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第六十八話


「――というわけです。我々の推測とこれまでの動きを見るに、虚空の騎士団(ヴォイドオーダー)があの黒竜を通じてレディリゼットの才に気付いていることはほぼ間違いない。つまり、〝騎士団の狙いもまた最果ての空突破〟だということです」


「教えてくれてありがとう、フィン。それで、ルカやレジェールのみんなはなんて言ってるの?」


 そこは、豊かな水が美しい水路を流れるヴァルツォーク連合王城、謁見の間。


 レジェールでの役目を終え連合へと帰還したフィンケルは、さっそく主である総統ゼノンにレジェールでのことを伝えていた。


「レジェール側からの要請はただ一つです、総統。騎士団のような危険因子が武力による最果ての空突破をはかるより前に。連合とレジェールの合同部隊を用い、〝レディリゼットと竜騎士ルカを最果ての空の向こうへと送り届けます〟」


「ルカとリゼットを……? ならもしかして、二人が最果ての空を越えられれば……」


「はい。最果ての空に仕掛けられた先人のシステムは、条件を満たしたお二人の力と今を生きる我々の力を認め、この空もろとも消し飛ばすような危険なシステムを解除するはずだと……アズレルさんは、そう言っていました」


「そっか……わかったよ」


 フィンから伝えられたレジェール側の要請に、ゼノンは穏やかな表情で頷いた。


「今すぐレジェールに連絡を。僕達ヴァルツォーク連合は、友邦たるレジェールへの協力を惜しまないと」


「かしこまりました。すぐに手配いたしましょう」


「五年前……あの時、竜騎士は僕達連合の恐ろしい敵だった。けど今はもう違う……今度は一緒に、僕は君の友達としてあの空に戻る……待っててね、ルカ」


 ――――――

 ――――

 ――


「ひえぇえ……お疲れ様でしたぁ~~」


「マジでお疲れ様だったな……俺も流石に疲れた……」


 一方、時は数日前にさかのぼる。

 王城でのアズレルの話を聞き、その後の長い長い対策会議を終えたルカとリゼットは、へとへとになってルカの家へと帰ってきていた。


 ちなみに、もはやルカとの仲が公認となった以上、リゼットは本来の自宅である王城で寝るつもりは一ミリもないらしい。


「今日はいろんなびっくりがありましたけど……やっぱり一番驚いたのは私のことですよ……まさか、私の〝空の道〟にそんな理由があったなんて……」


 ルカのベッドにばたんと倒れ込みながら、リゼットは布団に顔を埋めつつ感慨深げにつぶやく。


「ご先祖様は、この〝新天地で俺達が新しい力に目覚める〟ことを期待していた……たしかにリゼットの空の道は、俺から見てもそうっぽいぞ!」


「まあ、実際とっても便利ですよ? これだけ毎日空を飛び回らないといけない世界で、私だけ正解の道が見えてるわけですし」


 アズレルが語った、最果ての空を越える条件。

 

 それは――母なる星を失った人類が、千年の旅の果てに辿り着いたこの空の世界で、人類が新たに獲得した〝進化の証〟を示すこと。


 かつて、大勢のドラゴンが役目を終えて人里から姿を消した時。

 アズレルはルカやルミナの先祖に、〝通常の竜騎士よりも深くドラゴンとリンクする力〟を見いだした。

 

 アズレルはそれを先人が期待した人類の進化と信じ、ルカの祖父や曾祖父の元にただ一頭残った。

 そしてそのような独自判断が出来たのも、アズレルが始祖と呼ばれる最も初めに生み出されたドラゴンの一頭だったからだ。


「アズレルが言っていたが、俺には母さんにはなかった〝力と力を繋ぐ力〟があるらしい……だからデスクラウドやグレイシアサーペントとの戦いで、俺はあの二体の持つ力を自分の技として手に入れることができた……」


「ルカが私を助けてくれた時……私の目に色が映るようになったのも、ルカが竜騎士やアズレルさんの力を私に渡してくれたからなんでしょうね……」


「そう、なのだろうな……正直あの時は必死で、なにを考えていたのかも覚えていないんだが……」


「私は覚えてますよ? あの時からずっと、毎日思い出して……その度にルカのことを好きになってますっ」


「そ、そうなんだ……ありがとう。俺も好きだよ……」


 続いてベッドに腰を下ろすと、ルカは毛布に顔を埋めて微笑むリゼットに目を向け、照れ隠しのようにその艶やかな髪をそっと撫でた。


「なんだか不思議です……私達はこの空で普通に生きて、普通に恋をしてただけだったのに。私達が飛ぶことが、この空のこれからを左右するかもしれないなんて」


「きっと、本当は母さんもそうしていたかったんだと思う……だから母さんは、俺を無理に竜騎士にしようとしなかった」


「けど、もし今の竜騎士がルカじゃなかったら……連合や他の国の航空ギルドと協力するなんて、絶対に無理だったと思いますよ。もちろん、私はルカが何をしてる人でも好きになってた自信がありますけどっ!」


「うん……これまで何度も諦めそうになったり、後悔しかけたこともあったけど……やっぱり、俺は竜騎士になって良かったって……今は、心の底からそう思ってるよ」


「むふふ……ならよかったです」


 すでに、先ほどまでの会議で今後の計画は確定している。


 リゼットを狙う虚空の騎士団。

 彼らが目指すのが最果ての空突破であることは間違いない。

 

 騎士団に黒竜スヴァルトがいる以上、アズレルが知っていること、感知できることはスヴァルトも同じように知っているからだ。


 だからこそ、レジェールはすぐさま連合を初めとした友好国に協力を求めた。


 幸運にも、レジェールチャンピオンシップにおける対騎士団の大規模戦闘で、竜騎士ルカと全空のエースリゼットの名声は頂点に達している。


 そしてなにより、あの場で共闘した世界中のエース達との絆は、今もまだ強固に息づいているのだから。


「きっと大丈夫です。どんなに恐ろしい空だって……私達二人の翼を止めることなんてできませんよ」


「わかってる……リゼットのことは、俺が必ず守る」


「なら、空の案内は私に任せて下さいね! って、それじゃあいつもと同じじゃないです?」


「ははっ、そうだな」


 いつしか、ルカもベッドに横になり、二人の視線は近く、まっすぐに交わっていた。


 数日もすれば、最後になるかもしれない空へと飛び立つことになる。

 かつて最強の竜騎士と呼ばれたルミナすら帰らなかった、最果ての空――その先へと至るために。


「ありがとうリゼット……リゼットに会えて、本当に良かった」


「私もです。これからも、ずっとそう思って生きていきますから。愛してますよ、ルカ……」


 そうして。

 ルカの家の灯が静かに消え、空気を読んで先に夢の世界に旅立っていたアズレルの寝息だけが夜の闇に響く。


 レジェールの空に輝く二つの月はいつもと変わらず。

 

 恋人になったばかりの二人の決意を、ただ静かに照らし続けていた――。



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