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第四十五話


「――フフフ。まずは計画通り、閣下のレヴナントはルカさんと交戦を開始。宰相の根回しもありましたし、まずは順調と言ったところですか」


 レジェール王城付近の参加者待機場。

 ゼファーのために用意されたテントの下、フィンは通常の無線機とは異なる自作の機器を使い、遠く離れたルカとゼファーの大まかな状態を確認していた。


「閣下の飛行士としての腕は、ただそれだけでもリゼットさんと同等。そしてこと空戦という領域に絞れば、彼女を上回る可能性すらある……そこに私の最高傑作であるレヴナントが加われば、いかにルカさんといえども……クックック!」


 フィンが膨大な研究の末に生み出した、現代と古代技術の融合体とも言える対竜騎士用決戦兵器、レヴナント。

 その力がついに証明されるという事実に、マッド過ぎるサイエンティストであるフィンは実に悪そうな笑みを浮かべた。だが――。


『――配置――完了し――これより、作戦を――』


「混線……? まさか……この無線通信は、セレスティアル文明の技術を応用して私が開発した物。私以外にこの通信帯域を利用できる者などいるはずが……!」


『繰り返す――! これより、レジェール市街に一斉攻撃を仕掛ける! 事前周知の通り、最優先ターゲットは〝第一王女リゼット〟だ。なんとしても生け捕りにせよ!!』


 ――――――

 ――――

 ――


『どうしたの? 昨日みたいに僕と遊んでよ、ルカ』


「ぐぬぬーっ!」


 竜葬祭壇最深部。

 他には誰もいない広大な薄闇の中で、さらに黒いレヴナントの翼と、ルカの竜槍が激しい火花を散らす。


「なぜだゼファー! どうしてこんなことをする!? 俺と遊びたいというのなら、レースが終わった後でいくらでも遊べばいいじゃないか!」


『どうしてって……一応、僕の役目は君をレースから脱落させることなんだ。この国の偉いおじさんに頼まれたからね』


「俺を脱落させるように頼まれただと!? 偉いおじさんとはもしや……宰相殿!?」


『けどそんなことどうでもいい。僕はもう一度君の力を見たいんだ……ただ遊ぶだけじゃ絶対に見られない、本気になった君の力を手に入れるためにね』


 言いながら、ゼファーはレヴナントを広大な地下空間で急旋回。

 その鋭角な機首をルカとアズレルに向け、通常のフェザーシップよりも強力な機銃を容赦なく発射する。


「ぬわーー!?」


「あいたたたーっ!」


 迫る弾丸をルカは竜槍を回転させて弾くが、レヴナントの機銃は竜騎士バリアーを貫通してルカとアズレルに明確なダメージを与えた。


「ちょっとルカー! 敵の弾はもっとちゃんと撃ち落とさないとだめでしょー!?」


「すまんアズレル! というか、さっきから言っている俺の力とはなんなのだ!? 俺はたしかに誇り高き竜騎士だが、何度も言っているように特別な力など持っていない! 特別というのなら、それこそ俺の母さんの方が……!」


『違うよ、ルカ。僕は君の力が欲しい。僕はどうしても君の力の正体を知りたい。それで、君と僕のどちらかが消えることになってもね』


 追撃。

 ゼファーは闇の中を飛ぶルカとアズレルにさらなる弾丸の雨を降らせる。

 ルカは後方を振り返りながら手綱を操り、アズレルを左右に振ってなんとか攻撃をやり過ごす。


「だが、俺はゼファーと戦いたくない! 俺達は友達だと……昨日だって、レース前の俺を励ましてくれたじゃないか!!」


『ここまでしたのに、まだそんな風に言ってくれるの? やっぱり、君は本当に優しいね……きっとそんなルカだから、あんな力が出せるんだ』


 今や死を呼ぶ黒翼と化したゼファーのレヴナントが、甲高いエンジン音とともに三度ルカとアズレルに迫る。

 ルカは必死に呼び掛けるが、ゼファーはむしろそのたびに強く、鋭く空を切り裂いて襲いかかった。


『ありがとう、ルカ。君と出会うまでの僕は、もうこの世界にこれ以上強くなる方法はないのかなって諦めてた……連合のみんなを幸せにするためには、〝それ以外を見捨てる〟しかないんだって、そう思ってたんだ』


