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お迎えまであと10分。働くママの足元には小さな奇跡がある  作者: オレンジ


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ただいまのあとで


「ただいま」


 玄関のドアを開けた瞬間、目に入った。

 棚の上に、立てかけるように置かれた一枚の絵。

 少しはみ出した線と、にじんだ色。

 でも、迷いなく描かれた三つの丸。


 ――あ。


 それだけで、胸があたたかくなる。


 靴を脱いでいる途中で、ぱたぱたと足音がして、

 次の瞬間、はるが飛び込んできた。


「パパー! みてみてー!」


 両手で絵を持ち上げて、胸を張る。

 その顔が、もう全部を物語っていた。


「これね、はるがかいたの!」


「そうなんだ」


 しゃがんで目線を合わせると、

 はるは指で一つひとつをなぞる。


「これが、はるでね。

 こっちがママで、こっちがパパ!」


 少し歪んだ線も、色のはみ出しも、

 全部が愛おしい。


「すごいなあ。ちゃんと三人いるね」


 そう言うと、はるはえへへ、と照れたように笑った。


「せんせいがね、じょうずっていってくれた!」


「そっか。パパもそう思うよ」


 頭をなでると、はるはさらに嬉しそうに、

 絵をぎゅっと抱えた。

 その様子を、キッチンからさちが見ている。

 目が合って、ふっと微笑んだ。


「今日、保育園で描いたんだって」


「うん。帰ってきてから、ずっと楽しみにしてた」


 はるはもう一度、絵を持ち上げて言う。


「ごはんのときも、はなそうね!」


「いいね」


 その日の夕ごはんは、

 自然とその絵の話になった。


「この色、はるがえらんだの?」


「うん! ママはね、ピンク!」


「パパはこれか。青だね」


「パパ、あおすきでしょ?」


 小さな会話が、ぽつぽつと続く。


 特別なことは何もない。

 でも、胸の奥がじんわりする。


 食後、絵はリビングの壁に貼られた。

 少し斜めになったまま。

 それが、なんだかちょうどよかった。


 今日も一日、いろんなことがあった。


 でも、最後にこれが待っていたなら、

 それだけで十分だと思えた。


 パパは、もう一度その絵を見て、

 心の中でそっと言う。


 ――いい一日だったな。



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