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第三十一話


「はーい! こっちですよルカっ! ほらほら、急いで急いでっ!」


「ま、待つのだリゼット! この人混みの中では、急ぐと言っても限界が……!」


 大勢の人が賑わうレジェールの都。

 その中央通りを小走りで歩くのは、王女リゼットと竜騎士のルカ。


 今、レジェールの都は間もなく始まる世界的なエアレースの祭典。

 レジェールチャンピオンシップの準備のため、いつになく賑わっていた。


「それに、ここ最近依頼を受けていなかったせいで、このままでは俺の家計がアズレルの食費で火の車なのだが……」


「その大怪我がやっと治ったんですから、今日くらいのんびりしてもいいじゃないですか。それにどうせこの時期は、みんなレースレースで仕事なんてさっぱりありませんし。ね?」


「むう……それはまあ、そうか……」


「ふふ、そうですよ! 私だって、ルカと一緒に行きたいお店が色々と溜まってるんです。なので今日は、最初から最後まで私に付き合って貰いますよーっ!」


「ぬわーっ!?」


 ルカがレターナに敗北してから一ヶ月。


 意外と引きずるタイプのルカを案じたリゼットは、こうしてルカの回復祝いも兼ねて祭典に湧く街へと繰り出していた。


 当然、リゼットはレジェール国内では超絶有名人のため、眼鏡に帽子にコートという完全身バレ防止スタイル。

 一方のルカは、いつも通りの一般竜騎士スタイルだ。


「あ! 見て下さいあのお店! なんでも、とっても美味しいレジェールケーキが食べられるらしくて、私も一度行ってみたいと思ってたところだったんですよー!」


「う、うむ! 俺はなんでもいいぞ!」


「じゃあ決まりですねっ。行きましょ、ルカ!」


 超絶ハイテンションのリゼットにがっつりと手を引かれ、ルカはやや恥ずかしがりながら彼女の後に続く。

 

(リゼットは変わらないな……)


 リゼットに手を引かれ、人混みをかき分けて進む。

 これまで、ルカは何度その景色を見てきただろう。


『わーすごーい! ルカも一緒に行こー!』


『うわあ! ちょ、ちょっと待ってよー!』


 見た目だけならもうほとんど大人と変わらない年頃になったのに、リゼットは今も自分の手を取ってくれる。


(ありがとうリゼット……! 一日も早く、俺も母さんみたいな竜騎士になってみせるからな!)


 その何気ない……しかしどんなことよりも掛け替えのない事実に、ルカは深い感謝と、強い愛情を抱かずにはいられなかった――。


 ――――――

 ――――

 ――


「――うまー! このケーキ本当に美味しいですっ! 最初にこのお店を選んで大正解でしたっ!」


「うむ……たしかにこれは……ぱくぱく……っ!」


 かねてよりリゼットが目をつけていたケーキ屋の店内。

 広々とした室内は清潔感のある喫茶店になっており、家族連れやカップル、レースの観戦のためにやってきた観光客などで賑わっていた。


「――そういえば、今年のレースは出るのか?」


「もちろん出ますよー? やっぱりチャンピオンが出ないと、レースも盛り上がりませんし! そういえば、今年はルカも出られるんでしたよね?」


「うむ! これもここ最近の頑張りが認められたのかもしれんな! ところで、もし今回もリゼットが優勝したら、何回目になるんだったか?」


「前回で三回目でしたから、今年優勝したら四年連続優勝ですね」


「な、なるほど。改めて聞くとエグいな……」


 極上のケーキを口に運びつつ、ルカはリゼットの現実離れした戦績に引きつった笑みを浮かべた。


 そもそも、このレジェールチャンピオンシップは連合やオルランドのような大国も含む、全世界から腕に覚えのあるエースが愛機と共に集まってくる。

 

 にも関わらず、リゼットは初出場した12歳の時から一度も負け無し。

 その圧倒的才能と操縦技術は、いまや全世界に知れ渡っていた。 


「いつも思うが、リゼットは本当に凄い……もし俺が竜騎士じゃなく飛行士だったら、きっとリゼットの相手にもならなかっただろうな……」


「まあ、それはそうかもしれませんけどー……もしルカが飛行士だったら、きっと私はパイロットじゃなくて、ルカのナビになってたと思いますよ? そっちの方がルカとの距離が近いですしっ! どやっ!」


「えっ……!? あ、いや……ど、どうしてそこでドヤるのだ!?」


「むふふー……だって事実ですから!」


 そう言ってなぜか誇らしげに胸を張るリゼットの可愛らしい笑顔に、ルカは突っ込みを入れつつも、どきどきと胸の鼓動を早めた。

 

「覚えてますか? 初めて会った頃、私とルカで一緒にした約束のこと」


「う、うん……ちゃんと覚えてる」


「あの時は約束って言いましたけど……別に約束なんてしなくても、私はきっとこうしてたと思います。もちろん、空を飛ぶのは大好きですけど……私が一番好きな空は、ルカが――」


「――フフ。これはこれは、ルカさんとリゼットさんじゃありませんか。お久しぶりです、今日は二人でおでかけですか?」


「むっ?」


「はい?」


 だがその時。

 完全に二人だけの世界に突入しつつあったルカとリゼットに、聞き覚えのある声がかけられる。


「あなたはたしか、前にルカに依頼してくれた……フィンさん?」


「フィン殿ではないか! フィン殿こそ、またレジェールに来ていたのだな!」


「覚えていてくれて光栄ですよ。このレースは私のような商人にとっても稼ぎ時ですからね。フフ……」


 突然の声に二人が視線を向けた先。

 そこにはさらりとした黒髪にぶ厚い度の入った眼鏡。

 そして灰色のロングコート姿の優男――古物商のフィンが立っていた。


「ここでお二人に声をかけたのは他でもありません。もし良ければ、また私の依頼を受けて下さいませんか?」


「依頼ですか?」


「はい。実は先ほど依頼の掲載希望をギルドに持ち込んだのですが、この時期はなかなか受諾されないと言われまして」


「あー……たしかにこの時期って、ギルドのメンバーもレースの準備で出払ってることが多いですから……」


「うむ! レースと被らない日程で良ければ、俺はいくらでも引き受けるぞ!」


「ありがとうございます。目的地はそこまで遠くないので、どちらにしろレースまでには戻って来られるはずです。ですが……」


 そこでフィンは言葉を句切り、申し訳なさそうに中指で眼鏡をクイッと押し上げた。


「実は、私がギルドで依頼内容を査定してもらったところ、今回の依頼には〝黒の印〟が押されてしまいまして……」


「なっ!? く、黒だと!?」


「それって、赤以上の最難関依頼ってことじゃないですか!?」


「ぶっちゃけそうなんですよ……これではまた私の計算が外れて……あ、いや……本当にどうしたものかと困り果てていたところだったのです。フッフッフ……」


 ギルドから押された黒の印。


 飛行士にとって最難関の依頼であることを示すその決定に、ルカとリゼットも。

 そして依頼を出した当人であるフィンもまた、ダラダラと冷や汗を流してうんうんと頭を抱えたのであった――。



 Seventh flight

 ――

 舞い降りる黒


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