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第五十七話


「あーあ……あんなところであんなこと言っちゃって、これからどうするつもりなんです? もうぜーーーーったいに、言い逃れできませんよ?」


「す、すまない……! だがそもそも、俺はリゼットから逃げるつもりはないぞ!」


「そりゃあ、私だってそうですけど……むふ、むふふ……!」


 夜。

 同盟とレジェール両国の来賓が集う迎賓館のバルコニー。

 

 そこには、赤いドレス姿のまま手すりに両肘をついてにやけるリゼットと、少しだけ申し訳なさそうに目を逸らすルカが二人きりで話し込んでいた。


「でも、やっぱりルカにあんな風に言って貰えて、すっごく嬉しかったです……いきなり婚約なんて言われて、ルカも少しは慌ててくれたんですか?」


「ぶっちゃけそうだな……それに、リゼットはずっと俺が一人前の竜騎士になるのを待ってくれていたし……」


 言いながら、ルカはリゼットと並んで手すりに肘をつく。

 そして頭上に広がる満天の星空を見上げた。



『僕も竜騎士になる……っ! 一人前の竜騎士になって、アズレルと一緒に母さんを迎えに行く! 僕一人でもちゃんと、できるって……! 母さんに見せるんだ――!』



 広がる星の海の向こう。


 ルカは母が最果ての空に旅立ち、光の卵に包まれた赤ちゃんドラゴンのアズレルだけが戻ってきた時の事を思い出す。


「あの時も、リゼットはずっと俺の傍にいてくれたな……」


「あんな時に、ルカを一人になんてしませんよ……」


「その後だってそうだ……きっと俺は、リゼットがいなかったらとっくにどこかの空で野垂れ死んでいたと思う。それくらい、リゼットは俺の事をずっと助けてくれたんだ」


 ルミナが死に、ルカが天涯孤独となった後。

 それまでのように素直に好意を口にできなくなった二人の間には、いつしか親密でありながらも、もう一歩踏み込めない距離が生まれていた。


 それはきっと、傷ついたルカが本当の意味で歩き出すまで寄り添うと決めたリゼットの優しさ。

 そしてそんなリゼットの想いに応えたかった、ルカの覚悟だったのだろう。


「リゼットのおかげで、最近は俺を時代遅れなどという言葉もさっぱり聞いていない。あれだけ俺を認めてくれなかったバロア殿も、今では俺の家に遊びに来てくれるようになった……きっとこれなら、母さんも俺を一人前の竜騎士と認めてくれると思う」


 だがリゼットは、これまでルカがどれだけ生活に困っていようとも、金銭の類いを直接援助したことはない。

 ただルカのために仕事を見つけ、ルカに仕事を紹介し、まだ未熟で臆病者だったルカと一緒に空を飛んで仕事を解決してきただけだ。だから――。


「俺はリゼットが好きだ。子供の頃は毎日のように言っていたが、あの頃よりもずっと……比べものにならんくらい大好きなんだ! これからもずっと……俺と一緒にいて欲しい!!」


「はい、よろこんでーーーーっ!!」


「ぐわーーっ!?」


 思いの丈をルカが伝えきったのと同時。

 伝えた言葉以上の圧倒的パワーで飛び込んできたリゼットを抱き留め、ルカはバルコニーの壁面に背中をとんとぶつけた。


「えへへ、昔は私がこうしたらルカも倒れちゃってたのに……今は、こんなにちゃんと受け止めてくれるんですね」


「そうなれてよかった……これから先も、何度だって受け止める」


「こんなに待たせたんですから、これからは本当にずーーーーーーっと、一緒にいてもらいますからね。私ってすっごくわがままで、とっても欲張りなんですから!」


「ああ、知っている!」


 煌びやかな晩餐会の外れ。

 人気の無いバルコニーのさらに隅っこの、月明かりだけの薄闇の中。


 重なり合った二人の影はこれ以上ないほどに近づき、やがて一つに重なり合い――。


 ――――――

 ――――

 ――


『キャーーーーーーーッ!』


「ぬお!?」


「ひゃわーっ!?」


 だがその時だった。

 あわやそのまま二人の世界に突入かと思われたルカとリゼットの耳に、晩餐会会場から響いた悲鳴が飛び込んでくる。


 いや、異常はその悲鳴だけではない。


 悲鳴と同時、バンッと断ち切れるような音を発して全てのガス灯が消え、会場は一瞬にして完全な闇と人々のどよめきに包まれた。


「これは……いったい何があったのだ!?」


「もしかして、事故とかでしょうか?」


「誰か! 誰かいないのか!? 明かりをつけるように言ってくれ!」


「みなさん落ち着いて! 慌てて動くと、ぶつかって怪我をしますぞ!」


 そうしている間にも、暗闇に包まれた会場からは騒ぎを落ち着かせようとするいくつもの声が聞こえてくる。

 一方、幸か不幸か月明かりがあるバルコニーの二人には会場周辺の様子がはっきりと見えていた。


「たはは……なんだか、また邪魔されちゃった感じですね?」


「あ、いや……うん……でも、これからはいつでもできるし……」


 気恥ずかしそうにてれてれしつつ、二人はバルコニーの影から室内の様子をのぞき込もうとした。すると――。


『――動くな! 動けば全員ただでは済まさんぞ!』


『我らは虚空の騎士団(ヴォイドオーダー)! 我らの掲げる遠大なる野望のため、この場にお集まりになった皆様にはしばしの我慢をお願いする!』


「なっ!? 虚空の騎士団だと!?」


「どうしてあの人達が……! それに、中にはまだココノとフィンさんが……!」


 二人が視線を向けた暗闇から現れたのは、扉を開けてなだれ込む大勢の人影。

 つい先日レジェールを襲ったばかりの、虚空の騎士団と名乗る一団が再びこの外交の場を制圧に現れたのだ。


『空中庭園にお集まりの紳士淑女の皆々様に告ぐ! 我ら騎士団の狙いはただ一つ、レジェール王家第一王女のリゼット・レディ・レジェール殿下の身柄である! レディリゼット! この場にいるならば、今すぐ名乗り出られよ!』


『聞いているかリゼット姫よ! 偉大なる我らが主が殿下の力を必要としておられる! この栄光に服し、大人しくご同行願おう!!』


「あれはまさか……! この前の空飛ぶ城か!?」


「ちょ、ちょっとこれは……いくらなんでもヤバい感じじゃないです!?」


 美しい夜空を覆い隠し、重苦しいエンジンと無数のプロペラ音を伴い、幾筋ものサーチライトの柱を空に浮かべた巨大な黒い影が空中庭園の頭上に迫る。


 それは、すでに会場を制圧した虚空の騎士団の居城。

 レジェールチャンピオンシップに現れ、都に大損害を与えた空中要塞だった――。


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