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第二十話


「本当にありがとうございました。もし皆さんに頼んでいなかったらと思うと……今もめまいがしてきますよ」


「こちらこそ! あのようなトラブルに巻き込んでしまって申し訳ない。もしまたフィン殿の仕事を引き受ける時は、もう少し穏やかに運べるよう努力するつもりだ!」


「おいしいお肉もありがとねー!」


 針の巣でのデスクラウドとの死闘から半日。

 無事昼下がりのオルランドに到着したルカ達は、そこでフィンの積み荷を降ろし、見事依頼達成のサインを受け取っていた。


「それにしたって、まさか私達が普通に使ってる航路にデスクラウドが出るなんて……ルカの依頼も片付いたし、一度オルランドのギルドに報告したほうがいいんじゃない?」


「なら、この後みんなで寄っていきましょうか! って……いつの間にルカを名前で呼ぶようになったの?」


「えっ? あ……ま、まあ……デスクラウドを倒せたのは正直こいつのおかげだし? さっきちらっと見えたけど、今回の依頼の報酬も結構凄かったし……だから、甲斐性無しって決めつけたのは謝るわ。ごめんなさい……」


「本当か!? ココノ殿にそう言って貰えると、俺も頑張ったかいがあったというものだ!」


「殿とかいらないから! これからはココノでいいわ。それに、さっきリゼットに聞いて思い出したんだけど……ルカって、あのキッズレースの時に『リゼットに変なこと言うなー!』って怒ってた子でしょ? あの時とは雰囲気も話し方も全然違うから、全然気付かなかった」


「やはりそうだったのか! この話し方については……俺もあれから色々あったのだ!!」


「ふーん? まあ、もう五年も前だもんね……」


 それまでの勝ち気な様子とは違い、昼下がりの青い空に視線を向けて昔を思い出すココノの横顔は、少し寂しそうだった。


「あのレースでリゼットに負けて、私もリゼットみたいになりたいって思って……大きくなったら飛行士になるって決めた私を、パパもママも、他の家族も誰も応援してくれなかった。〝変わり者のガイガレオン〟はともかく、飛行士なんて危険な仕事、私達みたいな上級貴族には相応しくないって……」


「そんなことが……」


「そうなんです……今はそうでもないんですけど、昔のココノは機体整備も一人で頑張ってましたから……」


「私がルカにやったことは、私がみんなにされたことと同じよ。人にも仕事にも貴賤はない……私が貴族だからこそ、そのことを忘れちゃいけないって。飛行士になった時にそう思ったはずなのに……ほんと、私もまだまだだわ」


「そういえば、たしかに君は俺のことはボロクソに言っても、竜騎士やアズレルについては一度も悪くは言わなかったな」


「あのリゼットがふにゃふにゃになるような男がいるなんて……! って、ぶっちゃけ最初は本気でムカついたんだけど……でもそれだって、こっちのドラゴンさんやルカの仕事には関係ないでしょ」


「わーい! もっとなでて、なでてー!」


「そうか……ありがとう、ココノ」


 怖がる素振りもみせず、優しくアズレルをなでなでするココノに、ルカは柔らかな笑みを漏らした。


「ま、私の反省と謝罪はこのくらいにして! ここからは、今後もルカがリゼットと一緒にいるつもりなら、ぜーーったいに直さないといけない、あなたの〝ダメなところ〟を教えてあげる!!」


「だ、駄目なところだと!? 誇り高き竜騎士である俺のどこにそんなところが!?」


「あるに決まってるでしょ!? はっきり言ってあなたは無茶しすぎ!! あなたがデスクラウドに向かっていった時のリゼットの顔……本当に心配そうだったんだから!!」


「あー……それは100%同意です。さすがはココノ! マイベストフレンド!!」


「ば、馬鹿な……! リゼットもそう思っているのか!?」


「ルカには私の勘違いで色々言っちゃったけど、でも今度は違うわ……! 今のあなたは、後先考えない無鉄砲男! だからこれからはルカがリゼットに心配をかけてないか、暇な時は私が見張っててあげる!! 光栄に思いなさい!!」


「な、なんだってーーーー!?」


「ええええええええっ!? そ、そこからそうなるのはちょっと予想外なんですけど!?」


「わはー! じゃあこれからもボクにおいしいお肉をもってきてくれるってことー? たのしみー!」


 ――――――

 ――――

 ――


『ご無事でなによりです。フィンケル博士。デスクラウドが現れたとの報せを聞き、所員一同心配しておりました』


「ご心配ありがとうございます。正直なところ、デスクラウドが現れた時は計算外すぎて私もガチで死ぬかと思いましたが……次世代の竜騎士の力も私の計算以上だったおかげで、なんとかなりました。フフ……今回の私の計算は、1から10まで全部外れてしまいましたね。フッフッフ……」


『そ、そうでしたか。博士の計算が外れるのは〝いつものこと〟ですから……とにかく、ご無事でなによりです』


 その日の夜。


 荷ほどきされた木箱の前で、黒髪に眼鏡の男――フィンが、ルカに〝発掘された古代の品〟だと伝えていた謎の機械を前に笑みを浮かべていた。


「ですが、私自ら体を張った甲斐はありました。あの竜騎士……ルカさんの力は、先代のルミナ・モルエッタ共々、文献に残っている〝過去の竜騎士達の力を明らかに越えています〟。雷を操り、放り投げた槍が音速を超えて敵を撃ち抜く……あれはもはや、竜騎士とは別のなにかです。そして〝あの少女〟も――」


『竜騎士以外にも、フィンケル博士のお目にとまるようなことがあったのですか?』


 闇夜の下。

 機械に接続された無線機に向かってフィン――フィンケルが笑い、ぶ厚い眼鏡の向こうに隠れた赤い瞳を輝かせる。


「ああ、いえ……こちらの話です。申し訳ありませんが、私はもうしばらくこちらで竜騎士の観察と研究を続けます。〝レヴナントの開発〟は予定通りに。総統には、引き続きバカンスと伝えておいて下さい。それでは」


『あ、博士――!』


「フフフ……」


 無線連絡を強引に終了し、フィンはその眼鏡を中指でクイッと上げる。

 そして先ほど目の前で繰り広げられたルカの戦いと、赤いフェザーシップを操る少女――リゼットが見せた神技的機動を思い出す。


「あのリゼットさんの力……〝空の道〟と言いましたか。まさか、風を視認する人間がこの世にいたとは……私の目的のためにも、連合なんぞには伝えられませんね。フフ……!」



 Next Side flight

 ――

 ロイヤルとブリリアント


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