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第五十九話


「うおおおおおおお――――っ!!」


 広く高い迎賓館の廊下を、光刃を展開したルカが疾風となって駆ける。

 行く手にはライフル銃を手にした多数の騎士団員が立ち塞がるが、その程度の武器ではルカの歩みを止めることはできない。


『撃て! 撃ちまくれ! 時代遅れの騎士かぶれに、後れを取る我らではない!』


「騎士かぶれはお互い様ではないか!? 竜騎士サンダータックル!」


『ぐえええええっ!?』


 明らかに通常の火器よりも威力の高い騎士団の銃撃。


 しかしルカは高速回転させた竜槍で弾丸をはじきつつ、雷撃を伴った体当たりで騎士団の軍勢を一発で粉砕。

 騎士団が装備する全身甲冑をバキバキにへし折りながら、無数の爆発がまたたく夜の闇を駆け抜ける。


 ――――――

 ――――

 ――


「――ルカさんには、テオバルト様の救出をお願いします。私達は、ここにいる皆様と一緒に〝脱出艇の格納庫〟に避難します。テオバルト様を助けた後、ルカさんとはそのまま空で合流しましょう」


「なるほど! それは実に名案だ!」


「ここ脱出艇があるなんて……どうしてフィンさんがそんなこと知ってるんです!?」


 時は少し前。

 ルカがリゼット達と別れる前、手短に作戦を伝えたフィンはリゼットの問いに不敵に笑った。


「フフ……知恵者たるもの、いついかなる時も地の利の確保は忘れぬものです。それに実を言いますと、たった今上空で騎士団と戦っている〝クリムゾンフリートをここに呼んだのも私〟なので」


「ど、どういうことなの!? フィンさんって、クリムゾンフリートとも繋がってるの!?」


「それは違いますよココノさん。ですが、クリムゾンフリートが騎士団と敵対しているらしいことは把握しておりましたので、事前に〝虚空の騎士団がレジェールと同盟の外交式典を襲撃する〟と……連合内部に存在するクリムゾンフリートの情報網にわざと流しておいたのです」


「しゅ、襲撃するって……フィンさんは騎士団が襲って来るなんて知らなかったんですよね? そんな適当なこと言って、騎士団が来なかったらどうするつもりだったんですか!?」


「騎士団が現れなかったとして、なにか問題でもあるのですか? クリムゾンフリートは連合の敵です。もし騎士団が現れなければ空賊は貴重な資源を無駄に浪費し、現れればこうして私達を守る盾となる……少なくとも私にとっては、なんのデメリットもありませんが?」


「な、なんという……! 俺は今、初めてフィン殿が恐ろしいと思ったぞ!!」


「ただの変な人じゃなかったんですね……!」


 語られたフィンの恐るべき策謀に、ルカ達は心の底からこのハイパーマッドサイエンティストを見直した。


「とはいえ、騎士団については私もその全貌を把握しているわけではありません。不測の事態が起きる前に、一刻も早く身の安全を確保するとしましょう」


「わかった! ならば、テオバルト殿のことは俺に任せてくれ!」


「気をつけてね、ルカ……! みんなのことは、私がちゃんと守りますから!」


「ああ! 頼んだぞ、リゼット!」


 ――――――

 ――――

 ――


「三階の貴賓室――! この先だな!!」


 ココノ達の誘導をリゼットに任せ、ルカは上階を目指して走る。

 すでにアズレルとは、リンクによって感覚が共有されている。

 ルカが三階に飛び込む頃には、アズレルもこの館の壁をぶち破って中に突入してくるだろう。だが――。


『この、大人しくしろ――!』


「や、やめてください……っ。わたしは……っ!」


「でぇえええええええい! 竜騎士ドロップキイイイイイック!!」


『アバーー!?』


 その時だった。

 廊下を進むルカの視界に、逃げ遅れた一人の少女を無理矢理連れ出そうとする敵兵の姿が飛び込んでくる。

 しかしルカは止まらず、一瞬でその騎士を成敗すると倒れ込んだ少女に手を差し伸べた。


「もう安心だ! 怪我はないか?」


「あ、あなたは……っ? ありがとう……ございます……っ」


「ん……?」


 薄闇の中、上空の照明弾が再び辺りを照らす。


 するとそこに浮かび上がったのは、切りそろえられた美しい銀髪と、その銀色の前髪で瞳が隠れる〝凄まじい幸薄オーラ〟を放つ絶世の美少女だった。


「えっと……?」


「あ、いや! その……君とは初対面だと思うのだが、どこかで会ったことがあるような気がして……」


「……?」


 思わず首を傾げるルカに、少女も不思議そうに前髪の向こうの瞳をまたたかせる。

 だがやがて少女は差し出されたルカの手を取り、ただでさえ小さな肩をさらに縮めて立ち上がった。


「俺はレジェールの誇り高き竜騎士、ルカ・モルエッタだ! 君は?」


「わたしは……ルーナ・フォン・ネザーリンク……です。ここには、お兄様と一緒に……」


「ネザーリンク……? まさか、君はテオバルト殿の?」


「あ……はい、そうです。妹、です……わたし……」


 ルカの勢いに後ずさりながらも、銀髪の少女――ルーナは、非常事態という理解もあってか、彼女なりに懸命に言葉を発した。


「だから奴らは君を連れ去ろうとしたのだな! だが安心してくれ、俺は君の兄上を助けに来たのだ!」


「たすけに……ですか? でも……」


「ん?」


 助けに来たというルカの言葉に、ルーナはなんとも申し訳なさそうにしょんぼりと肩を落とした。


「わたし……見てたんです。お兄様は、レジェールの皆様にとても酷いことをして……本当に、ごめんなさい……っ」


「ま、待ってくれ! あの件で君まで謝る必要はない。それにテオバルト殿は、ちゃんとあの場でリゼットに謝罪してくれただろう? それで十分だ」


「でも……」


 そう言って安心させるように笑うルカに、しかしルーナはその表情をさらに曇らせた。


「やさしい人……なんですね……」


「そ、そうだろうか? 自分で言うのも何だが、かなり怒りっぽいのではと――」


「この道を真っ直ぐ行って……その先を右です。そうしたら、そこに階段があります。お兄様は、その上の展望広場に他のみんなと逃げました……」


「え?」


 か細いが、はっきりとした声でルーナはそう告げた。

 そして自分のドレスの裾を、きゅっと両手で握り締める。


「本当に、ごめんなさい……わたしなんかを助けてくれて、ありがとう……っ」


「なっ!? ど、どこに行くのだ!? ルーナ殿!!」


「もし危なくなったら……あなただけでも逃げてくださいっ!」


 それは、まさに不意打ちの逃走。


 テオバルトの居所を告げたルーナは、次の瞬間にはルカの横をすり抜けて駆け出し、戦火で明滅する廊下をあっという間に走り去ってしまったのだ。


「ルーナ殿、君は……」


 本来なら、追いかけて連れ戻すべきだっただろう。

 だがルーナのまとう独特の雰囲気と、わずかに感じた〝決意の気配〟がルカにそれをさせなかった。


「やはり俺は……彼女とどこかで……」


 脳裏にひっかかる違和感を必死に振り払い。

 ルカはルーナが教えてくれたテオバルトの待つ展望広場へと、再び闇の中を駆けていった――。

 

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