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第四十四話


「――むむ! あれが竜葬祭壇の入り口か!?」


「よくわかんないけどー……なーんかすっごくやな名前ー!」


 エースウィングのスタートから数時間。


 道中で一度補給(お肉)を受けたルカとアズレル、そしてゼファーを初めとしたレースの参加者達は、ついにその先頭集団が折り返し地点となる古代遺跡――〝竜葬祭壇〟へと到達する。


 レジェール王国が存在する浮遊大陸は、その中央に巨大な一つ山、レイグラード山がそびえたっている。

 

 竜葬祭壇はレイグラード山の中腹から、山体中央を貫通するように広がる世界でも最大規模の迷宮遺跡である。

 その広大さと複雑さゆえ、若き日の冒険王ガイガレオンが竜騎士ルミナと共に踏破を達成するまで、誰もその最深部を見た者はいなかった。

 

 安全が確保された現在でも全貌は調査中であり、今回のレースでも、参加者達が通過するのはすでに知られた一般的なルートのみに制限されている。


「はいはーい、お先に失礼しまーす! 中は結構暗いので、ルカも気をつけてくださいねっ!」


「う、嘘でしょ……去年よりリゼットに離されてる!? 待ちなさいリゼット!!」


「いいかルカ! 中に入ったらランプが光ってるガイドラインに沿って飛べばいい。だが一度正規のルートから逸れたら間違いなくリタイアだ、絶対にガイドを見落とすなよ!」


「承知した! ありがとうユウキさん!」


 目の前に迫る巨大な遺跡の入り口めがけ、ルカも初期のリードを使い果たす形で先頭集団とほぼ同時に突入。


 一瞬視界が闇に沈むが、遺跡内部は等間隔で設置されたガス灯によって明るく照らされ、ドラゴンも悠々と通過できる広さのおかげで高速飛行も可能だった。


「わぁ、きれいな場所だね」


「ところで、ゼファーは先に行かなくてもよかったのか? その黒いフェザーシップなら、何度も俺を抜くチャンスがあったと思うのだが」


「ううん、〝僕はここでいい〟んだ。ルカのそばにいるようにって、フィンにも言われてるからね」


「????」


 ゼファーの話に首をかしげながらも、ルカはアズレルと共にガス灯に照らされた遺跡内部を飛ぶ。

 入り組んだ遺跡での高速飛行は小回りの効くドラゴンに圧倒的有利であり、ルカは再び先行するリゼットのレディスカーレットを視界に捉える。


「むっふっふ……やっとルカも来ましたね! 実はもなにも私だって、ずっとルカと一緒にレースで飛ぶのが夢だったんですから!」


「俺もだ! だからこそ、手加減なしでいかせてもらう!」


「望むところです!」


「ぐぬぬ……っ! なによあの二人、すぐに自分達だけの世界に入り込んじゃって……! リゼットの宿命のライバルは私なんだから!!」


 気がつけば、竜葬祭壇での先頭はリゼットとルカ、そしてココノとゼファーの四者。

 そしてそのやや後方では、ユウキを先頭として、チームフラッグスでルカ達と激闘を演じたチームハッピーフェザーのエース達が上位に食い込む隙を虎視眈々と伺うという状況。


 遺跡突破後の風向きにもよるが、折り返し時点でのこの順位は、ルカにも十分上位入賞の可能性が残されていた。だが――。


『聞こ……ますか――? 竜騎士――のルカ・モルエッタさんは、この先の分岐路を右――進んで下さい!』


「むむっ!?」


「なになにー?」


 だがその時。ルカがアズレルの背中にくくりつけている、中古の無線機に通信が入る。


『繰り返します! この先の通路はドラゴンが通り抜けるには幅が狭いため、ナンバー200のルカさんは、この先の分岐通路を右に進んで下さい! 遺跡外までの距離は変わりませんので、安心してください!』


「なるほど! そういうことなら仕方ない、目印はあるのか?」


『対象の分岐路のみ、右側のガス灯の色を変えてあります。色の違うガス灯を目視したら、そちらの道に侵入してください!』


「承知した! 聞いたなアズレル、光の色が違う道にいけばいいそうだ!」


「おっけー!」


「ルカ……? こんな時に無線連絡なんて……それに、私の周波数にはなにも……」


 突然入った無線連絡に、ルカとアズレルは疑いもせずに力強く頷く。

 ほぼ横並びのリゼットもルカに無線が届いたことには気付いたが、激しい風切り音で会話内容を知ることはできなかった。


「あれを見ろアズレル! たしかに右側の通路だけランプの色が緑色だ! 俺達はあちら側に飛べばいいということだな!」


「右ってお肉を持つ手だよね? あれれ? でもボクって両手にお肉だからよくわかんないや。とりあえず緑色の方にいくねー!」


「ルカっ!?」


「ルカ!? いきなりどこ行くの!?」


「心配ない! 実は先ほど、俺の無線に連絡が入ったのだ! なんでも、通常のコースでは狭すぎてアズレルが飛べないらしい! というわけで、また外で会おう!」


「なによそれ!? ちゃんと公平なコースなんでしょうね!?」


「わからーん――……」


 それまで共に飛んでいた仲間達の驚きと疑問の声を背に、ルカとアズレルは指示された通りの道に飛び込んでいった――。


 ――――――

 ――――

 ――


「――ここは?」


 長い長い遺跡の通路を抜けた先。

 ルカとアズレルが辿り着いたのは遺跡の外ではなく、見たこともない広大な地下空間。

 

 よどんだ空気が泥のように絡みつき、しかし先ほどから続く緑色のガス灯は、この空間をさらに不気味にライトアップし続けていた。


「なんか暗いとこに来たよー? ここどこー?」


「ど、どこからどう見ても外ではないのだが……まさか、曲がる道を間違えたのだろうか!?」


『――ううん。間違えてないよ』


「っ!?」


 困惑し、広大な空間で滞空するルカの後方。

 うなるような低音を響かせ、暗闇から染み出すように漆黒のフェザーシップ――ゼファーの乗るレヴナントが現れる。


「なぜゼファーもここに!? それに俺が道を間違っていないとは、いったいどういうことだ?」


『ルカは道を間違ってない。だって最初から、ルカはこの場所で僕と遊ぶって決まってたんだから』


「ゼファー!?」


 瞬間、ルカとアズレルめがけてレヴナントが加速する。

 同時に機体各部から漆黒の闇が溢れ、それは機体全体を覆うようにして収束。

 空間その物を切り裂く黒翼となって、ルカとアズレルに斬りかかる。


「うわわーっ!?」


「ぐっ!? いきなりなにをする!? 今の一撃……もし当たっていれば、俺もアズレルもただでは済まなかった!!」


『そうだよ。ルカには、今から本気で僕と戦ってもらう……それはしりとりよりも、鬼ごっこよりも……ずっと楽しい遊び。そして――』


 間一髪、レヴナントの突撃を回避したルカめがけ、ゼファーは風防ガラスの向こうで無邪気な笑みを浮かべた。


『ルカの力を……あの時の暖かさを、君の強さをもう一度僕に見せて欲しい。そうすれば、〝いつか僕にも君と同じ力が使えるようになる〟』


「俺と同じ力……? それはまさか竜騎士の力ということか? だが、なぜゼファーがそんなことを!?」


 困惑しつつも竜槍を構えるルカに対し、ゼファーは満足そうに笑みを深める。

 そして操縦桿を握り締めると、広大な闇の中を飛ぶ死の鳥となり、眼下のルカ目がけて急降下を開始した。


『遊ぼう、ルカ。僕と君……どちらかの翼が砕けるまで』



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