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第七十話


 最果ての空という終焉を背に、現れたのは虚空の騎士団の大軍勢。

 

 その規模はとても秘密裏に活動する地下組織の物ではなく、連合とレジェール、そして友好国による大艦隊を前にしても全くひけを取らないほどの威容を誇っていた。


「――待て! 虚空の騎士団(ヴォイドオーダー)とやら!」


 両軍にらみ合う最果ての空近傍に、猛々しい雷鳴のような声が轟く。

 レジェール王国国王、冒険王ガイガレオンである。


『レジェールの王……ここまで来て、なにを待てと!?』


「いいから聞け! 俺達は今日、この空に戦うためにきたわけではない! お前達もその黒竜から話は聞いているのではないか!? 俺達はこの空に仕掛けられた先人達の罠、俺達を見定め、この空を破壊しかねない仕組みを取り除きに来た! 空がなくなってしまえば勝者も敗者もない……決着というのならば、その後でもよかろう!!」


『そ、それは……』


 一つのよどみもなく放たれたガイガレオンの声に、リシェナは思わずその声に迷いを滲ませる。だが――。


『――ふふ、この期に及んで世迷い言を。かつての冒険王も、ずいぶんと腑抜けことを口にするようになりましたのね』


『お、お母様……っ』


「聞き覚えのある声だ……やはり、お前だったのだな……」


 だが思わず怯むリシェナを押しのけ、別の女性の声が最果ての空に響く。


『ウフフ……これ以上騎士団の正体を隠す意味もないでしょう。ごきげんようガイガレオン、そして総統ゼノン。よくぞ私達が用意したこの死地に来てくれましたね』


「えーっと、誰だっけ……?」


「この私の記憶が確かなら、恐らく同盟議長のミュラウスです、総統閣下。ルカさんからも報告は受けていましたが……これで騎士団と同盟の繋がりは確定というわけですね」


 高らかに響く声の主。

 それはオルランド同盟を統べる最高議長ミュラウス。


 ミュラウスは大艦隊の中央に位置する空中要塞の司令室から合同艦隊を見つめ、その艶やかに紅く塗られた唇を笑みの形に歪めた。


『私達オルランドが連合によって風前の灯火であることは、貴方もよくご存知のはず……この戦いは、私達にとって国家存亡をかけた救国の戦い。連合の主力を総統ごと討ち取るも良し、最果ての空の先で待つ古代技術を手中に収めるも良し』


「狂ったかミュラウス……! かつてのお前ならば、そのようなことをしている場合ではないと理解できたはずだ!!」


『黙れ!! 同盟を裏切り、連合に付いた者の言葉など私の耳には届きません。憎き連合の総統の首を前に、我ら同盟は退くことも、妥協することもないと知るがいい!!』


『……全軍! 構え!!』


 ついにその姿を現わした騎士団の首魁、同盟議長ミュラウスによる宣戦布告。

 その布告を受けたリシェナはスヴァルトの背で竜槍を天に掲げ、訪れた決戦の始まりを高らかに告げた。


『攻撃開始! この最果ての空を、同盟に仇成す者達の墓場とするのです!!』


「仕方ない……受けて立とう。全艦隊、攻撃開始。けど無理はだめだよ。僕達の目的はルカとリゼットをあの空に送り出すこと……それを忘れないで」


 その号令と共に、両軍から無数の砲火が放たれ、次々と母艦を飛び立ったフェザーシップが青い空を黒く埋め尽くす。そして――!


