


「ありがとう」


「おふとん、ちゃんとかけてある?」


「うん、ばっちり」


 それだけ確認すると、はるは小さな声で「いってきます」と言って、部屋を出ていった。


 玄関の音。

 ドアが閉まる音。


 そのあと、家の中は静かになったけれど、

 ときどき聞こえる生活の音が、やけに安心だった。


 洗濯機の回る音。

 キッチンでお湯を沸かす音。

 パソコンのキーボードを打つ音。


 さちは、そのひとつひとつを聞きながら、また眠りに落ちた。


 どれくらい眠っていたのか分からない。

 目を覚ましたとき、窓の外は少しだけオレンジ色になっていた。


「ただいまー!」


 はるの声。

 そのすぐあと、ぱたぱたと足音が近づいてくる。


「ママ! かえってきたよ!」


「おかえり」


「ね、はるね、きょうね、ちゃんとがんばったんだ   よ」


「うん、聞いてる」


「おともだちにもね、ママおやすみって言ったの」


「そうなんだ」


 はるは誇らしそうだった。


「ママ、もうだいじょうぶ?」


「うん、だいぶ良くなったよ」


 そう言うと、はるはほっとした顔で笑った。

 少し遅れて、パパが顔を出す。


「起きてた?」


「うん、ちょうど今」


「お昼も起こさなかったんだけど、よく眠ってたよ」


「ありがとう」


「はる、すごく張り切ってたんだよ」


「はるね、ママのこと、まもるの」


 その言葉に、さちは思わず笑ってしまった。


「ありがとう。すごく助かったよ」


「えへへ」


 その笑顔を見ていると、胸の奥がじんわり温かくなる。


 薬よりも、眠るよりも、

 何より効いたのは、このやさしさだった。



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