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第二十九話


「やられた……」


「やられちゃいましたねぇ……」


 窓から赤い夕暮れの日差しが差し込むルカの家。


 クリムゾンフリートとの戦いは見事連合とレジェール合同軍の勝利に終わり、ルカとリゼットも高額な報酬を手に無事に帰ることが出来た。


「まさかクリムゾンフリートのリーダーが、ルカのお母さんと知り合いだったなんてびっくりですっ。連合についての話もちゃんと調べた方が良さそうですし……あ、ちょっと我慢して下さいね……ちょいちょい!」


「いて! いててっ……はぁ、今回は本当にボコボコにやられた……俺が竜騎士になってから、ここまでやられたのは初めてだ……」


「大丈夫ー? あの船、最初からなーんか嫌な感じがしてたんだよねー。ルカがこんなにボコボコにされちゃうなら、ボクも一緒に戦えばよかったかなー?」


「ありがとう、アズレル……アズレルが空賊のエンジンを壊してくれなかったら、ただ負けただけになるところだった……」


 今、ルカの家には傷だらけのルカと手当をするリゼット。

 そして窓から長い首をつっこみ、心配そうにルカを見守るアズレルだけ。


 レターナに敗れ、雲海上でぷかぷかと漂っていたルカが救助されたのは全てが終わった後。


 結果として、ルカが次善の策としてアズレルに任せていたエンジンの破壊は成功し、クリムゾンフリートは撤退。


 連合の水は守られ、護衛任務は文句なしの成功。


 ユウキもココノもフェリックスも、他の飛行士達も。

 連合の艦隊にも、敗れたルカを責める者は誰もいなかった。だが――。


「悔しいな……母さんみたいな竜騎士になるって決めて、今日まで自分なりに頑張ってきたつもりだったのだが……やはり、真の竜騎士への道は遠く険しい……」


「ふふ……なんだか、そこまでへこんでるルカは久しぶりな気がします」


「それは、まあ……」


「それだけ悔しいんですよね。今日はみんなもルカを頼りにしてて、ルカと一緒に頑張るぞーって。気合いも入ってたのにって……」


「うん……」


 誰も責める者はいなくても、ルカ本人はガチへこみのどん底だった。

 手慣れた様子のリゼットにくるくると包帯を巻かれながら、ルカは窓の外に広がる夕焼けを悔しげに見つめた。


「あいつに言われたのだ……真似だけでは本物には勝てないと」


「別に真似することは悪いことじゃないと思いますよ? どんなことだって、まずは凄い人の真似をするのが上達の近道ですし。それにルカの場合は、〝そうするしかなかった〟って感じですから……」


「これまではそれで良かったんだと思う。けどこの先は、母さんの背中を追うだけじゃ駄目なのかもしれないな……」


「ええーっ? じゃあもしかして、もうピカピカでトゲトゲの鎧はいらなくなったってこと? それならボクもうれしいかもー!」


「いーや、あの鎧は今もむちゃくちゃ欲しいぞ! だが、これからはもっとこう……母さんの真似をするだけではなく、俺なりのやり方を探してみようと思って……」


「とってもいいと思いますよ。私も大賛成ですっ」


 母の真似ではなく、ルカ・モルエッタとしての竜騎士。

 初めての完敗で突きつけられたその問いに、ルカは痛みの中で向き合う決意を固めていた。

 

「あ、いや……こんなことを言っておいてなんだが、まだ具体的にどうするとかは、さっぱり考えてなくて……」


「それなら、私もルカと一緒に考えます。きっと一人で考えるより、二人で考えた方がうまくいきますって!」


「リゼット……」


 手当を終えたリゼットはルカのいるベッドの中程に座り、何がそんなに嬉しいのかと思うほどの満面の笑みをルカに向けた。


「えっと、その……なんだ……」


「どうしました?」


「この前、ここでリゼットが俺に言ったことを覚えてるだろうか? その、ずっと待ってると……」


「……はい、言いました。思いっきり言いましたね」


「うん……それでその、リゼットが待っているというのは……俺のことでいいのだろうか?」


「もちろん! 私が待ってるのは、この世界でルカだけですから。どやっ!」


「そ、そうか……そうなんだな……」


「んー? なになにー? なんか変な雰囲気になってないー?」


 よどみも迷いもないリゼットの答えに、ルカは天を仰いだり仰がなかったりしてしばらく『ぐぬぬ』と悶え苦しみ、やがてすーふーと息を整えて瞳を閉じる。


 実のところ……ルカはたしかに〝鈍感朴念仁系主人公〟の素質があるが、ことリゼットに対しては意外とそうでもない。だから――。


「き、聞いてくれリゼット……! 正直、俺はまだ全然一人前の竜騎士じゃない……! 弱くて、駄目で、すぐに落ち込むへなちょこ竜騎士だ……! だけど――!」


「……(どきどき)」


「うんうんー?」


 美しい夕暮れの下。

 ルカは全てを理解して微笑むリゼットの両肩に、そっと手を添える。

 そして潤むリゼットの透き通った瞳をまっすぐに見つめ、ついにその想いを伝えるために口を開いた。


「それでも、俺はリゼットが――!!」


「はーい、おつかれ様ー! もう手当は終わった? ルカは怪我してるし、大変だと思って夜ご飯買ってきてあげたわ、よ……うげっ!?」


「こんばんはルカさんっ! もうお怪我は大丈夫……です、か……えっ? えぇえええええっ!?」


「おいおい、マジかよ……? わりぃ……ぶっちゃけマジで邪魔するつもりはなかった。その、なんだ……俺ら、このまま帰った方がいいか?」


「あー! いいにおーい! ボクのお肉もちゃんとあるよねー? ねー?」


 だがなんということか。

 ルカ渾身の告白は、突然の乱入者によって完全粉砕。

 ルカとリゼットは一瞬で氷像のように固まり、特にルカは次の瞬間には真っ赤になって飛び上がった。


「ぬわーーーーーーー!? こ、ここ、これは別になにも! 俺はまだなにもしてないし言ってもいないッ!!」


「わ、私はまあ……人がいるとかいないとか、そういうのは気にしませんけど……はぁ、これはまたお預けって感じですね……およよ~……」


「ちょ、ちょっと待って下さい! お二人は今何を……何をしてたんですかっ!? 僕にも詳しく聞かせて下さいっ!!」


「ご、ごめんねリゼット。次からはもっと気をつけるから……!」


「ま、この調子ならどうせそのうちくっつくだろ。いつまでもしんみりしてねーで、今夜はぱーっとやろうぜ! なあ!」


「あ、ありがとうユウキさん! ココノもフェリックスも……! 俺ももっと強くなる……もっと頑張るからな!!」


 それは、これまでルカを支えてきたもの。

 そして、新たに手に入れたもの。


 その二つを思いを胸に、ルカは前に進む。

 

 美しい星空の下、ルカの家の光はいつまでも賑やかに灯り続けていた――。





 Next side flight

 ――

 迷子の少女


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