「連合の幸せ……?」


『けど違った……ルカは僕に、違う道を見せてくれた。だから僕は知りたい……君の力を手に入れたい。君のその光で、僕の大切なみんなを、もっともっと幸せにするんだ――!』


「ゼファー……! やるしかないのか!!」


 瞬間、レヴナントの両翼が展開。

 開放されたウェポンベイから次々と〝漆黒の光弾〟が放たれ、それはすぐさまルカとアズレルに包囲攻撃を仕掛ける。


「うわわ!? 気をつけてルカ、さすがにあれは当たったらヤバいかもー!」


「わかっている! こっちだ、アズレル!!」


 それを見たルカは竜槍の光刃を全開に。

 加速するアズレルと共にぐるぐるときりもみ回転しながら飛翔し、全方位から襲いかかる漆黒の弾丸を回避し、叩き落とし、弾き飛ばして必死に迎撃する。


「これではきりがない! ならば……こいつでどうだ!」


「ドラゴンびりびりアターーーーック!」


 嵐のように襲いかかる光弾に対し、ルカとアズレルはぴったりと息を合わせて同時に雷撃を展開。

 周囲に群がるレヴナントの光弾を、強烈なプラズマの渦で一気にかき消す。しかし――!


『それじゃだめだよ。あの時のルカは、もっとすごかった』


「グワーーッ!?」


「ルカーっ!?」


 だがしかし。無数の光弾をめくらましに、レヴナント本体が凄まじい速度でルカめがけて突貫。

 グレイシアサーペントの巨体すら切り裂いた漆黒の刃が、アズレルに乗るルカを真正面から直撃する。


「ぐぎ……っ! ぐぎぎぎぎ――ッ!」


『すごいね。これに耐えるんだ』


 しかしルカは生きていた。


 途轍もない衝撃で石ころのように吹っ飛ばされながら、レヴナントの黒翼に出力全開の竜槍を真正面から叩きつけ、凄まじい風圧と加速に挟まれつつもぎりぎりで持ちこたえていた。


「ぜ、ゼファー……! 正直、今の俺は君のことを何も知らない……なぜ君がそこまで俺の力を欲しがるのかも、どうしてそんなことをする必要があるのかも……なにもかもさっぱりわからん!!」


『だって、ちゃんと話してないし』


「ああ、そうだ……! 俺達はまだ、お互いなにも知らないまま友達になった。だがそれでも……俺はゼファーと話すのも、遊ぶのも楽しかった!!」


『…………』


 凄まじい衝撃に掴んだ竜槍から激しい火花を散らしながら、ルカはレヴナントの翼にしがみつき、コックピットに座るゼファーをまっすぐに見つめ叫ぶ。


「だからこれが終わったら、なにもかも全部俺に話してくれ! たとえ今はこうするしかないとしても……! 今度は俺も、ちゃんとゼファーのことを知りたいのだ!!」


 そう叫ぶと同時、ルカはその全身から目もくらむほどの雷撃を放出。

 レヴナントが纏う闇を一時的に押し返すと、巨大な漆黒の翼の上に転がりこみ、そのまま弾かれるようにして空中へ飛び出す。


「アズレル!!」


「待ってましたー!」


 拘束を逃れ、闇に飛び込んだルカをすぐさまアズレルが迎える。

 ルカは即座に手綱を握ってアズレルの背に仁王立ち、覚悟を決めてゼファーの駆るレヴナントに竜槍アズライトの穂先を向けた。


「勝負だ、ゼファー! そんなに見たいというなら見せてやる。誇り高き竜騎士の……俺とアズレルの力をな!!」


「うひゃーーーー! ルカのエネルギーがバリバリくるよー! ドラゴンパワー、チャージ80……100……120%! こんなの初めてかもーーーー!!」


『いいんだ……これでルカに嫌われても。僕はみんなのために、もっと強くならないといけない。ルカのその力で、僕は連合のみんなを助けないといけないんだ――!』


 空間を覆う闇が、ルカの竜槍が放つ強烈な閃光に照らされて消える。

 しかしその光の中。

 それでも暗く沈んだ闇を纏い続けるレヴナントは、黒翼と共にエンジン出力を上昇させて加速。


 まばゆい光を引き裂く影となって……もしくは、光に惹かれて昇る闇のようにまっすぐに。

 

 二つの力は古代遺跡の最奥で激突。


 凄まじい衝撃で空間そのものを大きく鳴動させた――。


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