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第四十六話


「――私、やっぱり戻ります!」


 レジェールチャンピオンシップ、第三種目エースウィングも後半戦。

 折り返しの竜葬祭壇を突破し、ゴール地点であるレジェール王城を目指して飛ぶリゼットが不意に叫ぶ。


「な、なに言ってるのリゼット!? だいたい戻るって……どこに戻るって言うのよ!?」


「ルカが来ないのっ! いくら別ルートだからって、さっきまで私達と一緒に飛んでたルカがここまで遅れるなんて、絶対におかしいっ!」


「待てよ姫様! そりゃあルカのことは俺だって気になってたが、あいつがちょっとやそっとのことでどうにかなるか? 心配する気持ちはわかるけどよ……」


「そうよ! 私だってこの一年、貴方に勝つために必死で腕を磨いてきたのに……貴方のいないレースで勝ったって、ちっとも嬉しくないじゃない!」


「だけど――っ!」


 ココノやユウキの制止にも構わず、リゼットは悲痛な表情でずっと遠くなったレイグラード山を振り返った。だが――。


『――緊急――連絡――』


「無線連絡……? でもレース運営の周波数で……しかも緊急連絡なんて……」


 その時、後方を振り返ったリゼットの耳に、チャンネルを合わせたままの運営無線から声が届く。

 しかしその声はいくら無線とはいえ酷くひび割れており、なんらかの通信障害が発生していることは明らかだった。


『緊急――レジェール市街に――敵――多数襲撃――! 至急救援願う――!』


「これ……救援要請じゃないですか!? しかも発信元は、レジェール市街っ!?」


「おいおいおいおい……! こいつはどうなってやがる、俺の耳がおかしくなったのか!? 敵襲ってのはどういうことだ、暴獣でも出やがったのか!?」


「私にも聞こえたわ! もし本当なら、急いで戻らないと――!」


「ですね……! でも……っ」


 まさに晴天の霹靂とも言える緊急無線。

 それを受けたレース参加者達は、これまで以上に速度を上げてレジェールへと飛翔する。


 だがリゼットは、それでも何度もルカがいるはずの後方を振り返り――やがて、覚悟を決めたようにめをつぶる。

 そして今この瞬間、自分の力を必要とする大勢の人々が待つレジェールの都に、そのゴーグル越しの澄んだ瞳を向いた。


(ルカ……お願いだから無事でいて……っ! 今は、私がルカの代わりにみんなを守りますから――!!)


 ――――――

 ――――

 ――


「穿て、アズライト――ッ!」


「わはー!」


 闇の中に雷鳴と爆炎、そして閃光が奔る。

 広大な地下空間を羽ばたくアズレルの背に乗り、ルカは渾身の力で竜槍を投擲。

 放たれた槍は一条の雷となってジグザグに飛び、一瞬でゼファーの乗るレヴナントに直撃。だが――!


「弾いた!?」


「えー!? なんか最近ルカの槍って、いっつもダメダメじゃないー?」


『無駄だよ。このレヴナントは、ルカみたいに強い竜騎士を倒すために作ったんだ。少し前、連合はレジェールの竜騎士にボコボコにされたからね』


 だがしかし、レヴナントに到達した竜槍はその穂先を機体に食い込ませることなく黒翼に弾き飛ばされる。


 ルカは驚きつつも帰還した竜槍を空中で淀みなく掴むと、カウンターとして再び放たれたレヴナントの光弾を即座に迎撃。

 広大な空間の壁面すれすれを飛んで誘導する光弾の軌道を狭め、音速すら超える斬撃で次々とレヴナントの弾丸を叩き砕く。


「つまり、それは母さんを倒すために作られたフェザーシップということか……! だがどうして君がそんなものを!?」


『僕が連合で一番強いからさ。レヴナントを乗りこなせるのは僕だけだし、連合であの竜騎士に勝てそうなのも僕だけ。だから……僕は連合のために、レヴナントが竜騎士よりも強いことを証明しなきゃいけない』


「なぜそこまで強さにこだわる!? 俺の力があればみんなを守れると言っていたが、ぶっちゃけ俺にそんな凄い力はないぞ!!」


『そんなことないよ。それに、連合はもうその力を十分に思い知ってる……五年前、あの竜騎士は一人で連合とオルランドの軍隊を壊滅させた。もしそんなすごい力が僕にあれば……僕一人でこの世界から苦しいことも悲しいことも、全部なくせる。連合以外のみんなだって、幸せにしてあげられるんだ』


「一人で、みんなを幸せにだと……!?」


 激しい戦闘を繰り広げながら、ゼファーのその言葉を聞いたルカは奥歯をギリと噛みしめる。


「やはりだめだ……! そんな言葉を聞いては、なおさらゼファーに俺やアズレルの力を好きにさせるわけにはいかない!!」


『どうして?』


「あの日……最果ての空に向かって飛び立つ前に、母さんは俺に言ったんだ――!!」


 仲間を信じろ。


 たとえ、この先どんなにルカが強くなったとしても。

 お前の手を握ってくれる、大勢の仲間に勝る力はない。


 いいか、ルカ。

 

 お前は父さんと同じ、本当に優しい子だ。

 だから――。


「そしてなにより、俺が一番悲しいことは――!」



〝絶対に……私のようにはなるな〟



 ゼファーとの対峙を経て、ルカは母の最後の言葉を思い出していた。


 仲間を信じろと。


 たとえどれだけ強くても……個の力だけでは、絆で結ばれた大勢の仲間の力を上回ることはできないのだと。そして――。


「聞け、ゼファー!! 俺が一番悲しいのは……君が一度も、俺に一緒にやろうと言わなかったことだッ!!」


『えっ……?』


「うわわーーーーっ!? い、今もすごいのに……ルカのドラゴンパワー200%!! はわわわーーーーっ!?」


 瞬間、ルカの竜槍から光の柱が立ち上り、アズレルの全身が光に包まれる。

 そしてその光が砕け散ると同時。

 頭部に勇壮な一角を伸ばし、青い体表に炎のような赤いラインが刻まれた巨大なドラゴンが、レヴナントめがけて飛翔する。


「これがボク? でもなんだろ……ルカのおかげで、ボクも色々思い出してきたかもーーーー!!」


「みんなを幸せにしたいという願い……俺はとても素晴らしいと思う! もしゼファーがそのために力を貸してくれと、一緒にやろうと俺に言ってくれていれば……俺は喜んで君に協力した!!」


『ルカ……』


 ルカの発した言葉に、ゼファーは初めて明らかな動揺を見せる。

 そしてその機動に隙を見せたレヴナントに、アズレルとルカは光の尾を引いて飛翔。

 まばたきの間に、黒翼を広げたレヴナントをその光刃の間合いに捉える。


「やるぞアズレル! 必殺――!!」


「ジ・オード・アズライト・ロアーーーー!!」


 閃光。

 それは、闇を切り裂く光の斬撃。


 広大な地下空間。その全てに届くほどに巨大化したルカの竜槍は、穂先から伸びた長大な光刃でレヴナントを黒翼ごと両断。

 さらに吐き出された余剰エネルギーはレイグラード山の中腹をぶち抜き、外界に広がる青空の果て――その先の白雲すら切り裂いて消えた。

 

「そうだね、ルカ……僕は、君にとてもひどいことをした……」


「ゼファー!!」


 すれ違い、片翼を両断されて失速するレヴナントを振り向き。

 ルカはアズレルの背から、落ち行くゼファーに向かって必死に手を伸ばした――。


 

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