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第七十四話


「ルーナ……! まさか……レジェールの竜騎士に敗れたというのですか!?」


 同盟の旗艦、空中要塞の司令室。

 竜騎士同士の熾烈な争いとその結末を見た同盟議長ミュラウスは、美しい横顔を醜く歪ませ、敗れたルーナも含めたこの空全てに向かって怒りと憎悪を吐き出していた。


「どいつもこいつも、使えないクズばかり……! 国がなくなってしまえば、民に意味などないというのに! なぜ命をかけて戦おうとしないのです!? なぜ覚悟を持って国を救おうと――!!」


「――ここまでだ、ミュラウス。もう十分だ」


「だな。指揮官ってもんは、引き際も潔くなくちゃな」


「貴方達は……っ!」


 その時。

 爆撃に震える司令室のドアをぶち抜き、光刃を展開した大剣を構えた獅子のような大男――レジェール王国国王、冒険王ガイガレオンがその場に現れる。


 だが現れたのはガイガレオンだけではない。


 反対側にあるドアもほぼ同時に十字型に溶断され、黒いロングコートをはためかせた仮面の人影――クリムゾンフリートのキャプテン、レターナも悠々と入り込んできたのだ。


「ガイガレオン……それに空賊まで……っ! 護衛の兵はなにをやっているのです!? 侵入者の排除を!!」


「あー……そんなに呼んでも誰もこないと思うぜ? 俺もそれなりに暴れたけど、そこにいる〝フェザーシップ乗りのゴリラ〟がほとんど片付けちまってたからな」


「連合の総統ゼノンは、〝同盟と正式な和平を結ぶ用意がある〟と申し出ている。お前の言うとおり、国がなくなれば力なき民はこの空を彷徨うことになるだろう……お前も一国の長ならば、どうすべきかはわかるはずだ」


「何を今さら和平などと……! 散々私達から奪っておいて、そんな言葉が信じられると思いますか!? もう、私達に残された道は最後の一人になるまで戦う他に……!」


 全空でも五指に入る剣士であるガイガレオンとレターナに挟まれ、ミュラウスはそれでもなお憤怒の表情で連合への怨嗟を口にした。

 しかしすでにその足取りは弱々しくふらつき、自らの敗北を悟っていることは明らかだった。


「目を覚ませミュラウス……かつてのお前は、そのような〝楽な道〟を選ぶ女ではなかったはずだ。フェザーシップの操縦と同じで、民と国を道連れに地獄に落ちるのは容易い……だがそこから再び大空へと羽ばたく翼になることこそ、一国の長の務めであろう」


「俺みたいな奴がこう言うのもなんだけどさ……俺には、連合より同盟の方がみんな生き生きしてるように見えてたんだ。だからこれだけの奴らが、あんたを信じてここまでついてきたんだろうなって……なんとなくそう思ったよ」


「私は……っ! 私は……同盟のために……っ」


 二人の言葉についにミュラウスは膝を折り、その場でうずくまって嗚咽を漏らした。

 そしてそんなミュラウスを前に、レターナはガイガレオンに向かって久しぶりとばかりに手を振り、ガイガレオンは静かに頷いた。


 ――――――

 ――――

 ――


「ルーナっ!! しっかりするのだ!!」


 この百年行われることがなかった竜騎士同士による死闘。

 決着によって雷雲が消え去った空を、人型兵器に乗ったテオバルトが倒れた妹を案じて声を上げる。


「ルーナ殿なら大丈夫だ。スヴァルトとのリンクも解除できた、もうあんな無茶はできないだろう」


「竜騎士ルカ……! 正直に言えば、俺は今でもお前のことが心の底から憎い……! 竜騎士として強大な力を持ち、レディリゼットの想いを独占するお前が……ぶっちゃけ死ぬほど羨ましいっっ!! 今すぐこの場で殴りかかり、ボコボコにしてやりたいほどだ!!」


 背中の翼をばっさばっさとはためかせて飛ぶアヒルヘッドのロボの手に、ルカはそっと傷ついたルーナを委ねる。


「だがしかし……俺の大切な妹を救ってくれたことについては、心から感謝する。ありがとう……すまなかった……」


「テオバルト殿……」


 託されたルーナを本当に大切な様子で抱きかかえるテオバルトの姿に、ルカはなんとも言えない表情で頷く。

 そしてそれと時を同じくして、同盟の空中要塞から戦闘の停止と全軍撤退を指示する空砲が連続して撃ち放たれた。


「いやー、なんとか終わったみたいですね」


「リゼット! 無事でよかった!」


「無事もなにも、テオバルト様も話せばちゃんとわかってくれる方ですし。危ないことなんてなーんにもありませんでしたよ?」


 ルーナをテオバルトに任せ、史上最大の空戦、の終わりをアズレルの背から見つめるルカの元に、レディスカーレットに乗ったリゼットが横並ぶ。

 リゼットはにっこりと笑ってゴーグルを外すと、深い信頼と愛情をたたえた眼差しでルカを見つめた。


「でもでも、私達の本当の目的は別に戦う事じゃありませんし! むしろここからが本番ですからねっ!」


「だな……! では、まずは一度船に戻って準備を――」


「準備など……させると、思うか……?」


「っ!?」


 だがその時だった。

 それまでの緊張が緩やかにほどけていく青空の下に、まるで地の底から響くような、恐るべき黒竜の声が響いた。


「スヴァルト……! まさか、まだやるつもりなの!?」


「人を……お前達を、認めることなどない……! たとえこの空の全てが認めても、俺だけは……! お前達を認めるわけにはいかんのだ!!」


 瞬間、すでに強化装甲も失いズタズタに傷ついたスヴァルトが最果ての空目がけて飛翔。

 同時に最果ての空を構成する膨大な雷雲が激しく明滅し、それまで青く澄んでいた空が一瞬にして広がる黒雲によって覆い尽くされる。


「な、何なのだこれは!? 教えてくれアズレル、スヴァルトはいったい何をしたのだ!?」


「まずいよルカ……! スヴァルトは最初からこうするつもりだったんだ。スヴァルトが持ってたあの大きな武器……ボクも知らなかったけど、あれは武器なんかじゃなかった!!」


「武器じゃないって……じゃあ、なんだっていうんです!?」


 猛烈な突風と降り出した豪雨にまかれながら、アズレルはルカとリゼットへの説明もそこそこにスヴァルトを追ってすぐさま空を駆ける。


「あれは測定装置だよっ! 大昔の人達が、今の人間を測るために用意した機械だよ!! スヴァルトはあれを使って、システムにボク達が〝馬鹿みたいな戦いをたくさん続けてるって思い込ませた〟んだ!! このままじゃ、起動したシステムにこの空全部が吹き飛ばされちゃう!!」



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