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第七十一話


 リゼットとルカによる上下からの挟撃により、砕けたリシェナの鎧。

 その衝撃の先に現れたのは、かつてルカが出会った少女ルーナだった。


「そうかもしれないと思っていた……あの戦いで、一瞬だがバーゼルの姿がテオバルト殿に変わったように見えて……」


「そう、ですか……だから貴方はあの時も、今も……倒そうと思えば私を倒すことができたのに、そうしなかった――っ!」


 羽ばたくスヴァルトの上で、美しい銀髪と深い悲しみをたたえた横顔を晒すルーナ。

 だが次の瞬間。

 なにかを察して思わず表情を歪めるルカに、ルーナは自分の竜槍を渾身の力で投げつけた。


「くっ!」


「なにも、知らないくせに……! わかったような顔をして、情けをかけたつもりですか!? 私は貴方の敵です……貴方の故郷を傷つけ、貴方の恋人を狙い、貴方が手に入れた地位も力も……すべて奪うためにここにいるんですよっ!!」


「だとしても、放っておけなかったのだ! 君とは何度か刃を交えたが、君はその度に何かに怯えて焦っているように見えた……もし君やテオバルト殿が、不本意なまま戦わされているのだとしたら――!」


 間一髪、ルカはルーナの竜槍を弾き飛ばして対話を試みる。


 あの式典で敵であるはずのルカの身を案じさえしたルーナと、リゼットとレジェールを蹂躙したリシェナの姿が、なぜだかルカにははっきりと繋がって見えていたからだ。だが――。


『――おのれ竜騎士! よくもルーナを!!』


 その時、戦場の一角から巨大な人型の影がルカ目がけて迫る。

 それはかつてルカとゼファーを襲った騎士団の人型巨大兵器。


 全面的な改造を受けたと見られる機体には白鳥のような翼が備わり、以前はただの武装ヘルメット風だった頭部は、突き出したくちばしがキュートなアヒルタイプへと組み替えられていた。


「テオパルド殿か!」


「母上が名乗りを上げ、ルーナが姿を晒したとあってはもはや隠す意味もない! 危機にある祖国のため、母上のためにここで死ね――竜騎士!!」


「いーえ! ルカの邪魔はさせませんよっ!!」


「っ!? れ、レディリゼット……っ!」


 妹を救うべく現れたバーゼル――否、議長ミュラウスの長子テオバルト。

 だがそのテオバルトの突撃を阻止するべく、今度は直上から大きく旋回したリゼットのレディスカーレットが機銃斉射と共に舞い降りる。


「その人のことも、テオバルト様のことも……ルカはなんとかしてあげたいんですよね? ならテオバルト様は私が引き受けますから、二人で一緒になんとかしちゃいましょう!」


「わかった! けど無理だけはするなよ!!」


「お任せあれ!」


 介入を仕掛けたリゼットはそのまま空を滑るように旋回。

 回転数を上げたエンジンの音を響かせ、テオバルトが乗る巨大人型兵器に挑む――ことなく、その横にそっと寄り添うように飛んだ。


「や、やめるのだレディリゼット! 俺は……俺は、君とだけは戦いたくないっ!!」


「はい、私もそうですよ……テオバルト様が本当は優しい人だってことは、私ももうわかってます。ですので……もう戦うのはやめましょう! いーち、にーの、さんっ! で、お互い一緒にやめるっていうのはどうです? ねっ?」


「え……???? お、おお……それは名案……あ、いや! 俺は母上のために……! しかしレディリゼットを傷つけることは……! ぐぬううおおおおおぉぉぉ……お、俺はいったいどうすればいいのだ!?」


「大丈夫です、そんなに焦らなくていいですから。きっとテオバルト様も、これまで色々大変なことや、辛いことが沢山あったんですよね? こんな時ですけど、私で良ければ聞きましょうか?」


「れ、レディリゼット……っ!」


 だがなんということか。

 悲壮に沈むルーナと異なり、現れたテオバルトはリゼットのあまりにも巧みすぎる話術に捕らわれそのまま〝人生相談モードに突入〟。

〝テオバルト自身はまだ戦っているつもり〟なのだろうが、事実上リゼットによって一瞬で戦線離脱状態に追い込まれていた。

 

「なんかあれだねー……こっちと違って、あっちはもう終わりそうじゃなーい?」


「さ、さすがリゼットだ……! もしかしなくとも、俺はこの空で最強の女性と結ばれてしまったのかもしれん……!」


「ふ、ふざけないでくださいっ!! 私もお兄様も、これまで命をかけて戦って来たんです! 貴方達は、どこまで私達を苦しめるつもりなんですかっ!?」


「ま、待ってくれルーナ殿!! 俺もリゼットも、最果ての空を越えるためにここに来た! 本当はこんな戦いなどしたくないのだ!!」


「貴方達があの空を越えてしまえば……同盟はもう、連合に滅ぼされるしかなくなってしまう……! そうしたら、お母様はもう――!!」


 並走して飛ぶリゼットとテオバルトを見送り、ルカは再びルーナとの対話を試みる。

 しかしルーナの語る決意は、ルカの想像を超えて強固だった。


「私がまだ子供の頃、お母様は誰よりも優しい人でした……私は、お母様にあの頃みたいに笑って欲しくて……ただ、それだけで良くて――!!」


「ルーナ殿……っ」


「よかろう……予定通りではないが、こうなっては仕方あるまい。ルーナよ、俺の翼にお前が今感じているその憤りを乗せろ……今ここで、確実に奴を仕留めるぞ!」


「スヴァルト……わかりました。それで、お母様のお役に立てるなら――!!」


 瞬間、スヴァルトを中心として漆黒の圧力が至近のルカとアズレルを吹き飛ばす。


 黒竜から溢れ出す、膨大な闇。

 それはまさしく、ルカとアズレルが放つ陽光とは異なる、もう一つの始祖の力だ。


 そしてその闇を砕くようにして、それまで装備していた巨大な追加兵装と完全に一体化し、その身に禍々しい漆黒の甲冑を纏った竜騎士ルーナが顕現した。


「ぐぬっ……! なんと凄まじい力だ……!」


「スヴァルト……! 君ほどのドラゴンが、どうしてそこまで……!?」


「レジェールの竜騎士……! 貴方さえ倒せば、あの姫を守る者はもう誰もいない。貴方を倒し、連合を滅ぼし、最果ての空も越えて――私はこの空に、お母様の笑顔を取り戻します!!」



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