第六十五話
「がーっはっはっは! そうかそうか、ようやくくっついたか! 朗報も朗報、なんともめでたいことだ。盛大に祝福しよう!!」
「あ、ありがとうございます陛下! でも、その……本当に俺なんかがリゼットと付き合っても……」
レジェール王城、謁見の間に国王ガイガレオンの喜びに満ちた豪快な笑い声が木霊する。
今、そこにはアズレルを連れたルカと王女リゼット。
さらには王子エミリオと宰相バロア。
最後になぜか連合の重鎮であるはずのマッドドクター、フィンケル・クロウまでもが集まっていた。
「自信を持て、ルカ。この広大な空で、お前以外にリゼットを幸せにできる男がいるのか? もし俺がお前達の仲を認めなければ、お前はリゼットを諦めるとでもいうのか?」
「っ……! そんなことは……!」
「ならば、そのまま進むがいい。これからはお前とリゼット……二人で共に手を携えてな」
「――はいっ!!」
集まった錚々たる面々を前に、ガイガレオンが真っ先に口にしたのはついに結ばれたルカとリゼットへの祝福と激励だった。
これまで、愛娘のリゼットがルカの元に足しげく通うことを平然と黙認していた王である。
当然、〝そうなった〟からといって激怒するわけもなく。
むしろ予想を超えて逞しく成長したルカと我が子が、これからは共に歩んでいくことを誰よりも喜んでいた。
「おめでとうリゼット! 正直、一緒に遺跡の調査に向かったときから〝どうしてこれで二人は付き合ってないんだろう……〟って思ってたから、僕も嬉しいよ」
「国のことはこれまで通り俺とエミリオに任せ、リゼットはその翼のおもむくままに生きよ。きっとそうすることが、この国と民のためにもなるだろう」
「はい……っ。ありがとうございます……お父様、お兄様」
リゼットもまた、自分がどれだけ恵まれた道をこの国と家族から与えられてきたかはよく理解している。
だからこそ、王族でありながら翼を持つことを許された自分にしかできない方法で、大切な人々に報いるのだと。
リゼットもまた、ずっと前からそう心に決めていた。
「――じゃあ、そろそろボクのお話をしてもいい?」
そしてルカとリゼットについての話に区切りがつくのと同時。
それまで黙っていたアズレルが、その長い首で一同を見回しながら声を上げた。
「もちろんだ、待たせたなアズレル。ところで今のお前の意識や記憶は、かつて俺やルミナと旅をしていた頃と同じと考えてもいいのか?」
「全部同じってわけじゃないけど、キミのこともちゃんと思い出してるよー。昔の〝危なっかしいキミ〟には絶対に話せなかったけど、今なら大丈夫そうかなー?」
「あ、アズレル殿! いくら力あるドラゴンとはいえ、陛下にそのような言い方は失礼ですぞ!」
「気にするなバロアよ。かつての俺が未熟だったのは事実……それを今の俺ならばと言ってくれるのなら、俺としても光栄なことだ」
今のアズレルは、式典会場で覚醒した進化形態のままの姿だ。
その威容は、かつてのはらぺこドラゴンだった頃とは見違えるほど。
口調も基本は以前と同じながら、滲み出る知性の深さはかつてのアズレルとは完全に別物だった。
「今から話すことは、この星に生きるみんなにとってとっても大切な話なんだ。そしてそれは全部、この空でたった一つの封じられた空域――最果ての空が関わってるんだよ」
「最果ての空、ですか……我々連合も、数年前にあの空域を越えようと大艦隊を送り込みました。まあ、その時はルカさんのお母様によって阻止されてしまったわけですがね。フフ……」
「教えてくれアズレル……! あの日、どうして母さんはそんな無茶苦茶なことをしなくてはならなかったんだ!? 最果ての空の向こうには、一体なにがあるというのだ!?」
これまで、ルミナと共に最果ての空で力尽きたアズレルはその力と知恵の大半を喪失していた。
しかしルミナの跡を継いで契約者となったルカと共に成長したことで、ようやくかつての記憶や経験を思い出すことができるようになっていた。
「落ち着いてルカ。ちゃんと一つ一つ話すからね」
はやるルカに、アズレルは穏やかに頷いて言葉を続けた。
「まずキミ達は、もともと〝地球っていう大昔に滅びちゃった星〟から逃げてきたんだ。最果ての空の向こうには、人がこの星で生きていけるようにするための色んな機械が今も動いてる……」
「え……? ちょ、違う星って……なんのことです!?」
「い、いきなりわけがわからんのだが!?」
「そしてボク達ドラゴンは、人が自分達の力だけでこの星で生きていけるように、助けてあげるために生まれたんだ。だけどもう一つ、ボク達にはそれとは別の役目もあってー……」
Tenth flight
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最果ての空
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――――
――
「――そうですか。レジェールの竜騎士がそこまでの力を」
夜の闇に星の光がまたたく。
ここは、オルランド同盟首都にある議長会館。
その執務室。
部屋の一角に設けられた豪奢な窓から覗く美しい夜景を眺め、美しい銀髪をなびかせたスーツ姿の女性が静かに呟く。
その顔立ちはオルランド同盟の貴人であるテオバルトとルーナによく似ていたが、二人のそれとは比べものにならないほど冷たい光を宿した瞳をしていた。
『私もスヴァルトと共に戦いましたが、力不足で……』
「いいのですよ、リシェナ。スヴァルトからも報告は受けています。同じ契約者であっても、覚醒速度には個人差があると……それに竜騎士である貴方には、それだけでまだ十分に価値があります」
『は、はい……! 次こそは、必ずあの竜騎士を倒してご覧に入れます!』
そして今、その女性の前には二人の軍人。
黒竜スヴァルトを駆る竜騎士リシェナと、半壊したアヒルヘルメットの剣士、バーゼルが跪いていた。
「ええ、期待していますよ。けれど……〝もう一人の出来損ない〟はどうしたものかしらねぇ?」
『ど、どうか……どうかもう一度挽回の機会を! 此度の手合わせで、奴の手の内は把握できました! 決戦となる次こそは、必ずや奴の首を!!』
「いいえ、貴方はすでに二度も私の期待を裏切りました……一度目は竜葬祭壇での敗北、そして二度目はこの式典。この私がここまでお膳立てをしたというのに、貴方はどちらの機会においても価値を示すことができなかった……これ以上、貴方に与える機会などありません」
二人の前に立つ女性は道ばたの石でも見るかのような眼差しをバーゼルに向ける。
『母上……! 私は……!』
『お、お母様! 私からもお願いします、バーゼルに寛大な処置を……!』
だがそんなバーゼルを庇うかのように、リシェナはルカやリゼットの前とは全く異なる、必死の懇願を母と呼ぶ女性に向けた。
「ふん……安心しなさい。なにも役に立たぬからと処分するつもりはありません。今後、虚空の騎士団団長はリシェナに任せます。そこにいる役立たずは、リシェナの下で貴方が求める機会を死にものぐるいでものにすることね」
『ぐぅ……っ』
『あ、ありがとうございますお母様……このリシェナ、騎士団長の大役、命をかけて果たして見せます』
「ええ、期待していますよリシェナ。事と次第によっては、次は〝この私も空に出る〟必要があるでしょうから」
そう言って、騎士団の二人を跪かせる女性――オルランド同盟議長ミュラウス・フォン・ネザーリンクは冷ややかに笑う。
「価値を示すのです……私達が生きる、この国の力となる価値を。そうでなければ、私も、貴方たちの存在にも意味など無いと……決して、それを忘れてはいけませんよ」




