お迎えの時間
保育園の門をくぐると、園庭はもう静かだった。
昼間のにぎやかさが嘘みたいに、夕方の空気が落ち着いている。
「迎え遅くなりましたー」
少し息を切らして、さちは声をかけた。
「お疲れさまです」
先生がにこっと笑ってくれる。
その笑顔を見ただけで、肩の力が少し抜けた。
部屋の中には、子どもが二人だけ残っていた。
ひとりは、さちの娘のはる。
もうひとりは、ゆう君だ。
はるは、積み木を並べながらこちらを見て、ぱっと顔を明るくした。
「ママ!」
その一言で、今日の疲れがすうっと溶けていく。
本当に、不思議なくらい。
「お待たせ」
しゃがんで目線を合わせると、はるは嬉しそうにうなずいた。
「うん! はるね、ちゃんと待ってたよ!」
誇らしげな声だった。
横を見ると、ゆう君は静かに車のおもちゃを動かしている。
帰りを待つ時間にも、もう慣れているみたいで、少し胸がきゅっとした。
――ゆう君のパパもママも、きっと今、頑張ってる。
仕事だったり、家のことだったり。
誰かを迎えに行くために、急いでいる途中かもしれない。
はるの手をつなぎながら、さちは心の中で思う。
大丈夫。
ちゃんと迎えは来るよ。
「じゃあ、帰ろっか」
そう言うと、はるは大きくうなずいた。
「うん! ママと帰る!」
保育園を出ると、空はやさしい色に染まっていた。
夕焼けの下、二人分の影が並んで伸びる。
はるは、つないだ手をぶらぶら揺らしながら、今日あったことを話し始めた。
おやつのこと。
お昼寝のこと。
ゆう君と遊んだこと。
さちは「うんうん」と相づちを打ちながら、その声を聞く。
それだけで、もう十分だった。
今日も、ちゃんと一日が終わった。
そう思える帰り道。
さちは、はるの小さな手を、少しだけ強く握った。




