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第一話


 ドラゴンの時代は終わった。

 

 全ての陸地がぶ厚い雲の上に浮かぶ空の世界。

 かつて大空を制していたドラゴン達は、人が自らの手で作り上げた鋼鉄の翼――飛行機(フェザーシップ)の普及と同時に姿を消した。


 だがドラゴンの消失は、その背に乗って空を駆けていた竜騎士達にとっても、彼らが主役の時代が終わりを告げたことを意味していた。


 そして、それから百年後――。



 First flight

 ―― 

 水輸送船救出


 ――――――

 ――――

 ――



「がーっはっは! よくやったぞ野郎共! 早速こいつらの水を船に運び込め! 一滴も零すんじゃねぇぞ!!」


「了解です、バルドの親分!」


 どこまでも広がる白い雲と青い空の狭間。

 青い旗を掲げた大きな水輸送船に、武装したフェザーシップで構成された空賊の一団が群がっていた。


 フェザーシップとは、全ての陸地が空に浮かぶこの世界で最も一般的な交通手段である航空機のことだ。


 水と大気と浮遊石を動力源とするエンジン。

 回転するプロペラ。

 そして様々な形状の翼と、今も世界中で大小問わず多様な機体が開発され続けている。


「やめてくれ! その水は、水不足で苦しむ村のために国王が用意したもので……!」


「国王だぁ? 悪いが、俺達バルドファミリーは流れ者の根無し草でよぉ。王だの国だの、そんなもん関係ねぇんだよ!!」


 船の甲板に集められた船員達の訴えにも、空賊のボスであるヒゲの大男――バルド・ザ・テンペスト・ガンフォードは、まったく取り合おうとしない。


 この世界で水は貴重だ。


 飲み水としてはもちろん、水がなければフェザーシップも街の工場も動かない。


「だが安心しな。このバルド様は優しいからよぉ、水だけ貰えばてめぇらをどうこうする気は……」


「ま、待ってくれ親分! 上からなんか……変なもんがこっちに向かってきますぜ!」


「なんだぁ!?」


 その時だった。

 空賊団と水輸送船めがけ、青空を切り裂く黒い影がまっすぐに急降下。

 一瞬でバルドの目の前をかすめ飛んで雲海へと飛び込み、同時に空賊達の旗艦である巨大なフェザーシップの後部が大爆発を起こす。


「は、ハンマーヘッド、第一エンジン被弾!!」


「ふざけやがって! 野郎共、敵襲だ! 水は後回し、俺達にケンカを売った大馬鹿野郎を血祭りにあげろ!!」


「アイアイ、親分!」


 バルドの号令を受け、輸送船の周囲に滞空していた空賊のフェザーシップが一斉に飛び立つ。

 飛び立ったフェザーシップは謎の影を追って散開するが、目当ての影は探す間もなくすぐに姿を現わした。


「人々の水を狙う悪辣非道の空賊ども! この竜騎士ルカが来たからには、お前達の好きにはさせないぞ!!」


「な、なんだてめぇ!? それに、その馬鹿でかい羽の生えたトカゲは……!?」


 広がる雲海を突き破って空賊達の前に再浮上したのは、太陽の光を反射して美しく輝く青いドラゴン。

 そしてそのドラゴンの背に乗る、一振りの棒を構えた黒髪の少年だった。


「やっほー! いちおう言っておくけど、トカゲじゃなくてドラゴンだから。次間違えたら〝かじる〟よー?」


「俺は竜騎士のルカ! こっちのドラゴンは相棒のアズレルだ。空賊に襲われたとの無線を聞き、急いで駆けつけた!!」


「竜騎士だぁ~~? ガーーハハハハハハ! こいつはお笑いだぜ!!」


「な、なにがおかしい!?」


「これが笑わずにいられるかよ。今どき竜騎士なんざ、ガキの頃に読んだ絵本の中にしかいやしねぇ。この鉛玉とエンジンの時代に、騎士だのドラゴンだの……しかもガキのくせに古くさい喋り方までしやがって、イカレてんのか?」


