大丈夫、まかせて
朝、さちは少しだけ頭が重いのを感じながら、キッチンに立っていた。
気のせい、気のせい。
そう思いながら、いつも通り朝ごはんの準備をする。
フライパンの音と、お味噌汁の湯気。
体はちゃんと動いているし、まだ大丈夫。
「……さち?」
後ろから声がして、振り向くとパパが立っていた。
さちの顔を見て、すぐに眉をひそめる。
「ちょっと、顔色よくないよ」
「大丈夫だよ。たぶん寝不足なだけ」
そう言いながら笑ってみせると、パパは首を横に振った。
「今日は無理しないで。仕事、休みなよ」
「え……でも」
「オレも仕事調整する。今日は在宅にするから。さちは休んでて」
迷いなく言われて、胸の奥がすっと軽くなった。
誰かに「休んでいいよ」と言ってもらえるだけで、こんなに安心するんだ。
そのとき、寝室から小さな足音がして、はるが顔を出した。
「ママ……?」
いつもと少し違う空気を、ちゃんと感じ取っている顔だった。
「ママね、ちょっとおやすみするの」
「だいじょうぶ?」
心配そうに聞かれて、さちはしゃがんで目線を合わせる。
「だいじょうぶだよ」
「じゃあ、はるがやる!」
急に胸を張って言う。
「ママ、ねてて! はるが、パパとがんばるから!」
その言葉が、胸にじんわり染みた。
パパとはるは一緒に保育園へ出かけていった。
玄関のドアが閉まって、家の中が静かになる。
布団に戻ると、遠くで洗濯機の音がした。
キッチンから、食器を片づける音も聞こえる。
ああ、ちゃんと回ってる。
私が休んでも、大丈夫なんだ。
そのまま、深く眠ってしまった。
どれくらい眠ったのか分からない。
目を覚ましたとき、外の光が少し傾いていた。
そして――
「ただいま!」
はるの声が聞こえた。
少しして、寝室のドアがそっと開く。
「ママ、だいじょうぶ?」
近づいてきたはるが、小さな声で聞いてくる。
「うん。いっぱい寝たよ」
そう言うと、はるはほっとした顔をして、にこっと笑った。
「よかった。はるね、ちゃんとがんばったよ」
その言葉に、胸がいっぱいになる。
さちは、はるの頭をそっとなでた。
――今日は、ちゃんと休めた。
それは、みんながそばにいてくれたから。
はるは、さちの手をぎゅっと握りながら、安心したように立っていた。




