楽しんできてね
目覚ましが鳴るより少し早く、さちは目を覚ました。
外はまだ静かで、カーテンの向こうはうっすら明るい。
今日は、はるの遠足の日。
キッチンに立ってエプロンをつけると、自然と口元がゆるむ。
冷蔵庫を開けて、中をのぞく。
「えーっと……」
昨日の夜に考えていたメニューを、頭の中で確認する。
はるの好きな卵焼き。
小さなおにぎり。
それから、リクエストされたウインナー。
フライパンで卵を焼きながら、
はるが「これ好き!」って言ってくれた顔を思い出す。
――喜んでくれるかな。
お弁当箱に詰めるとき、少しだけ配置を考える。
詰め直して、また考えて。
誰に見せるわけでもないのに、つい丁寧になる。
途中で起きてきたはるが、眠そうな目でキッチンをのぞいた。
「ママ、おべんとう?」
「そうだよ。もうすぐできるよ」
「やったー」
その一言で、胸の奥がふわっとあたたかくなる。
支度を終えて、いつもより少し大きなリュックを背負ったはる。
玄関で靴を履きながら、何度も遠足の話をしてくれる。
バスに乗ること。
公園に行くこと。
お友だちと遊ぶこと。
保育園の前で、はるは振り返って手を振った。
「いってきます!」
「いってらっしゃい。楽しんできてね」
そう言いながら、さちは心の中でもう一度つぶやく。
――たくさん笑ってきてね。
はるの背中を見送りながら、
さちは今日一日を、静かに思い描いていた。




