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第五十二話


 戦いは終わった。


 レジェールチャンピオンシップ二日目に起きた、虚空の騎士団(ヴォイドオーダー)と名乗る一団による王都襲撃は、迅速な対応と各国のエース達による連合チームにより撃退された。


 被害規模にも関わらず犠牲者は出なかったが、伝統あるレースが襲撃されたことで、華やかな会場の雰囲気は一転。

 傷ついた街並みとレース会場は、否が応にも人々の心を暗く沈ませ――。


「いーや! 俺達のレースはまだ終わってはいない! 集まってくれた大勢の人々のために……最後まで飛ぶ姿を見せるのだ!」


 だがその時だった。

 虚空の騎士団によって傷ついた都の空を、色とりどりのスモークを焚いたフェザーシップが次々と飛ぶ。

 

 たった今命がけで戦ってくれたばかりの飛行士達のその行動に、街の人々は一斉に空を見上げ、子供達は笑顔を取り戻して走り出す。そして――。


「だから安心してくれ! レジェールには、誇り高き竜騎士である俺とアズレル……そして大勢のフェザーシップ乗りがいる! たとえこれから先でなにがあろうと、みんなには俺達がついている……それを忘れないでくれ!」


「そうですっ! 私も、この空が大好きなみんなも! 皆さんを守るためなら……何度翼が折れたって、何度雲に落ちたって、何度でもまた飛び続けますからっ!」


「ははっ! ルカの奴、いいこと考えるじゃねーか! こつはココノの入れ知恵か?」


「私はなにも言ってませんよ! でもまあ……私が教えたダンスとかそういうのも、ちょっとは参考になってるのかもしれませんけど」


「とっても! すっごくいいと思いますっ! 僕も、こうやって空を飛ぶルカさんの姿に救われたんです……きっと、街のみんなだって!」


 やがて都の上空にはスモークで描かれた鮮やかな虹が浮かぶ。

 そして最後に現れたルカとアズレル、そして代替機に乗ったリゼットは、その虹を背にして実に楽しげに舞い踊る。


 それを見た人々は大喜びで手を振り、歓声を上げ、疲れも忘れてレジェールチャンピオンシップのフィナーレを見届けた――。


 ――――――

 ――――

 ――


「――ありがとう、ルカ。君に会えて、本当に良かった」


「ゼファー……いや、ゼノンと呼んだ方がいいのか?」


「ううん……適当に考えた名前だったけど、もうそれでいい。君と一緒にいる時くらいは、ゼノンじゃなくてもいいのかなって……そう思えたから」


 激動のレースから二日後。


 ルカは連合に帰るゼファーとフィンを見送るため、〝たった一人で〟レジェールの港へとやってきていた。


「それで、これからどうするつもりなのだ? 軽々しいことは言えないが……俺にはゼファーが、これまでにやってきたことを後悔しているように見えたのだ。もしそうなら――」


「ルカの言うとおりだよ。僕だって、連合だけが幸せならそれでいいなんて、上手くいくはずがないのはわかってた。けど僕は弱くて、臆病だから……大切なみんなが戦争や水不足で泣いているのが、耐えられなかったんだ」


 ルカの問いに、ゼファーは物憂げに俯く。


「一つ断わっておきますが……総統にそうしろと助言したのはこの私です。詳細は伏せさせていただきますが、直接的な武力行使よりもずっと効率的で、犠牲の少ない方法があると。つまり、それについて総統が思い悩むことなんてこれっぽっちもないのですよ。フフフ……」


「フィン殿がそんなことを!?」


「それを採用したのも、命令したのも僕だ。それに僕は……悩んではいても、やったことから逃げるつもりはないから」


 フォローのつもりだったのか、横から出てきたフィンの言葉にゼファーは無表情のままぴしゃりと言い切る。そして――。


「だから……これまで他の国にやってきたことも、もうやめる」


「ゼファー……!」


「ルカを見て気付いたんだ。ルカにはルカの、僕には僕の力がある。大切なみんなを守るために……今の僕と連合ができることを探そうと思う」


「承知しました……まあぶっちゃけ、私の計算は外れレヴナントは竜騎士相手にボッコボコにやられてしまいましたが……だからといって、次も同じではありません。この心と脳が動く限り、何度でも計算し、進化する……それが我々人類の長所なのです。フフフ……」


