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第三十三話


「――見えた、氷天の花園だ!!」


「ですね! けどなんか……ちょっとおかしくないです!?」


 レジェールを出発して半日ほど。

 依頼主であるフィンを連れて北空の難所、氷天の花園へとやってきたルカ達は、そこで予想もしていなかった光景に出迎えられていた。


『ジャラララララ……ッ!』


「な、なんですかあの大きな氷の竜……いや、蛇でしょうか?」


「きっと、あれがギルドの言ってた暴獣です! 私も実物は初めてですけど、前に〝グレイシアサーペント〟っていう氷の蛇の話を聞いたことがあるので! ちなみに、脅威度はデスクラウドと同じSSSですっ!」 


「むー! 蛇のくせに、ボクと同じで鱗がキラキラしてる! 生意気なやつだー!」


 そう、天空にそびえる巨大な氷山――氷天の花園にとぐろを巻いてのたうつのは、その身に凍結した大気をまとわせる巨大な蛇――グレイシアサーペント。


 その全長は優に1000mを越え、体表を乱反射する光が、吹雪の中で虹色の光輪を描き、幻想的でありながら恐ろしい。


 さらにそのうねる胴体の周囲には無数の浮遊する氷塊を伴っており、それはもしフェザーシップや他の生物がこの蛇に近付けば、一瞬で凍結させられてしまうことを意味していた。


「この前のデスクラウドといい、最近の俺達はSSSの化け物に縁があるな!!」


「ね、念のため言っておきますが、私はなにもしてませんからね!?(今回は例の装置もメンテナンス中ですし!)」


「気にしないで下さいねフィンさん! デスクラウドと違って、グレイシアサーペントはずっと昔からこの辺りの空域で目撃情報があるんです。私が聞いたのも、そういう人の話でしたから!」


