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第二十二話


「ふー……やーっと終わったぁ……もう疲れましたぁ……」


 朝を迎えたばかりの美しいレジェールの空。

 日をまたぐ遠方への輸送依頼を終えたリゼットは、その疲れた体で自宅であるレジェール王城に……ではなく、浮遊大陸の外れにあるルカの家を目指してふらふらと飛んでいた。


「でもでもっ! こんな大変で疲れた時こそ、私にはルカの笑顔が必要なんです! むふふ……こんなに疲れてるんですから、少しくらいルカに寄りかかったりしても変じゃないですよね? うひゃー! 考えただけで元気が出てきましたっ!」


 レジェールのトップエースらしからぬ軟弱な軌道で朝焼けの中を飛び、やがてレディスカーレットは草原の上に建つルカの家へと降下。

 リゼットも喜び勇んでコックピットから飛び出すが、あまりにも疲れ果てた彼女は気付いていなかった。


 彼女よりも先に、家の横に二機のフェザーシップが停まっていることに――。


「おっはよーございまーす! いやー、昨日の依頼は本当に散々で……すっごく疲れちゃいました! 頑張った私を慰めてくださーいっ!」


「ルカー、悪いけどちょっとそれ取ってもらえる?」


「いいぞ!!」


「ありがと。お願いしちゃってごめんね」


「見て下さいルカさん! 昨日ギルドでおいしいオレンジをもらったので、ルカさんにもと思って!」


「おお! これはうまそうだ。ありがとう!」


「わーい! ボクもそれ食べたーい! がぶー!」


「な、なんですかこれ……っ? どうしてこんなことになってるんですか!?」


 そこは、いつもと変わらないルカの家のはず。


 しかしそこに喜び勇んで飛び込んだリゼットが見たのは、すでに我が物顔でくつろぐココノと、かご一杯のオレンジを抱えてルカにべたべたのフェリックス。


 そして開いた窓から頭だけをつっこみ、ルカの腕ごとオレンジにむしゃぶりつく、ヨダレまみれのアズレルの姿だった。


「嘘ですよね……? 私とルカの二人っきり幸せ空間が……! ほんのちょっと遅くなっただけなのにっ!」


「あ、リゼットも来たのね。昨日の依頼ってあれでしょ? 見るからにキツそうで〝誰も受けてなかった赤〟よね? あれ私もスルーしたから……」


「えへへ……初めてリゼットさんより先にルカさんにご挨拶できましたっ! なんだか、ちょっと優越感ですっ」


「おはようだなリゼット! たしかに今日は朝から賑やかでいいな! ところで……アズレルはそろそろ俺の腕を離してほしいのだが!?」


「うまうまー! オレンジってー、朝に食べるとおいしいよねー!」


「ぐぎぎぎ……ッ! る、ルカとの朝は……私の一番の楽しみなんですから……! なのでココノもフェリックスさんもちょっと……とにかくそこどいてくださーい! あとアズレルさんは、ルカじゃなくてこっちのお肉食べててください!!」


 ――――――

 ――――

 ――


「すみませんでした……」


「そりゃあ、ルカのことをみんなに知って欲しいって言ったのは私ですよ!? でも、それとこれとはさっぱりはっきり話が別ですっ! 仕事帰りで疲れた私には〝ルカ成分〟が必要だってこと、ちゃんとわかってるんですか!?」


「全然わかってなかった……! リゼットにとって、それほど大事なことに気付けなくてすまなかった……! だがところでその……ルカ成分とはなんなのだ?」


「ご、ごめんなさいリゼット……! でも言っておくけど、私は別に……こいつにはそういうのじゃないから! そこは安心してっ!!」


「えーっと、僕はただルカさんと一緒にいたいなーって……」


「そっかそっかー! キミも大変だねー! まあ、ボクはいつでもルカと一緒だからぜんぜんへーきなんだけどさー! 気持ちはわかるよー? うんうんー!」


 朝の騒動を一区切りし、全員がルカお手製の冷製ポテトスープと黒パン。

 そしてチーズとベーコンという簡素な朝食を食べ終えた後。


 今にもギャン泣きしそうなリゼットに、ココノは全力で土下座平謝りし、フェリックスはしれっと反省もせずに重い発言を、そしてアズレルは普通に勝ち誇っていた。


「本当にすまなかった! まさかリゼットが、俺の家でそんなにくつろいでいてくれたとは知らず……!」


「家はどうでもいいんですよ家はっ! とにかく、ルカはこの調子で早く一人前の竜騎士になってください……! 私……もうずっと待ってるんですからっ!」


「リゼット……っ! ごめんなさい……!」


「一人前の竜騎士? それに待ってるって、どういう……」


 激情で思わず溢れたリゼットの言葉。

 それを誠心誠意の正座姿勢で聞いていたココノは、思わず首を傾げる。だが、その時――。


「邪魔するぞー……ってなんだぁ!? 外に三機も停まってるから何事かと思ったが……姫様はともかく、なんでフェリックスとココノまでルカの家にたまってんだよ!?」


「ユウキさん!? なぜユウキさんまでここに!?」


「な、なんですか? 私がルカの家にいたら悪いんですか?」


「ユウキさん! おはようございまーす!」


 そこにダメ押しとばかりに現れたのは、現在ギルドに所属する飛行士の中で、リゼットと共にトップレートを争うエース――ユウキ・センディット。


 あのココノですら、年長かつ優れた飛行士であるユウキには敬語で話すほどだ。


 やってきたユウキは想像以上に人口密度の高い室内に驚きつつも、すぐに気を取り直して一番奥にいるルカへと目線を向けた。


「ああ? 俺がルカの家に飛んでくる理由なんて一つしかねーよ。仕事だぞ、ルカ。我らがギルドマスター様から、直接お前に助っ人の依頼だそうだ」


「ギルドマスター……先生が俺に?」


「それとココノ、フェリックス……当然姫様もだな。俺達ギルドの飛行士にも、明日にはルカと同じ件で招集がかかるはずだ。もし他の依頼があるなら、さっさと片付けておくんだな」


「私達にも? えーっと……先に聞いていいかわからないんですけど、その依頼ってどんな内容なんです?」


「四日後、連合の水輸送艦隊がレジェールの領空を通過するらしくてな。今回の仕事は、その艦隊を空賊や暴獣から護衛することだ。だが……」


 だがユウキはそこで表情を曇らせ、言葉を区切る。 


「ユウキさんがそんな顔するなんて……もしかして、なにか問題でもあるの?」


「いや……ちょいと面倒なことに、ここ最近連合の水輸送艦隊が結構な割合で空賊に潰されててな」


 ユウキらしからぬ煮え切らない言い方に、ココノは思わず口を挟む。

 そしてココノの隣に座っていたリゼットも、ユウキの答えに疑問を口にした。


「やられてるって……連合の水輸送艦隊っていったら、そこらの軍隊よりずっと強いはずですよね? そんなのに勝てる空賊なんているんですか?」


「それがいるんだよ。やったのは〝クリムゾンフリート〟……連合だけを狙う全空最強最悪の空賊共が、また動き始めてるのさ」



 Sixth flight

 ――

 深紅の賊軍


 

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