 すでに連合からやってきた輸送部隊によってレヴナントは回収されている。

 フィンの言葉通り、レヴナントが今回の敗北データを元に更なる進化を遂げることは間違いなかった。


「おお、フィン殿もなにやらかっこいいことを言うではないか!」


「あのね……前から思ってたんだけど。フィンは計算とか予想とか、しない方がいいと思う」


「フフ、ご冗談を。計算による予測は私の最も得意とするところ……それをせずして、私に何が残るというのです?」


「そうかな? フィンには、他にもいいところがいっぱいあるのに」


 全ての計画が失敗に終わったというのに、フィンはなぜか得意げに眼鏡をクイっと中指で押し上げる。

 ゼファーはそんなフィンをぼーっと見つめると、やがて頷いてルカに向き直り、初めて会った時のように右手を差し出した。


「ありがとう、ルカ……それと、嘘をついてごめん」


「いいのだ。俺はこのレースでゼファーと出会えたことを死ぬまで忘れない。もし次に会う時は、今度こそ友達として……一緒に飛ぼう」


「うん……必ず」


 差し出された手を力強く握り返し、ルカは満面の笑みを浮かべてゼファーと頷き合う。


 また必ず会おうと。

 次は敵としてではなく、今度こそ友達として一緒に飛ぼうと。


 まだお互いについて知り始めたばかりの二人の少年は、そう固く約束して今は別れた――。


 ――――――

 ――――

 ――


「ま、待ちたまえ! そこのこぞ……いや、ルカ・モルエッタ君!」


「むむっ!? あなたは……?」


「バロア宰相じゃないですか! そういえば、お父様と一緒じゃなかったんですね?」


 ルカが連合に帰るゼファーとフィンを見送ったその日の夜。


 街の復興や救助活動が一段落したタイミングで事の顛末を国王ガイガレオンに説明し、謁見の間から退出したルカとリゼット。

 だが二人は、廊下で待ち構えていた初老の男――いつになくしわしわとなった表情の宰相バロア・オクムスタンに呼び止められていた。


「バロア殿? もしや、貴方が宰相殿か!?」


「うほん、おほん……そ、その通りだ。君とこうして話すのは初めてだと思うが……実は、私は君に謝らねばならぬことがあってな。それもその……一つどころではなく、山ほど……」


「ならば、まずは俺から言わせて貰ってもいいだろうか?」


「え!? あ、ああ……構わんが」


「今年のレジェールチャンピオンシップ……竜騎士の俺を特例で出場させていただき、ありがとうございました。貴方のおかげで、俺は夢のような経験ができました……心から感謝しています!」


「それに、私が墜落したあとも真っ先に飛び出して助けようとしてくれたんですよね? 嵐でよく見えませんでしたけど、お父様に聞きましたっ。ありがと、バロア!」


 そう言ってルカは勢い良く頭を下げ、リゼットも同じくバロアに感謝の意を示した。


 すでに、ルカもリゼットもバロアの謀略は知っていた。


 だがそれでも、結果として〝バロアの計らい〟で世間から忘れ去られていた竜騎士が大勢の人々の目に触れたのも事実。

 そしてそんなバロアが、ルカとリゼットのために命がけで戦ったのも純然たる事実なのだから。


「ち、違うぞルカ君! 私は君を陥れようとしたのだ……大勢の観客達の前で、笑いものになればいいと――!」


「それについては、私達じゃなくて〝お父様が判断する〟って言ってましたよ? それに、当のルカは全然気にしてませんもんね?」


「うむ! 今にして思えば……もし以前の俺がギルドから追放されていなくても、やはり俺は周囲の目を気にして、こそこそと隠れて仕事を引き受けていたはずだ。だがそれが今は、宰相殿のような立派な方も俺に話しかけてくれるようになった……だから俺は、これでいいと思っている!」


「だ、だが……それでは私の気がすまんのだ!」


「むふふ、じゃあ私達は疲れたのでこれで! もし何か言いたいことがあるなら、お父様にお願いしますねっ。それじゃ、行きましょルカ!」


「お、おお? では宰相殿、また今度改めてご挨拶にお伺いする! 本当に、大変お世話になった!!」


「ま、待ちたまえ! 私はまだ、君になにも――!」


 まるで、そうさせないのが罰だとでも言うように。


 ぐいぐいとルカの腕を組んだリゼットはひらひらと手を振ると、二人でバロアを置き去りに城外へと消えていった。

 

 一人残されたバロアはあっけに取られた様子で佇み、呆然と二人の背を見送るしかなかった――。


 そしてこの日からしばらく後。


 撃墜されたレディスカーレットを修理するために招集された整備員の中に、ゴーグルとマスク姿の〝とてつもない技量の整備士〟が混ざっていた。


 修理チームが名前を聞いても、もごもごと聞き取り辛い声で話すだけの初老の男。

 

 この凄腕整備士が、〝ガイガレオンから罰を受けた〟現レジェール王国の宰相――バロア・オクムスタンであったことは、修理が終わった後も、誰にも気付かれることはなかったという――。



 Next Side flight

 ――

 総統だった少年



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