「ぐぬぬー! 俺はともかく、竜騎士を馬鹿にするのは許さんぞ、このヒゲモジャ男!!」


「クソガキが!! 俺達だってな、生きるために空賊やってんだ! 時代遅れの〝竜騎士ごっこ〟になんざ付き合ってられるか! 野郎共、今度こそやっちまえ!!」


「俺の竜騎士は……ごっこではない!!」


 交渉は決裂。

 バルドの命令を受け、空賊のフェザーシップは再びルカとアズレルめがけて加速。

 ルカもすぐさまアズレルに合図を送ると、青い竜はその翼を大きく広げて急上昇。

 追いかけるフェザーシップを引き連れ、白い雲の尾を引いて天に昇る。


「あーあ、だから言ったのにー。相手はわるーい水泥棒なんだよ? 初めの一発で雲の底に沈めても良かったんじゃないのー?」


「駄目だ! たしかに笑われたのは死ぬほど腹が立つが……誇り高き竜騎士ならば、無闇やたらと命を奪ったりはしない!!」


「あはは、えらいえらーい! なら、まずはここをなんとかしないとだね!」


「わかっている!」


 初撃で空賊を仕留めなかったことに疑問を呈するアズレルに答えつつ、ルカは一度だけ背後の敵機を確認。

 同時に、空賊達はルカとアズレルめがけて機銃の一斉射撃を開始する。


「くたばれ、トカゲ野郎!」


 だがルカは右手に握る手綱を巧みに操り、アズレルの巨体を右へ左へと不規則に振る。

 さらにアズレルもその巨大な翼を折りたたみ、被弾面積を限界まで減らして迫る弾丸の雨をやり過ごす。


「ち、ちくしょう! 弾が当たらねぇ!」


「落ち着け! お前があいつの動きに慣れてねぇだけだ!」


「ざーんねん! けどもし当たってたとしても、そんな小さな弾じゃ痛くもかゆくもないんだよねー!」


「よし……ここだ!」


 その時。自分と空賊の船が雲海に対して完全に垂直となった瞬間、ルカはアズレルの手綱を引いて空中で急停止。

 最高速度で上昇していた空賊の編隊は、そのままアズレルとルカを追い抜いてしまう。


「なにぃ!?」


「加減はする!」

  

