第六十一話
『貴様がレターナ・シルバーバレットか……! ちょうどいい、〝我々の捕獲対象〟には貴様も含まれている! 飛んで火に入る夏の虫とはまさにこのことよ!!』
『オーッホッホッホ! 薄汚い空賊ごときが、私達に勝てるとでも思っているのかしら。滑稽ですこと!!』
絶体絶命の危機に現れたのは、クリムゾンフリートの首領レターナ・シルバーバレット。
レターナはルカに対する敵意がないことを示しながら、からかうような笑みを向けた。
「聞いてるぞルカ。お前、レジェールであの黒いドラゴン相手に手も足も出なかったらしいな。誇り高き竜騎士様が、やられっぱなしで終わるなんてことないよなー?」
「無論だ! アズレルは大丈夫か!?」
「はわわー……なんとかー。〝この前までのボク〟だったらヤバかったかもー」
まだこれが二度目の対面だというのに、ルカとレターナはまるで長年の相棒かのように同時に前に出る。
「君は俺を助けに来たと言ったな……その言葉、信じていいのか?」
「信じる信じないはお前の好きにすればいいさ。俺だって、それなりに目的があってこいつらを追ってるんでな」
「わかった……ならば信じるぞ、レターナ!」
飄々とかわすレターナに対し、ルカは彼女の言葉に嘘の気配はないと判断。
復活して翼を広げたアズレルの背に颯爽と飛び乗る。
「やるぞアズレル! 再抜槍――竜槍アズライト!!」
「ここでお前らを逃がすと面倒だからな。一気に決めさせてもらうぞ! 抜剣――天剣リヴェリオン!!」
『ふん、相変わらず威勢だけはよろしいこと……いいですわ、今度こそ私達の力の前にひれ伏しなさい!! 抜槍――竜槍スヴァルダート!!』
『竜騎士に空賊……! 俺の邪魔をする者は、誰であろうと切り捨ててくれる!! 抜剣――天剣アロガンディス!!』
竜槍と天剣。
同時に展開された四つの古代兵器はまるで真の開戦を告げる狼煙のようにまばゆく輝き、爆炎渦巻く夜空を地上から煌々と照らす。
「お待たせレターナ! ここからは私が援護するわ!」
「〝アヒル野郎〟の相手は俺がやる。お前は竜騎士をなんとかしろ!」
「もとからそのつもりだ!」
「がおー! 今度は負けないもんねーだ!!」
瞬間、レターナは後方から飛来したソードダイヤのフェザーシップに飛び乗り、凄まじい身体能力で機体後部に直立。
抜き放った二刀のガンブレードから光刃を展開し、こちらを見下ろすスヴァルトめがけて突撃する。
『わかっていますわねバーゼル。これ以上の失態は、いくらお母様が寛大だといっても許されませんわよ!』
『黙れリシェナ! 本来ならば、あの竜騎士は俺の手で仕留めたいところだが……貴様らに譲ってやる!』
交錯。
突撃したレターナは、落下も恐れずフェザーシップを足場して跳躍特攻。
十字に構えた二刀でスヴァルトの背に乗る二人を狙うが、その一撃は同じく巨大な光刃を展開したバーゼルの大剣に空中で迎撃される。
「やるな……! ただの変態アヒル野郎ってわけじゃなさそうだ!」
『へ、変態だと!? この俺に向かってよくも……よくもほざいたな空賊!! 貴様の首、我が主への手土産としてくれる!!』
「なんだなんだー? 偉そうな態度のくせに、意外とバカ正直な奴だな。 〝どっかの竜騎士〟と似た者同士かー?」
空中で激突したレターナの天剣リヴェリオンとバーゼルの天剣アロガンディスが激しい火花を散らす。
一瞬のつばぜり合いと拮抗、しかしレターナは即座に身をひねって薙ぎ払いの横蹴り一閃。
バーゼルとの膠着状態を強引に拒否すると、ロングコートをはためかせて後方に飛びつつガンブレードの柄に備わる引き金を引き、無数の光弾をバーゼル目がけて打ち込む。
『俺を舐めるな!!』
「うわっ!?」
だがしかし、バーゼルもまた空中で弾かれつつ大剣に光を収束。
レターナの放つ光弾の雨を、振り払った大剣から生成した〝飛ぶ斬撃〟で粉砕。
さらにバーゼルの斬撃は、回避行動の取れない落下中のレターナめがけて襲いかかる。
「――あぶない! もう、いつも初手で相手の出方を伺おうとするんだから。それ、あなたの悪い癖よ」
「悪い、さすがに甘く見過ぎたな……実はさっきから、〝あいつがかぶってるアヒルのせい〟で笑いを堪えるのに必死で……っ」
だが間一髪。
レターナの窮地にソードダイヤのフェザーシップが飛び込み、バーゼルの光刃は機体をかすめて虚空の闇へと。
レターナは翼下の懸架用ポールに腕を絡ませ、バーゼルが装備するアヒルヘルメットによる〝別次元の攻撃〟に耐えようとしたが――。
「む、無理……無理だーーっ!! アハハハハハハっ!」