「いくぞアズレル! 抜槍(リンク)――竜槍アズライト!!」


「うん! 行こうルカ!!」


 一瞬にして大混戦へと沈む空を、蒼い雷撃が駆ける。


 美しい翼をはばたかせ、その背にまたがる竜騎士ルカと共に閃光に包まれたアズレルが、覚醒形態へと変化しながら黒竜めがけて飛翔する。


『来ましたわね……! けれど、私達がこの前と同じとは思わないことですわ!! スヴァルト!!』


『いいだろう。俺も、お前の覚悟に応えてやる』


 対して、迎え撃つスヴァルトは天に向かって咆哮を放つ。

 するとどうだろう。

 スヴァルトの咆哮に応えるように、眼下の雲海を突き破って大小様々な暴獣の群れが次々と現れたのだ。


「暴獣を操っているのか!?」


『俺を誰だと思っている? そこにいる〝はぐれ者の始祖〟とは違い、俺は未だシステムとのリンクを保っている。リシェナの力は万全とは言えないが……この補助兵装を用いれば、この程度の芸当容易い』


「落ち着いてルカ! スヴァルトに暴獣を操られるのは厄介だけど、それは全部あのおっきな鎧のおかげなんだ。あれを壊せば、暴獣のコントロールはできなくなるはずだよ!!」


 戦場に現れた暴獣の中には、脅威度SSSを誇るデスクラウドやグレイシアサーペントすら多数混ざっていた。

 ただでさえ兵力で拮抗している戦場で、暴獣による戦力まで敵対すれば合同軍側の不利は決定的だ。


「そーいうことですか! なら、私も一緒にやらせてもらいますよ!!」


『赤いフェザーシップ……! フフ、自分から捕まりにくるおつもりかしら、レディリゼット!』


「お城の奥で王子様に守られっぱなしなんて、私の柄じゃないのでっ!!」


 瞬間、ルカとアズレルに気を取られるリシェナの頭上から、陽光を美しく反射する赤いフェザーシップ――全面改修を受けた新型レディスカーレットが舞い降りる。


 生まれ変わった深紅の機体は、以前よりも鋭く流麗な形状となり、さらに推進力を担う通常のプロペラとは別に、ゼファーのレヴナントと同様の円筒形の推進機構を各部に備えていた。


「ルカはそのまま――!」


「任せろ!!」


『ふざけないでくださいまし! 私とスヴァルトの覚悟……今こそ思い知りなさい!!』


 下から迫るルカと、上空から降下するリゼット。

 挟まれたリシェナは余裕の笑みを浮かべ、スヴァルト共にその力を解放。


 するとスヴァルトの周囲にかつて覚醒したアズレルが構築したのと同様の光輪が出現。

 同時に周囲全てを飲み込む強烈な突風と雷撃を同時に放ち、迫るリゼットとルカをまとめて吹き飛ばし――。


「――この、程度!!」


「そっちこそ……私達を甘くみましたねっ!!」


『な、なんでっ!?』


 否、リシェナとスヴァルトが放った天変地異の渦は、ルカとリゼットを飲み込むことができなかった。


 見れば、ルカとアズレルはその周囲にリシェナ側が放ったとの全く同質の風と雷撃を放出して相殺。

 そしてリゼットの駆るレディスカーレットは、恐るべき事に放たれた雷撃も乱流も、その全てをものともせず――むしろ加速すらして突っ込んできていたのだ。


「もらい――!!」


「でぇえええええええええ――いッ!!」


 交錯し、圧縮し、炸裂する三つの閃光。


 一度は展開された黒竜の嵐は一拍を置いて木っ端微塵に砕け散り、しかしすぐに態勢を建て直してその巨大な翼を空に広げる。


 レディスカーレットが放った強化徹甲弾による機銃掃射は、スヴァルトが装備する巨大な外骨格を傷つけたが、いまだ破壊には至っていない。


 そしてルカが狙い定めた竜槍による一撃は、リシェナの甲冑を砕き――。


「あ、うっ――!」


「やはり……! 君だったのだな……っ」


 甲冑を砕かれたリシェナの周囲にばちばちとした火花が弾け、姿が変わる。


 豊かな金色の髪は短く切りそろえられた銀髪に。

 高慢で強気な横顔は幻となって消え、そこには必死に竜槍を握り締め、弱々しく震える同盟の少女。


 かつて外交式典の場でルカが騎士団から助けた、同盟議長の娘ルーナが立っていた――。


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