 自分の横を空賊のフェザーシップが追い抜いていくその瞬間。

 ルカは左手で構えた棒で周囲の空を一閃。

 すると辺りに閃光が弾け、ルカを追う全ての機体が片翼をへし折られて失速。

 フェザーシップはエンジンさえ無事なら浮力を失うことはないが、さすがに翼が折れてはもう戦えない。


「な、なんだと!? 一体、なにがどうなってやがる!?」


 あっという間に全滅した部下の姿に、バルドは黒煙を上げる旗艦から驚きの声を上げた。


「お、親分! こうなったら、輸送船の奴らを人質にして逃げるしかねぇっすよ!」


「竜騎士があんな化け物だなんて聞いてねぇよ!」


「馬鹿野郎! 人質なんて卑怯な真似できるか! 俺様にだって、越えちゃならねぇラインってもんがだな……!」


「へー! 悪そうに見えても、そういうところはちゃんとしてるんですね。ちょっとだけ見直しました! 後でお父様にも伝えておきます!」


「はえっ?」


 ルカに気を取られるバルドの耳に、別方向から迫るフェザーシップのエンジン音と、爆音の中でも聞き取れる澄んだ少女の声が届く。


「翼獅子のエンブレムに、赤いフェザーシップだと!? あれはまさかレジェール王家の……俺達のタラップをぶっ壊しやがったのか!?」


「ひええ! ど、どうしましょう親分! これじゃあ、水も人質も取れなくなっちまいましたよ~~!」


「さあどうぞ! 後はぱぱっと決めちゃってくださーい!」


「感謝する! ありがとうリゼット!」


 その声の主。

 それは、真紅のフェザーシップを自在に操る一人の少女。


 ルカからリゼットと呼ばれた少女は水輸送船と空賊船を繋ぐタラップを機銃で撃ち抜くと、そのまま操縦席からルカに片手を振って合図を送った。そして――。


「最後だ、空賊ヒゲモジャ男……今すぐ抵抗をやめて奪った水を返すなら、これ以上の攻撃はしない!」


「てめぇ……!」


 もうもうと立ちこめる黒煙を抜け、いつのまにかアズレルの背から舞い降りたルカがバルドの前に着地する。

 

「わざわざ降りてくるとは馬鹿なガキだ……! あのまま飛び回ってりゃ、俺達を全員沈めることだってできたろうによ!」


「そんなことするか! たしかに罪は罪だが、お前達にも事情があるのだろう……これからは空賊などやめて、真っ当に働くんだな!!」


「けっ! ガキが余裕ぶりやがって……気に入らねぇな!」


 ただ一振りの棒を手に生身で乗り込んできたルカを前に、バルドは部下達を下がらせる。

 そして腰に下げた巨大なハンマーを振り上げると、その巨体に暴力をみなぎらせ、竜騎士の少年に襲いかかった。


「空賊に情けなんていらねぇんだよ! くたばりやがれ、時代遅れの竜騎士野郎――ッ!!」


 ――――――

 ――――

 ――


「お疲れ様です! ルカは今日も大活躍でしたねっ」


「報酬は1……5……10……2000ゼルか……」


 夕暮れ時。

 眼下を埋め尽くす雲がまばらな赤と紅に染まり、青空は青から紫、そして黒へとグラデーションを描く。


 見事一騎打ちでバルドを倒し、遅れてやってきた正規軍に後始末を任せたルカとアズレル。

 そして真紅のフェザーシップに乗るリゼットは、美しい夕焼けの空を寄り添うようにしてゆっくりと飛んでいた。


「うぐぐ……普通に考えれば、2000ゼルというのはとんでもない大金のはずなのだが……なぜ俺はいつも金に困っているんだ?」


「それはもちろん、〝どこかのハラペコドラゴンさん〟が、毎日山ほど食べたり飲んだりしてるからだと思いますけど……」


「ねーねールカー! 報酬も入ったことだし、早く帰ってご飯にしようよー! 今日は久々に空マグロの丸焼きが食べたいなー!」


「無理だ! 干し肉で我慢!」


「ええええー!?」


 空賊から輸送船を救い、その上互いに一人の犠牲者も出さない完璧な仕事ぶりでありながら、夕日に照らされたルカの横顔は〝しなびたきゅうり〟のように切なかった。


「明日もまた仕事を探そう……リゼットも、いつも付き合ってくれてありがとう……」


「お気になさらずっ! 私もルカにぴったりの依頼があれば、また回しますので。明日も一緒に頑張りましょうね!」


「そーだよー? 立派な竜騎士になるのって、すーっごく大変なんだから。これからもいっぱい働いて、しっかりボクを養ってね!」


 これが、彼の竜騎士としての日々。

 どこまでも続く空を駆ける、世界最後の竜騎士が生きる景色だった――。






 


▽▽▽▽


 ここまでご覧下さりありがとうございます!

 作品フォローや評価、応援、コメントなど。

 どのような形でも読者の皆様から頂く反応は私の最高の糧になります。ぜひ気軽に応援して下さると嬉しいです!


 今後も全力で頑張りますので、どうかお見守りの程よろしくお願いします!!

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タイトルから面白そうな雰囲気が漂っていたので、やってきました。 VIKASHです。どうも。 1話を読んで、コレは楽しめそうだと期待しております。 続きも読ませていただきます。 失礼しました。 …
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