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第五十三話


 僕はまだ、僕のことも、連合のことも、世界のこともなにもしらない。

 だけど、僕にもわかることはあるんだ。


 僕は、みんなを守らないといけない。


 僕はみんなより強いから。

 僕より弱いみんなを守るんだ。


 もちろん、ちょっと大変だなって思うこともあるけど。


 でも、頑張るよ。


 僕は、みんなのことが好きだから――。



 Side flight

 ――

 総統だった少年


 ――――――

 ――――

 ――


「す、すごい! この子は天才……いや、神の子だ!」


「総統が予言した通りだ! 我々連合は、神の子を指導者に迎えたのだ!」


「神の子……?」


 それはルカが竜騎士として身を立てるより10年以上も前。

 

 当時の連合総統ガーライルは、突如として連合首都のスラム街で見いだした一人の捨て子を次期総統に指名。


 それから一年後、まるでそうなることがわかっていたかのようにガーライルはこの世を去り。

 連合総統の座には、ガーライルが拾った捨て子の少年――まだ幼子のゼノンが就くことになった。


「さすがゼノン様だ! まだ二歳だというのに、世界中の本をスラスラとお読みになられている!」


「見ろ! 三歳のゼノン様が、フェザーシップを完全に乗りこなしておられるぞ!」


「まあ! まだ四つになったばかりなのに、ゼノン様のお作りになられた料理の美味しさには、連合一の料理人もかないませんわ!」


 ゼノンは天才どころのレベルではなかった。

 物静かで感情表現に乏しい点を除けば、ゼノンは人が行うあらゆる営みにおいて卓越していた。


 だが彼が生まれ持っていた神性の本質は、その天才ではない。


「おはようございますゼノン様。今日も連合のため、この身を賭して職務に励みます!」


「うん……ありがとう。君が本当にそう思ってるってこと、〝よくわかるよ〟」


「こんにちはゼノン様! 本日もゼノン様の美しいご尊顔を拝謁できたこと、喜びの極みでございます!」


「ふーん……?」


 日々めまぐるしく現れる様々な人々。

 ゼノンはそれら大勢の人間達の〝力を感じ取ることができた〟。


 ゼノンの言う力とは、その人間の持つ心・気分・意志のようなもの。

 彼にかかれば、目の前の人間の言葉の真偽はもちろん、感情まで把握することができた。

 

 さらにゼノンはこの能力と生来の天才を組み合わせ、〝一度見た力……技や身のこなし、話法などを完全に模倣し〟、我が物とすることすら可能だった。


 もちろん、先天的な特徴を由来とする能力はすぐには模倣できない。


 だがゼノンは時間さえかければそれすらも可能であり、しかもひとたび模倣を終えれば、彼は本来の使い手よりも強く、速くその力を振るうことができた。


「な、なぜ我々の計画がバレていたのだ!?」


「どんな暗殺方法も、あの総統には通用しない……!」


 初めは幼い総統に代わって連合を我が手にしようと企む輩もそれなりに存在したが、その全てが圧倒的神性を誇るゼノンの前に膝を折り、もしくは敗れ消えていった。


「ゼノン様のためならば、この命も惜しくはありません! どんなご命令でも、なんなりと仰せ付け下さい!」


「ゼノン様のおかげで連合はますます栄え、民もみな喜んでおります!」


「うん……僕もみんなが喜んでくれるなら、嬉しいよ」


 結果として――ゼノンの周囲には程度の差こそあれ、彼を慕う有能な者が多く集った。


 だがそんな結果とは別に、ゼノンは連合という国が好きだった。

 スラムで生まれた親無し子であるにもかかわらず、自分を認め、支えてくれる人々が心から大好きだった。


 表情にも、言葉にもうまく出せないが。

 それでもゼノンは、連合の全てを愛していた。


 物心ついた頃には、ゼノンは歴代総統の誰よりも強い使命感と、愛国心を持つ偉大な総統に――〝なれる素質〟をたしかに持っていた。だが――。


「またオルランドが攻めてきたの?」


「はっ! これまで何度となく我々に敗れておきながら、性懲りもなく……!」


「報告します、総統閣下! 東方の浮遊諸島を根城とするシジマ共和国の艦隊が、我が国の辺境を攻撃しているとの連絡がありました!」


「そう……じゃあ、戦わないといけないね……」


 連合の領土は広い。

 そしてその領土は、ほぼ例外なく水資源に恵まれている。


 ヴァルツォーク連合の首都がある地は古くから神の大地と呼ばれ、無尽蔵の水資源を持つ。


 だが神の大地から湧き出る水を、世界中の領土全てに行き渡らせているのは連合が長年続けてきた地道な輸送努力によるものだ。

 決して、一朝一夕で連合全てが水の国になったわけではない。


 だが、それはあくまで連合の事情。


 そんなことなど知らない他の国々の中には、連合は大量の水資源を独占していると罵ったり、領空に入り込んで略奪を行う者も多く、それは長年連合を苦しめる悩みの種だった。


「いやだな……戦いなんて、本当に……本当に意味ないのに」


 ゼファーは戦いが嫌いだった。

 特に多くの血が流れ、命が消える戦争が嫌いだった。


 連合は強く、戦えば負けはしない。


 だがその戦いで大勢の命が失われ、多くの血が雲の海に消えていることを幼いゼノンは理解していた。

 それになにより、戦争によって愛する自国の民が傷つき、涙することに……総統ゼノンは誰よりも心を痛めていた。


「最果ての空を越える?」


「はい、そうです。最果ての空……その向こうには、セレスティアル文明の失われた技術が今も手つかずで残っていると言われています。その技術を手に入れれば、もはやこの空で連合に刃向かおうなどと考える者はいなくなるでしょう。フフ……」


