表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
56/79

第五十六話


「カッカッカー! 待たせたな皆の者ー! オルランド同盟西空方面軍大将にして、同盟議長ミュラウスが長子――このテオバルト様が忙しい中わざわざ来てやったぞ! せいぜい光栄に思い、盛大に出迎えるがよい! カーッカッカッカ!」


「な、なんなのだあいつは!? まさか、あれがリゼットに婚約を申し込んだという!?」


「ずいぶん強烈なのが来たわね……!」


 現れたのは、大勢の従者達に担がせた〝クソデカ金の神輿〟の上に腰掛けた褐色肌の美青年――テオバルト・フォン・ネザーリンク将軍。


 周囲を見下すテオバルトの眼差しは、冷徹かつ高慢そのもの。


 さらにテオバルトはこの社交の場においても堂々と腰から長剣と拳銃を誇示するようにぶら下げており、彼がいかにこの場を軽視しているかをよく表していた。


「きゃー! テオバルト様ー!」


「偉大なるテオバルト将軍に敬礼!」


「カッカッカ! そうだそうだ、もっと俺を褒め称えるがよい! わははー!」


 だが目を丸くするレジェール側のメンバーとは裏腹に、同盟側の参加者はテオバルトの扱いなどとうに心得ていた。

 同盟の来賓達はテオバルトのご機嫌を伺うように歓声を上げ、中には彼の似顔絵が描かれた旗をひらひらと振る者までいるありさまだ。


「おや……? その燃えるような赤い髪に、太陽のように輝く瞳……もしや、貴様がリゼット・レディ・レジェールか?」


「はい、そうです。初めましてテオバルト様。お会いできて光栄です」


「なるほど、やはりな……! ククク……これはいい。もともと貴様に興味など無かったが、なかなかどうして、俺の想像をはるかに超えた気高さと美しさではないか!!」


 金の神輿がリゼットの前で止まり、波がひくように彼女を囲んでいた来賓達がささーっと離れる。

 後には獲物を品定めするようにリゼットを見下ろすテオバルトと、優雅な笑みを浮かべて一礼するリゼットだけが残された。


「いい……! その生意気そうなところも実に良い! 選ばれし支配者である俺の伴侶とするに、貴様ほど相応しい女はおらん!! 間違いない!!」


「あら、そうなんですか?」


「な、なんなのあいつ!? いくら議長の息子だからって、マナー違反とかそういうレベルじゃないでしょ!?」


「キエェエエエーーーーイ! ここに来るまで興味すらなかったとほざきながら、リゼットを見るなり妻扱いとは!! 許せん……ッッ! これ以上はもう我慢ならんッ!!」


 その立ち位置と同様、完全にリゼットを下に見たテオバルトの言動と態度に、ルカとココノは今にも飛び込みそうな勢いで肩を震わせる。

 しかしリゼットは薄い笑みを浮かべたまま、表情をぴくりとも変えずに黙ってテオバルトの言葉を聞いていた。


「気に入ったぞレジェールの姫よ! 特別に、貴様には俺の妻となる名誉をくれてやろう! 金も地位も水も……ついでに貴様の〝ちっぽけで貧相な祖国〟もこの俺が守ってやる!」


「……ちっぽけで貧相?」


「うお……っ!?」


「あ……っ」


 しかしその時、リゼットの気性をよく知るルカとココノは、テオバルトが〝リゼットの核地雷〟を全力で踏み抜いた瞬間を見た。


「ふふん……レジェールなどという〝くだらん小国〟の姫などより、同盟のファーストレディははるかに贅沢な暮らしができるぞ! どうだ……死ぬほど嬉しかろう!?」


「へー? そーですねー……」


 テオバルトの言葉に、リゼットは人差し指を艶やかな下唇に当て「うーん?」とわざとらしく考える素振りを見せたが――。


「だーれが貴方なんかの妻になるもんですかっ! 私、あなたみたいに偉そうで俺様系の人って基本的に無理なので! 死んでもお断りです!! それじゃ!!」


「カーッカッカッカ!! わかるぞ、やはり泣くほど嬉しいか……って、は?」


 瞬間、神輿に乗ったテオバルトの顔が凍り付く。

 一方、リゼットは凍結したテオバルトの前で優雅に一礼。

 何食わぬ顔でくるりと背を向けると、そのやりとりを遠くから見ていたルカとココノを見て――。


「(うひゃー! 私ともあろうものが、あまりにもアレすぎてついやっちゃいましたーっ!)」(てへぺろ)(一応焦ってはいる)


