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第八話


『シンニュウシャ、排除、排除、ハイジョスル!』


「先ほどから聞いていれば、一方的なやつめ! アズレルはエミリオ殿とリゼットのフェザーシップを頼む。なんなら、そこらの邪魔者は適当にかじってもかまわん!」


「わーい!」


「ま、待ってルカ君! せめてなにか……こいつらの手がかりだけでもっ!」


 壁空の神殿最深部。


 突如として現れたゴーレムと飛行機械の群れを前に、ルカはその手に竜槍アズライトを構えて戦闘態勢。

 だがしかし、下がるように言われたエミリオは腰を抜かしながらも散乱する機械に必死に手を伸ばした。


「この調査にはレジェールの……! 僕達みんなの命がかかってるんだ! だから――!」


『シンニュウシャ、排除セヨ!』


「ひえっ!?」


 だがそんなエミリオを、現れた機械兵達は見逃しはしない。

 コウモリ型の飛行機械の眼光が赤く輝き、鋭い牙のような刃を展開。

 十を超えるメカコウモリが一斉にエミリオ目がけて襲いかかる。だが――。


「お兄様には!」


「指一本触れさせん!」


 またたく閃光。

 そして炸裂する銃声。

 

 エミリオを狙うメカコウモリはその半分がルカの斬撃によって。

 残る半分はリゼットのダブルリボルバーによって爆発四散する。


「さすがだ、リゼット!」


「ルカだって!」


 それが開戦の合図だった。

 初撃でエミリオに迫るメカコウモリを粉砕したルカとリゼットは、そのまま一度背中合わせになって合流。

 互いに笑みすら浮かべて頷き合うと、ルカは巨大ゴーレムに、リゼットは残る多数のメカコウモリの群れへと突撃する。


『排除! シンニュウシャ、排除スル!!』


「くるか――!」


 突撃したルカに対し、ゴーレムは見上げるほどの巨体から渾身の振り下ろしハンマーパンチ。

 それはもし直撃すれば、生身の人間どころかフェザーシップですら木っ端微塵になるほどの一撃だ。しかし――。


「遅すぎるぞ、ゴーレム!」


『ピ、ピ……!?』


 だがルカはそのパンチをわずかな身のこなしで回避。

 同時に振り下ろされた腕に飛び乗ると、光刃ほとばしる竜槍を構えて一気にゴーレムの肩まで駆け上る。


「誇り高き竜騎士は、ドラゴンに乗っていなくても普通に強い! 覚えておけ!!」


『ピーガガー!?』


 竜槍一閃。

 放たれたルカの一撃によって、巨大なゴーレムの右腕は跡形もなく消滅した。


「ていていてーーーーい! どんどんやっちゃいますよーっ!」


『ピガーー!?』


 一方、メカコウモリの群れに飛び込んだリゼットはまるでリズムでも取るように、社交界の場で踊るダンスのような身のこなしで大口径リボルバーを撃って撃って撃ちまくる。


『ピガ!』


『ピ!』


『ピ、ピガヂュ!』


「舞と共に撃ち、撃つと共に舞う――! レジェール王家にとって、〝護身ガンカタ〟は必修科目みたいなものです! さあさあ、次に私と踊ってくれるのはどちらのコウモリさんですか!?」


「それ違うからね!? 同じ王族でも僕は全然そんなことできないからね!?」


 一般的な拳銃をはるかに越える威力の弾丸が次々と放たれ、メカコウモリの鋼鉄の装甲を紙切れのように粉砕。

 戦場となった祭壇の間にリゼットの銃声が心地よく響き、その音が轟く度にメカコウモリの数が確実に減っていく。


 本来、リゼットのような小柄な少女が大口径リボルバーを扱うことは不可能だ。


 しかしリゼットは屈強な大男でも扱いに難儀するそれを片手で一丁ずつ、同時に二丁制御し、しかもふわふわと舞い踊りながら容赦なく連射。

 放たれた全ての弾丸は正確にメカコウモリを撃ち抜き、さらにリゼットは射撃の反動を利用して急旋回、急加速、超跳躍と、まるで跳ね回る子猫のような動きでコウモリを翻弄。


 リロードにおいても全く隙がなく、服の袖口に忍ばせた弾薬ベルトから空になった薬室(チャンバー)に一瞬で弾込めを完了するプロっぷりだ。


『ピ、ピガガー!? シンニュウシャ……戦闘力、最高レベル……排除、排除……ハイジョ……デキナイ!?』


「俺達を甘く見たな! 決めるぞ、リゼット!」


「いつでも!」


 戦闘開始からたったの数十秒。

 メカコウモリを全滅させたリゼットとルカは再び合図を交わすと、最後に残った巨大ゴーレムめがけ左右から同時に加速する。


「これで――!!」


「――終わりですっ!!」


『ピ、ガーーーー!?』


 響き渡る銃声と、ほとばしる光の刃。

 哀れなゴーレムは頭部をリゼットの弾丸で吹っ飛ばされ、その一瞬後に飛び込んできたルカの竜槍によって一刀両断。

 

 断末魔の機械音声を発してゆっくりと倒れた後、ど派手な火柱となって爆発した。


「よし! 今日も俺達の完全勝利だ!!」


「私達に戦いを挑んだこと、雲の下で後悔してください!」


 それは、これまで何度も繰り返してきた〝二人の流儀(やりかた)〟。

 ルカとリゼットはゴーレムの爆炎を背景に肩を並べると、二人で〝謎の決めポーズ〟を取って勝利の余韻に浸った。


「ひ、ひええええっ……! リゼットがとんでもなく強いのは知ってたけど、ルカ君もこんなに強いなんて……! っていうか、君達どうしてそんなに息ぴったりなの!?」


「むふふ、びっくりしました? でも、ルカの本気はもっともーっと凄いんですよっ!」


「いや、俺もまだまだだ。そもそも、この場所に来た時点であのゴーレムの殺気に気付けていれば……!」


「殺気ってなに!? もしかしてルカ君って、どこかの冒険小説の住人なの!?」


 常人なら挑むことも戦うこともできないような機械兵を相手に、平然と互いの健闘を称え合うルカとリゼット。

 そんな二人に一般常人枠のエミリオは全力で疑問を呈するが、そこにアズレルののんびりとした声が響いた。


「ねーねー! みんな終わったーって感じになってるけどー、なんか〝外からも敵っぽいのがいっぱい〟集まってきてるみたいだよー?」


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