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第七十八話


「――晴れたな。さすが俺の子……ルカとリゼットは、見事にやり遂げたようだ!」


「あのお姫様はそうでも、ルカは違うだろ……って、もしかして〝そういうこと〟か? なるほどなー……俺もそろそろ婚活とかしてみるかー?」


 極点から広がった終末の黒雲。

 停戦に同意した同盟の要塞からその空を眺めていたガイガレオンとレターナは、絶望そのもののような黒雲がほどけ、その先で天に伸びる光の柱を見た。


「これで最果ての空も終わりってわけか……なら、使えるお宝でもないか早速見てくるとするかな」


「待てレターナ。連合の総統ゼノンは、お前達クリムゾンフリートにも和平を申し出たいと言っていた。連合が裏で行っていた各地の水資源枯渇行為……その賠償と再建もさせてほしいと」


「へぇ……どういう風の吹き回しかは知らないが、そういうことなら聞いてやらなくもないぜ。けどな――!」


 ガイガレオンからゼノンの意志を伝えられたレターナは驚き、しかしそのまま司令室のバルコニーを飛び越えて空中へと飛び出す。


「謝りたいって言うのなら、ちゃんと俺達のとこまで来て直接謝るんだな! お前を使いっぱにして悪いが、あいつらにもそう伝えといてくれ!」


「はっはっは、それはそうだ! また会おう、古い友よ。今度は、美味い酒でも飲み交わしながらな!!」


「おう! ルカにもよろしくなーっ!」


 飛び出した先。

 出迎えに来たソードダイヤのフェザーシップに飛び乗ると、レターナはその幼さが残る横顔に満面の笑みを浮かべ、漆黒のロングコートをなびかせながら、澄み渡る青空の中を去って行った。


 ちなみに、この戦いから数年後。


 なにがどうなってそうなったのかは不明だが、名実共にパーフェクトな名君に成長した連合の総統ゼノンが生涯の伴侶として婚姻を申し込んだ相手は、〝出自不明で元空賊の大女傑らしい〟という噂がまことしやかにささやかれたという――。


 ――――――

 ――――

 ――


「フフフ……この星を支えてきた超古代技術の遺産は、全て星の彼方に旅立ってしまったと、そういうことですか……たしかにここにはもう、美しい土地以外なーんにも残ってません!! 私が半生をかけた完璧な予想も計算も、すべて外れてしまいましたよ……! ふ、フフフ……っ!」


「あの空に飛んでいったドラゴンの群れが、ずっと僕達を守ってくれていたなんて……なんだか不思議だね……まあ、フィンは残念だったかもしれないけど……」


 かつて、最果ての空があった場所。

 急激な上昇気流は今も存在していたが、そこに上乗せされていた嵐は完全に消え去っている。

 後に残るのは、数千年にわたって人の手から隔絶された動植物の楽園。


 ルカとリゼットの後を追ってその地に到達したゼノン、フィン、ルーナ。

 そしてフェリックスとココノにユウキといった〝いつメン〟達は、広々とした草原の上にそれぞれの愛機と共に舞い降り、互いの無事を喜んでいた。


「お怪我はありませんかルカさぁああああんっ!? たとえルカさんがリゼットさんと結ばれても、僕の憧れはずっとルカさんですからねっ!!」


「ありがとうフェリックス! こうして無事に再会できたのも、フェリックスがアークホエールをここまで連れてきてくれたおかげだ!!」


「ちょっと! 私達だって頑張ったんだから、少しはねぎらってくれてもいいんじゃないの?」


「いいじゃねーかココノ。それに俺達も速攻でルカを追いかけたおかげで、この最果ての空を飛んだ最初のメンバーの一人になれたんだ。俺達フェザーシップ乗りにとっちゃ、一生物の勲章だぜ」


「そんなの興味ないですから! 今回だって、リゼットはあの荒れ狂う最果ての空に迷わず飛び込んで、本当に飛んで見せた……いつか、私もそうなりたい! そしてそうなったら、今度こそ私が勝つから! 覚えておきなさいリゼット!!」


「うんっ! 楽しみにしてるね!」


 それは、いつもと変わらぬ

 空に生きる者達の光景。


 終わりも始まりもない。


 これからも続く、この空の景色だった。

 そして――。


「スヴァルト……っ!」


「心配するな。この程度の傷……しばらくすれば癒える」


 ルカ達が集まる場所からやや離れ。

 レヴナントから降りたルーナは、傷つきながらも同胞達の昇天を見送ったスヴァルトの元に駆け寄っていた。


「良かった……っ。私……スヴァルトも他の皆さんと一緒に行ってしまうんじゃないかって……っ!」


「…………」


「スヴァルト殿……」


 涙を浮かべるルーナに抱かれ、スヴァルトは気まずそうに視線を外す。

 そしてそこに遅れて、ルカとリゼット……さらにアズレルも歩み寄った。


「ふん……アズレルだけ残っては、この空の均衡が保てぬからな。それに他の同胞は認めても、俺はまだお前達のひとり立ちを認めていない……もう暫くは、〝見守ってやる〟必要があると思っただけだ」


「スヴァルト……ありがとうございますっ」


「ほーんと、素直じゃないんだからー! ルカが好きで残ったボクと一緒で、スヴァルトもその子が好きで残ったって言えばいいのにー!」


「黙れアズレル……それ以上口を開くなら噛み砕くぞ……」


「でもでも! これで今度こそ本当に、めでたしめでたし……ですねっ!」


「ああ、そうだな……」


 嬉しさのあまり、スヴァルトに縋りながら大粒の涙を流すルーナを暖かく見守りながら、ルカは今も隣に立つリゼットの手をそっと握った。


「この空には、楽しいことばかりじゃない……辛いことも悲しいことも、苦しいことも沢山ある。だけど、それでもみんなで力を合わせれば――!」


「どこにだって飛んでいける……ですよね、ルカっ!」


「もちろん、その時はボクがルカを乗せるからねー! でもボク、そろそろお腹すいちゃったー! 空マグロの丸焼きが食べたーい!」


「ああ……そうだな! なら、今夜はご馳走にするか!」


「わーい! やったやったー!」


 固く手を握り合ったリゼットと。

 嬉しそうに頬をすり寄せてくるアズレル。


 この空で何よりも大切なものを握り締め、ルカはドラゴンが去っていった空の彼方――星の海をまっすぐに見つめた――。


 ――――――

 ――――

 ――


 全ての陸地が空に浮かぶ星。

 そこに根を張り生きる人々は、かつてドラゴンと呼ばれる翼持つ命と共に空を駆け、広大な雲海の上を旅したという。


 それから月日は流れ。


 人はフェザーシップと呼ばれる、鋼鉄の翼を手に入れた。

 長きに渡り人と共にあったドラゴンはそれを機に去り、空には時代遅れとなった一人の竜騎士と、なぜか人里に残る一頭の変わり者のドラゴンだけとなった。


 最後の竜騎士。


 人々は彼をそう呼んだが……結局、彼が最後の竜騎士になることはなかったという。


 なぜなら――。



 Next Forever flight

 ――

 空と翼と

 


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