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第七話


「ここが壁空の神殿か……俺も国内の仕事はそれなりに受けてきたが、ここに来たのは今回が初めてだ!」


「私もですっ。お兄様は、この場所に来るのは初めてなんですか?」


「あ、あはははー……こ、こんなところに僕一人で来れるわけないでしょぉおおおおお!?」


 レジェール王国王子、エミリオ渾身の絶叫が異形の空に木霊する。


 ここは壁空の神殿。


 いくつもの小さな浮遊島を足場に、人工的に加工された建造物が巨大な橋のように島と島を繋ぐ。

 さらにはそれを補強するように無数の古木が根を張り、それはあたかも空に浮かぶ深く暗い一つの森。

 ルカ達は今、それぞれフェザーシップとアズレルに乗ったまま、岩と木々が融合した空の迷宮を奥へ奥へと飛んでいた。


「い、今はアズレルさんに乗ってるからいいけど……こ、こんないつ足場が崩れるかわからないような場所、僕一人じゃ絶対に無理だよぉぉ……っ!」


 エミリオがアズレルの背から恐る恐る下を覗くと、そこは今にも崩れそうな石の通路を、太い木の根が〝貫きながら支える〟という、あまりにも不安定極まりない有り様だった。


「だがエミリオ殿は考古学者なのだろう? これまではどうやって遺跡を調査していたのだ?」


「調査の時は、大型の飛行船に乗せて貰ってたんだよ。ルカ君が守ってくれたホテルくらいの大きさなら、僕もそこまで怖くないんだ。けどそれだけじゃ、やっぱり行ける場所に限界があって……」


「飛行船じゃ、こんな入り組んだ地形には入れないですもんね……」


「ボクはとっても飛びやすいよー! ここを飛んでると、なんだか昔に戻ったみたい!」


 ひたすらびびりまくるエミリオとは反対に、アズレルは上機嫌でばっさばっさと青い翼をはためかせる。

 そもそも、今ルカ達が飛ぶ神殿の通路は現代の都市に存在する通路よりずっと大きく、高く、広かった。


「セレスティアル文明の遺跡は、全部このサイズ感なんだ。これも僕達学者の間では、〝ドラゴンの大きさに合わせて作られた〟んだろうって言われててね」


「それって……まだその頃は、ドラゴンが沢山いたから?」


「そういうこと。僕達の街にも、古い建物にはドラゴンのための道や通路が残ってるでしょ?」


「むむーん……なあアズレルよ」


「んーー? なになにー?」


「なぜアズレル以外のドラゴンは突然いなくなってしまったのだ? 前に俺も本で読んだが、別にフェザーシップが発明されたからといって、人がドラゴンを馬鹿にしたり、役立たずと追い立てたわけではないのだろう? それなのに、なぜお前の仲間達は人間の前から一斉に消えてしまったのだ?」


 遺跡に残るのは、まだドラゴンが空の主役だった時代の景色。

 その時代の残照を色濃く映す遺跡の構造を見て、ルカはアズレルにそう尋ねた。だが――。


「しらなーい。だってボク、他のドラゴンとかどうでもいいもーん! ボクは、ボクが毎日楽しければそれでいいんだー……って、前にもそう言ったよねー?」


「ぬわーー! 本当か!? 本当に何も知らないのか!? なにかこう……手がかりくらいあってもいいだろう!?」


「んー……なら、僕からも一つアズレルさんに聞いてもいい?」


「いいよー」


「どうして君は、今もルカ君と一緒にいるんだい?」


「えー? えへへ、それはねー!」


 エミリオの見方を変えた質問に、アズレルは上機嫌で首と尻尾をふりふり、今にも歌でも歌い出しそうな様子で可愛らしい笑い声を上げた。


「だってボク、ルカのことが大好きだからねー!」


 ――――――

 ――――

 ――


「――やーっと到着、ですねっ!」


「わーい!」


「うむ! どうやらここが最深部だな。だが、これは……!?」


「な、なんなの……これ……?」


 神殿に到着してから数時間。

 すでに調査された部分の地図を頼りに最深部へと進んだルカ達は、そこで〝完全に予想外の光景〟を目にしていた。


「これ、エンジンですよね? なんていうか、遺跡っていうより工場みたいな……」


「もしや……そのなんとかという古代文明も、俺達と同じ機械を使っていたと!?」


「そうじゃないよ! 僕が見た事前調査記録だと、ここには大きな祭壇があるはずで……こんな、〝水駆動式の機械〟なんてあるはずないんだよ!」


 そこにあったのは、神秘的な祭壇でも、超古代の謎技術でもない。


 浮遊石と水と大気の反応で稼働するエンジン。

 忙しなく動く歯車とシリンダーとピストン。

 用途こそわからないが、〝仕組みも見た目もありふれた〟、ルカとリゼットでも見慣れた〝現代機械の山〟だった。


「おかしい……そもそもこの遺跡に入るには、国の許可が必要なはずなのに! いったい誰が……いつの間にこんな!?」

 

『ピーガガー……侵入者、カクニン……』


「むっ!? 待つのだエミリオ殿! リゼットも俺の傍に!」


「はわわっ! こ、今度はなんですっ!?」


 驚きと戸惑いに駆られたエミリオとルカがアズレルから飛び降り、リゼットも愛機を滞空させて地面に降りたその時。

 祭壇の周囲に設置された無数の機械の山から不気味な声が響き、遺跡の壁面を突き破って一体の巨人が現れたのだ。


『侵入者、カクニン……強制排除モード……起動シマス!』


「なになにー? シンニュウシャって、もしかしてボクたちのことー?」


「これはまさか……! 俺が子供の頃に絵本で見た、ゴーレムとかいうやつか!?」


「ひぇえええっ!? ぼ、暴獣ならともかく、ゴーレムなんて絶対にいるはずないよっ! 僕は研究で世界中の記録を見たけど、ゴーレムが見つかったなんてどの本にも書いてないんだから!」


「お兄様は下がって! 向こうはやる気まんまんみたいですよっ!!」

 

〝ゴーレム(仮)〟の出現と同時。

 周囲の機械の山からも、小さなプロペラで飛ぶ〝コウモリに似た機械〟が次々と浮上。

 立ち塞がるゴーレムと共に、明らかな敵意を持ってルカ達を完全に包囲する。


「どうやら、俺達をここから帰すつもりはないようだな……ならばエミリオ殿を守護する竜騎士として、この槍で活路を切り開くのみだ! 抜槍(リンク)――!!」


「ですねっ! お兄様の護衛を依頼されたのは〝ルカだけじゃない〟ということ、思い知らせてあげます――!!」


 瞬間。周囲をぐるりと包囲するゴーレムと飛行機械に対し、ルカは手にした竜槍アズライトを天に掲げる。

 そしてリゼットは今日の衣装である〝もこふわコート〟の前をおもむろに開くと、腰の左右にぶら下げた二丁の大口径リボルバーを引き抜いた――。



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