『ほう! 死合いの場で笑い出すとは、この俺から滲み出る圧倒的強者オーラに耐えられず気でも触れたか!!』
「きょ、強者オーラ……! アヒルオーラの間違いだろ……っ!? うひ、うひーっ!! や、ヤバ……こいつやばすぎる……! あははははっ!」
「し、しっかりしてレターナ! まずいわ……このアヒル男、もしかしてレターナにとって〝最悪の相手〟なんじゃ!?」
なんということか。
それまで必死に我慢していた分、一度溢れ出した笑いは止めることができない。
レターナは唯一にして致命的な弱点を突かれ、今にもソードダイヤの機体から転げ落ちそうなほどに爆笑する。
『クックック! 最強の空賊もこうなってしまっては哀れよのう! だが安心するがいい。俺は慈悲深い男……その無様をこれ以上晒さぬよう、すぐに息の根を止めてやる!!」
「ひー! ひー! ち、ちくしょう……っ! 涙で前が……っ!」
『死ね! レターナ・シルバーバレット――!!』
レターナと同じく空中に飛び出したバーゼルだが、彼の元にもすかさず騎士団側の無人機が足場となるべく滑り込む。
そして滑るように激化する戦場の空に弧を描くと、酸欠に苦しむレターナに向かって必殺の一撃を掲げた――。
「でぇえええ――――いっ!!」
『ホーッホッホッホ! なまっちょろい攻撃ですわね!!』
一方、レターナとバーゼルが激闘を繰り広げる位置よりもさらに高空。
激しくぶつかりあいながら、きりもみとなって加速上昇を続けていたルカとアズレル、リシェナとスヴァルトはそのまま騎士団の空中要塞上部へと。
どこまでも広がる銀色の雲平線を臨みながら、互いに激しい雷撃と竜槍による斬撃の応酬を繰り返す。
『無様ですこと。その程度の力で私と刃を交えようなんて笑えますわ……あの空賊を囮にして、一人で逃げ出した方がよかったのではなくて?』
「く……っ! 誇り高き竜騎士は、そんな真似はしない……! レターナが敵か味方かは俺にもよくわからんが、一度信じると言ったら最後まで信じる! それが俺のやり方だっ!!」
戦闘開始からまだ間もないというのに、両者の力の差は明らかだった。
槍術の技量と戦闘の才覚ではルカが明確に勝っている。
だが〝竜騎士としての力〟で見れば、強大な黒竜スヴァルトの力を存分に振るうリシェナの力はまさに無尽蔵。
スヴァルトの力を帯びたリシェナの一振りはルカの防御を簡単に貫き、反対にルカの一撃はリシェナのガードに弾かれる。
スヴァルトとアズレル。
互いがリンクする黒竜と青竜の力の差が、そのままルカとリシェナの優劣を決定づけていた。
『チッ……! せっかく私が忠告してあげたというのに……いいですわ、そんなに死にたいのなら望み通りにして差し上げます!』
だが窮地においても揺るがぬルカの闘志に、リシェナは明らかな不快感を示す。
そしてリシェナの呼び掛けに応えたスヴァルトが黒翼を広げ、周囲に猛烈な突風と嵐の渦を巻き起こした。
『死になさい、レジェールの竜騎士!!』
「まだだ……! 俺達だって、すでにあの時とは違うはずだ! そうだろう、アズレル!!」
「うん! ボクだって前よりもずっと、ルカの気持ちがわかるようになっってるよー!」
かつて、なすすべも無く打ち砕かれた暴風の渦。
それを前にして、しかしルカとアズレルはかつてゼファーとの戦いで見せた光の収束――ドラゴンの進化、その前兆を再び発現させる。
「俺にもわかるぞ、アズレルの心が! 今のアズレルがどれくらいハラペコなのか、今日はなにが食べたいのか……そして今はおいしいお肉をたくさん食べて、お腹いっぱい元気満々だということも!!」
「ボクにもわかるよ! 今のルカが思ってること、みんなへのありがとうって気持ちでいっぱいで……どんなに辛くても、さびしくても、ずっと一緒にいてくれたあの子にも、ボクにも……助けてくれたみんなにお返しがしたいって気持ちが、いっぱいあふれてくるんだ!!」
瞬間、光は一つの収束と顕現を見た。
「だから――!!」
「だから――!!」
炸裂。
ルカとアズレルを襲う極大の嵐が膨大な光によって防がれ、押し戻され、ついには飲み込まれて跡形も無くかき消される。
『な、なんの光――!?』
「これが――俺とアズレルの力だ!!」
「これが――ボクとルカだけの姿!!」
ルカとアズレルの声が一つとなり、収束した光の繭が砕け、粉雪のように舞い散る先。
まばゆい光を貫いて現れたのは、これまでで最も大きく、最も力強く、最も気高く美しい姿へと進化したアズレル。
そして鋭い光刃を備えた豪壮な竜槍を構え、その身にピカピカでトゲトゲの鎧を装備した、真の竜騎士ルカ・モルエッタの姿だった――。




