第二十五話
『俺はクリムゾンフリート戦闘隊長、クラブフィスト。レジェールの至宝、レディリゼット……その若さでどこまでやれるのか、見せてもらおう』
『クリムゾンフリートのソードダイヤよ。ドラゴンとやり合うのは初めてだから、お手柔らかにね』
「俺はルカ・モルエッタ! 誇り高き竜騎士だ!!」
「気をつけてルカ! この二機の機動、間違いなく向こうのトップエースです!」
「ならば、まずは俺達が隊列を崩す!!」
「わーい!」
クリムゾンフリートの奇襲によって始まった大空戦。
煙幕によって覆われた見通しの悪い視界の中、現れた黒と朱のフェザーシップ。
煙幕によって同士討ちの危険がある中、連合が用意した大艦隊の優位は完全に封じられた。
周囲では連合とレジェールのフェザーシップ隊と、クリムゾンフリートの編隊が次々とドッグファイトに突入。
撃墜された機体が黒煙を上げて雲海に落下し、〝浮遊石内蔵の救命胴衣〟を作動させたパイロットがコックピットから飛び出していく。
「やるぞアズレル! 最近覚えたばかりの俺達の新たな必殺技! 超級竜騎士雷撃無双天空サンダーぼる――!」
「わはー! ドラゴンびりびりアターーック!!」
二機の空賊フェザーシップに上を取られたルカは、アズレルの手綱を引いて自分も上昇。
同時にルカは竜槍から紫色に輝く雷鳴を放出。
それはのたうつ蛇のように空を奔り、広大な空を旋回する二機のフェザーシップめがけて突き進む。
『ほう、〝やはり雷撃か〟。キャプテンの情報通りだな』
『厄介ね』
だがしかし、ルカとアズレルの電撃は二機が瞬時に投下した〝無数の金属片〟に絡め取られて爆散してしまう。
「えー!? ボクのビリビリが消えちゃったー!」
「なにーーっ!? 俺達の新必殺技がいきなり破られたのだが!?」
『なんの備えも無しに、竜騎士に勝てるとは思っていない』
徹夜で考えた必殺技の名前をアズレルにキャンセルされたのとあわせ、ルカはまるで雷に打たれたようにショックを受けた。だが――。
「いただき――!」
『――っ!』
刹那、降り注ぐ弾丸の雨がクラブフィストの乗る黒いフェザーシップに襲いかかる。
前衛をルカに任せ、旋回と同時に上空を取ったリゼットが、レディスカーレットで一撃離脱の急降下を仕掛けたのだ。
「避けた――!?」
『ちぃ……! 攻撃寸前までエンジンの回転数を絞っていたか。どうやら、〝風を操る〟という噂は本当のようだな。レディリゼット』
「リゼットが外したのか!?」
『そんなに驚くこと? 私達も甘く見られたものね――!』
「ぐぬっ!?」
だがクラブフィストは銃撃を機体を垂直に横倒して回避。
一瞬で再加速すると、降下からの離脱を試みるレディスカーレットの後方にぴったりと食らいつく。
それを見たルカはカバーに入ろうとするが――。
『さよなら、竜騎士の坊や――!』
刹那、横合いから打ち込まれた銃撃の雨――ソードダイヤの攻撃がルカとアズレルに直撃する。だが――!
「ふんぬうううううーーっ!!」
「わひゃー! くすぐったーい!」
『はぁ!?』
リゼットのカバーに入ろうとしたルカを狙ったソードダイヤの銃撃は完璧だった。
これがもしフェザーシップ相手であれば、この一撃で確実に勝負は決まっていただろう。
だがアズレルの美しい青い鱗は、鉄板すら簡単に撃ち抜く機銃の直撃にも完全に無傷。
さらにその背に乗るルカまでもが、竜槍をぶんぶんと振り回して降り注ぐ弾丸の雨を全て弾き飛ばしてしまったのだ。
『ちょ――えっ!? そんなのあり!?』
「勝機! もらったあああああ――ッ!!」
一閃。
あまりにも常識外れのその光景に、ソードダイヤが気を取られた一瞬。
一撃離脱のために交差したソードダイヤの機体を、光刃を展開したルカの竜槍が切り裂く。
「加減はした! おとなしく下で助けを待つといい!!」
『し、信じられない……! 甘かったのは、私の方――』
一瞬の交錯の後。
ソードダイヤは片翼を斬り飛ばされて中破。
ふらふらと速度を失い、黒煙を上げて広大な雲海へと落ちていく。
「へっへーん! そんな豆鉄砲でボクがケガしたりするわけないもんねーだ!」
「よし、まずは一機撃破だな! 次はリゼットを――!」
「さっすがルカです! でもこっちは全然へーきなので、それよりあっちを――!!」
「あっち?」
ソードダイヤの撃破を見届けたルカとアズレルは、大きく羽ばたいて速度を上げ、周囲をぐるりと見回してリゼットの姿を追った。
だがそんなルカの前をクラブフィストとのドッグファイトに興じるレディスカーレットが横切り、ルカに足元を見るように指示を送る。
「あれは……! 水輸送船が空賊の戦艦に横付けされているではないか!?」
「ですです! 私達の目的は水輸送船を守ることなので……ここでいくら空賊をボコボコにしても、水を取られたら私達の負けです!」
『ふん、そう易々と行かせると思うか?』
「くっ! ならば、まずはそいつを一緒に倒してから!」
「まーたそんなこと言って! ここは私に任せて、ルカは先に水輸送船の護衛に回って下さい! それとも、私がこんなのにやられるとでも思ってるんです?」
「リゼット……っ! わかった、ここは任せる!!」
「任されました!!」
「じゃ、また後でねー!」
その言葉を最後に、ルカはアズレルの翼を畳んで直下の水輸送船へと一直線に急降下。
残されたリゼットは追い縋るクラブフィストをちらと振り返り、ぴったりと背後を取り続ける漆黒の機体に感嘆の笑みを漏らした。
『〝こんなの〟……か。俺に背後を取られ続けているパイロットの台詞ではないな、レディリゼット!』
「別に間違ったことなんて言ってませんよ? 私とあなたの間には、それくらいの力の差がある……もしわからないっていうのなら、今から徹底的に教えてあげます!!」




