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第六十七話


「――まったく、ご先祖様もはた迷惑な仕掛けを残してくれたものだ。そこにお宝があるとさんざん匂わせておきながら、力尽くで奪おうとすればなにもかも吹き飛ばすとは!!」


「そう言ってやるなルミナよ。最果ての空を障壁とした防御システムが発動するということは、すなわちお主ら人間が〝それだけ成長した〟ということ……フェザーシップも持たぬ時代の人間相手であれば、この空ごと吹き飛ばす必要などなかったからのう」


 そびえ立つのは巨大な雲。

 

 果てすら見えない巨大な壁の雲が、眼下の雲海からはるか頭上の青空の果てまで埋め尽くす。


 そしてその雲の壁は良く見れば恐るべき速度で蠢き、激流のように流れ、さらにその先では無数のヘビがのたうつように激しい雷鳴と雷光が渦巻く。


 全ての空を引き裂き。

 どこまでも続く雲海、その終着点。


 ここは、最果ての空。


 今、この空域では巨大な空中戦艦が視界を塞ぎ、無数のフェザーシップが弾幕の狭間を縫うように飛び交う。

 

 最果ての空近傍空域で勃発した、ヴァルツォーク連合とオルランド同盟の大空戦。

 ピカピカでトゲトゲの鎧を身に纏い、すでに竜槍を展開したルミナとアズレルはその戦場に生身で飛び込んでいた。


「はっはっは! 今更そんなことを言われても、なんの慰めにもならんな――!!」


「我らドラゴンがお主ら人間の前から消えた百年前……すでにあの時、最果ての空はお主らが先人の試練を受けるに足る成長を遂げたと判断しておったのだ。だが、わらわはあえてお主ら一族の元に留まった……いつか、このような時が来るとわかっておったからのう!!」


『な、なんなんだあいつは!?』


『機関損傷! 総員退避――っ!!』


『化け物……! 空の化け物だ!!』


 迫るフェザーシップを槍の一振りで薙ぎ払い、目の前を塞ぐ巨大戦艦を大気ごと切り裂く雷撃の一閃で真っ二つにする。

 突如として舞い降りた竜騎士の神の如き力に、連合と同盟の艦隊は阿鼻叫喚の大混乱に陥っていく。


「わらわもお主と同じよ、ルミナ。わらわは、我らドラゴンを生み出した創造主の考えが気に食わなかった。自らは散々取り返しの付かぬ過ちを犯して逃げ出しておきながら、その子孫には身勝手な希望を託し、高慢にもその営みを試そうとする……最近流行りの〝毒親〟そのものだと思わぬか?」


「毒親か……父であるパルマを守れず、今もこうしてルカを置き去りにしている私も、似たようなものだな……」


 間違いなく人類史上最大規模の戦場を駆け抜けながら、アズレルの背にまたがるルミナは、その横顔に決して癒えることのない寂しさを滲ませた。


 ルカの父パルマは、ルカが生まれてほどなく遺跡の調査中の事故によって命を落としている。


 ルミナは、その事故現場にパルマと共にいた。

 しかしそこは狭所であり、アズレルから離れていたルミナは、発生した突然の事故からパルマを救うことができなかったのだ。


「パルマの死はお主のせいではない……だがわらわが何度そう言おうとも、お主はそうは思わぬのだろう? 人とは、なんともままならぬものよの」


「――そういえば、ここに来るまでに言っていたな。最果ての空を越えるためには〝正しい条件〟があると。そして私は、〝あと少しでその条件を満たせるかもしれなかった〟と……」


「ああ、そうさな……だが、パルマを失ったお主にその役目は重荷が過ぎる。お主に甘えるのは、この戦いで最後と決めておるのでな――!」


 言いながら、アズレルはその口を大きく開き、収束した雷撃の渦を巨大な熱線と化して放出。

 放たれた熱線は一撃で十隻以上の連合、同盟の戦艦――その駆動部のみを貫いて大破させ、逃げ惑う船員達が次々と救助艇目がけて空に飛び出していく。


「ルカなら……」


「んん?」


「ルカなら、お前の言うその条件を満たせるのか?」


「どうだろうな……素質は十分にあると思うが。あの父親譲りのへなちょこでは、どうなることやら――いや、待てルミナ! 気を引き締めよ! どうやら、創造主は我らの介入を快く思わなかったようだ!!」


「っ!?」


 死を賭した戦場だというのに、まるでそれぞれの半生を振り返るかのようなルミナとアズレルのやりとり。


 しかしそのような〝世間話〟は、〝最果ての空の向こう側〟から現れた巨大な黒い影――アズレルの十倍はある威容を誇る、〝黒竜の出現〟によって終わりを告げた――。


 ――――――

 ――――

 ――


「こ、黒竜だと……!? ではまさか、最果ての空で母さんとアズレルを倒したというのは……っ!」


「うん……向こうもあの時とはかなり変わってるけど、前のボクとルミナをやったのは、あのスヴァルトだよ」


「っ……! そう、だったのか……!」


「ルカ……っ」


 黒竜スヴァルトこそが、最愛の母を奪った仇。

 そう告げられたルカは血が滲むほどに拳を握り、リゼットはルカを支えるように震える肩を抱きしめた。


「あの時、ルミナはルカのお父さんが死んでとても傷ついてた……誰とも手を組まなくなって、なんでも自分一人でやるんだって、心を閉ざしちゃってた。だから、最後の戦いも誰にも相談せずに一人で飛び込むような無茶をしちゃったんだ」


「そうだな……俺も、どうにかしてやりたかったが……」


「もし父上が知っていたとしても、あの時の状況ではどうしようもなかったと思います……僕達レジェールが連合や同盟に戦うなって言って、止まるような国じゃないですし……」


「もし前のボクがもっと前に、危ないから最果ての空に行くのはやめてー! って言っても、ぜっっったいに同じだっただろうしねー!」


「フフ……まあ、そうでしょうねぇ!」


 ルミナの最期とその理由を知り、居合わせた者はそれぞれの反応を示す。

 だがそこで真っ先に次の言葉を発したのは、最もショックを受けているはずのルカだった。


「ならば教えてくれアズレル! 先ほどアズレルが言っていた、最果ての空を越える本当の条件とは何なのだ!? 俺ならば行けるかもしれないと……母さんとアズレルは、そう考えていたのだろう!?」


「うんー! もちろん喜んで教えるよ。だって――」


〝身勝手な先人の逆鱗〟に触れない、最果ての空を越える本当の条件。

 ルカからその問いを受けたアズレルは嬉しそうに尻尾を振ると、目の前で寄り添うルカとリゼットをその澄んだ瞳で真っ直ぐに見つめた。


「見た感じ、ルカがそうなのかは五分五分ってところかなー……けど安心して。ルカとずーーーーっと一緒にいて、〝ボクとルカ両方の力を使いこなしてるキミ〟……リゼット・レディ・レジェールは、どこからどう見ても完璧に条件をクリアしてるからね!!」


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