「セレスティアル文明の遺産……その力があれば、もう戦争をしなくてよくなるの?」


「もちろんです、閣下。それに、この空から国家間の争いをなくすだけなら、今の私でも簡単に実現できます」


「どういうこと?」


 悩めるゼノンの前に現れたその男こそ、全空一のハイパーマッドサイエンティスト、フィンケル・クロウ。

 フィンケルは自力で再現した様々な古代文明の技術を手土産に、ゼノンに最果ての空を越えるという夢を与えた。


「連合にあって他国にないもの……それは水です。ですから、世界中の水を連合が支配してしまえばいい。水を盾に取られては、たとえオルランドだろうと辺境の蛮族だろうと、連合に逆らうことはできなくなります」


「でも……そんなこと、本当にいいのかな?」


「やるかやらないか、それは総統閣下にお任せします。戦乱で失われる命と水不足によって失われる命。どちらを重く見るかということですから」


「…………」


 人道とか倫理とかは全く気にしないフィンケルとは違い、ゼノンはこの時夜も寝ずに悩んだ。


「わかったよ。方法は君に任せる……それと、必要な実験場も作るから」


「ありがとうございます。このフィンケル・クロウ……総統閣下のご期待に、必ず応えてご覧に入れますよ。フフフ……」


 結局、ゼノンはフィンケルの案を採用した。

 全ては、連合の幸せと平和のため。

 

 事実、この作戦を開始してから数年でオルランド同盟は大幅に弱体化。

 辺境の国々も続々と連合の傘下に加わり、戦争による連合の被害は目に見えて減っていった。そして――。


「同盟の大艦隊が、最果ての空を目指して進軍しているとのこと……きっと彼らも古代文明の遺産を手に入れ、劣勢を覆そうとしているのでしょう」


「それはだめだ……最果ての空は、僕達が先に越える」


「ええ、そうでしょう。すでに最果ての空を越えるための重装艦隊の準備はできております。さあ、ご命令を……総統閣下」


「ん……」


 オルランドの艦隊が最果ての空を越えようとしている。

 その報せを受けたゼノンは、当時まだ十一歳だった。


 しかしゼノンは眠そうな瞳をはっきりと開き、連合総統が代々身につける素顔を隠すマスクをつけると、黒いマントをひるがえして将校達の前に堂々と歩みを進めた。


「我が勇敢なる連合将兵達よ。今から目指すのは最果ての空――これまで誰もその先を見たことのない、未開未踏の空だ」


 だがこの時、ゼノンは思いもしていなかった。


 最果ての空を越えるために数年をかけて準備した大艦隊が、たった一人の竜騎士によって壊滅させられ、そしてその数年後には――。


 ――――――

 ――――

 ――


「すごい……あれが、竜騎士の力……」


 氷天の花園上空。

 成長したゼノンがそこで見た二度目の竜騎士の力は、かつて見た竜騎士の力とは〝明らかに違う力〟だった。


「あったかい……この広い空にこんな力があるなんて。知らなかったな……」


 かつて見た竜騎士ルミナの強大な力を、ゼノンは欲しいとは思わなかった。

 ただの強大な力なら、すでに連合にもゼノン自身にもあるからだ。


 だが五年の歳月を経て再び目にした、ゼノンと同じ年頃の少年が操る竜騎士の力には、連合にもゼノンにもない〝何か〟があった。


「やるぞアズレル! 必殺――!!」


「ジ・オード・アズライト・ロアーーーー!!」


「…………」


 目の前を横切り、愛機の翼を容赦なく切り裂く光。

 しかしそれほどの破壊力を持ちながら、絶対にゼノンを傷つけはしないという守護の意志に満ちた光が、視界を包む。


「ゼファー!!」


「ルカ……やっぱり君の力は……」

 

 その暖かな光を背にしながら、自分を助けようと必死に手を伸ばすルカの姿に、ゼノンはある確信を得ていた。

 フィンが予測し、ゼノン自身がルカと戦ってでも確かめたかった……ある確信を。


(やっぱり、ルカの力は〝竜騎士の力じゃない〟……きっと僕がドラゴンに乗って、いくら時間をかけてもこんな力は手に入らない……でも、それじゃあ君は……?)





 Next Ninth flight

 ――

 婚約破棄?するお姫様

 

 

▽▽▽▽お知らせ▽▽▽▽


 こんにちは!

 いつもご覧下さりありがとうございます。大変励みになっております!

 

 次回更新ですが、三日のお盆休みを頂いて8/17(日)になります!


 本作はここで折り返しとなり、ここからは後半戦!

 しっかり休んで後半戦の構想も固めていきます!!

 

 今後も完結目指して全力で頑張りますので、お見守り頂ければ幸いです!

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