 と、渾身のアイコンタクトを送った。


「(て、てへぺろじゃないのだがーーーー!?)」


「(なにやってんのあの子ーーーー!?)」


「ま、待て待て待て!! 貴様今なんと言った!? 断わる!? 同盟議長の息子である俺の求婚を断わるだと!? 待て! 戻ってこい!!」


 だがしかし、意外にもテオバルトが見せたのは怒りではなく激しい動揺だった。

 あのような態度で接しておきながら、まさか〝自分の求婚を断わられるとは一ミリも思っていなかった〟らしい。


「この……! 待てと言っておろう!? レジェールごとき小国の姫が、同盟議長の息子である俺の求婚を断れるとでも思ってるのか!? 少しは立場をわきまえろ!!」


「ちょ……なんですっ!?」


「いいから俺の言うことを聞け! 俺はなんとしても、貴様を妻に――!」


「――やめろ。リゼットが嫌がっている!」


 なおも追い縋るテオバルトは、リゼットの腕を掴み強引に引き留めようとした。

 だがそれとほぼ同時、横合いから突き出されたルカの手がテオバルトを止め、二人の間に壁となって立ち塞がった。


「ルカ……っ!」


「なんだ貴様はッ!? この俺の邪魔をするか!?」


「俺はルカ・モルエッタ! レジェールの誇り高き竜騎士だ!」


「りゅ、竜騎士だと……? まさか〝あの時の〟……!」


 助けられたリゼットは子犬のようにルカの背に隠れる。

 一方のテオバルトはルカの名を聞いて顔色を変えると、今度こそ〝強烈な怒り〟にその表情を歪めた。


「おのれぇぇええ……!! また俺の邪魔を――!!」


「また?」


「あ、いや……こっちの話だ!! それで竜騎士よ、どうして貴様のような下民風情が俺の邪魔をする!? 俺の一存次第で、貴様らなど国ごとまとめて雲の下に叩き落とせるのだぞ!!」


「どうしてだと!? そんなこと決まっている!」


 敵意を剥き出しにしたテオバルトの問いに、ルカは一度だけ自分の背中にしがみつくリゼットを振り向き、覚悟を決めたように頷いた。そして――。


「俺にとってリゼットは、この空で一番大切な人だからだ!!」


「え……?」


「うわー……! ルカったら、ついに言ったわね……!」


 テオバルトとリゼットだけではない。

 同盟、レジェール両国の来賓の前で放たれたルカの言葉に、居合わせた全ての人々は目を丸くして言葉を失う。


「え? ええええっ!? ちょ……い、今っ!? それ今なんですかっ!?」


「今だ! そもそも俺は、子供の頃からずっと……心の底からリゼットが好きだ!!」


「うひゃー!?」


「き、貴様らぁぁぁあああああッ! この俺を虚仮にしおったなぁああああ!!」


 不意に放たれたルカの告白にテオバルトは憤死寸前に激怒し、言われた側のリゼットも真っ赤になって反応不能に陥る。


「先ほどのリゼットの物言いについては謝罪する! だが道筋を正せば、先に俺達の祖国レジェールを取るに足らぬ小国と見下し、無礼を働いたのは貴殿であろう!」


「小国を小国と見下して何が悪いか!! 同盟を敵に回してレジェール如きが生き残れると――!」


「いえいえ、事はそう簡単な話ではありませんよ。ねぇ、〝連敗続きのテオバルト将軍〟」


 だがその時、ルカでもココノでもない第三の声が響く。


「お、俺が連敗続きだと!? 誰だ貴様は!?」 


「フフフ……お初にお目にかかります。私はレジェールで古物商を営んでおります、フィン・ロックウェルと申します」


 今にも一触即発の様相を見せるルカとテオバルト。


 だがそこに飛び込んだのは、鋭いナイフのような冷徹さを持って放たれたハイパーマッドサイエンティスト、フィンケルの言葉だった。


「ただでさえ連合に負け続きの同盟が、レジェールまで敵に回せばどうなるか……テオバルト将軍ほどのお方であれば、当然ご理解されていらっしゃると思いますが。フフ……」


「ぐ……っ!」


 フィンの言葉に、テオバルトはぐっと言葉を飲み込む。

 

 そもそも同盟がレジェールに攻め込めば、レジェールは連合に助けを求めればよいだけだ。

 そうなれば連合はレジェールという軍事・経済の要衝を足がかりに、これまで以上に同盟との戦いを有利に進めることができるだろう。


「ぐぬ、ぐぬぬぬ……! ぐぬぬぬぬううううううう――!!」


 リゼットに拒まれ、ルカに阻止され、ダメ押しにフィンにまで諭されたテオバルトは、怒りの三重奏に拳をわなわなと震わせて堪え忍び……やがてふうと息をついて顔を上げた。


「わかった……今回の件はたしかに俺に非があったやもしれん。このとおり詫びるゆえ、この場での無礼はどうか許していただきたい……」


「お、おお……?」


「あ、はい……っ!? いえ、その……私も初対面で言い過ぎました。ごめんなさい、テオバルト様」


「すまん、レディリゼット……このような無礼の後で押しつけがましいことだが、せめて臣下達が用意したもてなしは最後まで楽しんでいってくれ。では、俺はこれで失礼する――」


 当初の傍若無人な姿はどこへやら。


 すっかりしおらしくなったテオバルトはそう言って、金ぴかの神輿を侍従達と一緒になってしょんぼりと片付けると、肩を落してとぼとぼとホールから退出していった。だが――。


「くそ……! 絶対に許さんぞ竜騎士……! 最後に笑うのは俺だということ、すぐに思い知らせてやるからな!!」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