「なるほどな! しかし今回は前のように退路を断たれたわけでもない。今はフィン殿もいるし、ここは無理せず一度ギルドに戻った方が……」


「んー? でも待ってルカ! あの生意気なヘビの周り……〝捕まってる人達がいる〟っぽいよー?」


「えっ!?」


 だがその時、はばたくアズレルの優れた視界がグレイシアサーペントの氷塊に捕獲された何機かのフェザーシップを発見する。

 驚いて双眼鏡を取り出したリゼットにも、氷に飲まれたフェザーシップのパイロットが必死にこちらに助けを求めている姿がはっきりと確認できた。


「た、大変……っ! しかも、フェザーシップがどんどん氷に飲み込まれて……! このままじゃ!」


「任せろ――! リゼットはフィン殿を頼む!!」


「ルカっ!?」


 瞬間、その蒼い翼をはためかせてアズレルが飛翔。

 背に乗ったルカは粉雪の舞う天めがけ、握り締めた竜槍を掲げた。


「捕まった人達を見捨てるわけにはいかん! 抜槍(リンク)――竜槍アズライト!!」


「おっけー! いっくよー!」


 グレイシアサーペントに近付けば近付くほど激しくなる氷雪。

 吹きすさぶ吹雪を切り裂いてルカの竜槍が輝き、発生した光刃に紫色の雷が落ちる。


「だが、ここで雷は使えないな……捕まっているみんなにも攻撃が当たってしまう!」


「だったらどうするのー? かむ? かんじゃう?」


「まずはこいつだ! 穿て、アズライト――!!」


 絶大な威力と膨大な攻撃範囲を持つ雷撃では、グレイシアサーペントに捕えられた飛行士もただではすまない。

 そう考えたルカは小手調べとばかりに竜槍を大きくふりかぶると、渾身の力で氷蛇の頭部めがけてぶん投げる。だが――。


『ジャラララララッ!』


「なに!?」


「うわわ、槍がどんどん凍っちゃうよー!?」


 だが音速すら超える速度で放たれた竜槍は、ルカの存在に気付いて冷気を増したグレイシアサーペントに近付くにつれ一気に減速。

 その穂先に収束したエネルギーもまたたく間に奪われ、そのまま他のフェザーシップ同様氷塊に飲みこまれていく。


「ちぃ! こいつは厄介すぎるぞ! というかマジで半端なく寒いのだが!?」


「ぶるぶる! ぼ、ボクもここまで寒いのはちょっと嫌かもー!」


『ジャラララ……!』


 間一髪、ルカは竜槍の凍結前に一気に接近して回収。

 本体までの距離が大分ある状態でも感じる恐るべき冷気に、ルカは身も心もぞっと震わせる。


「くそ……! こんな寒さでは、捕まっているみんなも長くはもたん! どうすれば……って、あれは!?」


 荒れ狂う猛吹雪の中、必死に手綱を握って旋回するルカは、冷気のヴェールに包まれた無数の〝氷塊の真の姿〟を目の当たりにする。


「うわー……これはひどいねー……」


「か、数え切れないほどのフェザーシップが氷の中に閉じ込められている……! な、なんてことだ……っ!」


 それはまさに氷の地獄。


 グレイシアサーペントが引き連れる無数の氷塊の中には、何十機ものフェザーシップが氷付けにされていたのだ。


「なんと惨いことを……ッ! だがもしや……フィン殿の言っていた、行方不明の旦那さんもここに!?」


『ジャラララララ――!』


 それはまるで、自らのコレクションを誇るように。

 氷付けの犠牲者達を見て怒りに燃えるルカに向かい、グレイシアサーペントは嘲笑するようにその喉を鳴らした――。


 ――――――

 ――――

 ――


「苦戦しているようですね……デスクラウドの時と違い、グレイシアサーペントは物理的な攻撃に対しての耐性が高い。さらに雷撃も使えず、時間制限もあるこの状況では……いくらルカさんでも……」


「ルカ……っ」


 一方、ルカの戦いを離れた空から見守るレディスカーレット。

 後部座席から双眼鏡をのぞき込み、戦況を冷静に分析するフィンは、今にもルカの援護に飛び出しそうな様子のリゼットを見て逡巡し、やがてふうとため息をついた。


「仕方ありません。私達も行きましょう、リゼットさん」


「え?」


「どの道このままではルカさんも、捕まっているみなさんも共倒れです。そうなってから貴方が助けに入っても、上手くいく確率はさらに低い……」


 ハラハラとルカの戦いを見つめるリゼットに、フィンは努めて冷静にそう告げた。


「なら、今すぐにルカさんと貴方が力を合わせてグレイシアサーペントを倒すことが最善です。私のことならお気になさらず、現地に同行したいと言ったのは私なのですから。フフ……」


「フィンさん……っ。ありがとうございます――!」


(フ、フフ……格好つけてアホな事を言ってしまいましたが、今回ばかりは本当に死ぬかもしれませんね……ですが、ここで竜騎士のサンプルに死なれても困りますし……まあ、そもそも私が死んだら終わりなんですが! フッフッフ……!)


 その顔を青ざめさせながらも、フィンはリゼットに参戦を促す。

 リゼットはフィンに感謝を伝え、すぐさまエンジンを全開に、操縦桿を倒してルカの元へと向かおうとした。だが、その時――。


『……見つけた。赤いフェザーシップと竜騎士』


「無線っ? こんな時に!?」


「ん? んんんん……? こ、この声……思いっきり聞き覚えがある気がするのですが……」


『へぇ……面白そうなことしてるね。僕も混ざっていい?』


 疾風が奔る。


 グレイシアサーペント目がけて降下しようとしたレディスカーレットの前を、〝プロペラが後部にある〟という特異な形状を持つ漆黒のフェザーシップが、キーンという独特のエンジン音と共に凄まじい速度で横切る。


「ちょ、待って下さい! あのグレイシアサーペントは脅威度SSSで……っ! せめて、お名前だけでも先に教えて下さいっ!」


『僕の名前……? えーっと、僕の名前はゼ……は、さすがになし……うーん……そうだな……ゼ……ファー……ゼファーかな。名字は……まだ決めてないかも』


 舞い降りた漆黒。


 リゼットの問いを受けたフェザーシップのパイロットは、その黒と紫が混ざる髪を氷風になびかせながら、眠そうな声で答えた――。


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