スパゲッティ詠唱と魔力消耗
火球を放った若者たちは、勝利に沸く村人たちに迎えられていた。
だが、その様子をよく見ると、妙なことに気づく。
(……あいつら、めちゃくちゃ息切れしてるな)
若者たちは肩で荒く息を吐き、膝に手をついてふらふらしている。
たった一発、火の玉を飛ばしただけなのに、まるでマラソン直後みたいだ。
そんな彼らを見ながら、近くにいた村人たちが話しているのが耳に入った。
「また魔力切れ寸前か……ったく、あいつらの詠唱、無駄が多すぎるんだよ」
「仕方ないさ。フレイム系は命令数が多い。覚えるだけでも一苦労だ」
――魔力?
(……つまり、魔法を使うにはエネルギーみたいなものが必要で、あれが【魔力】ってことか)
断片的な会話から、俺は推測する。
そして、すぐに理解した。
(長いコード詠唱=無駄な処理=そのぶん魔力消耗もデカくなる、ってわけだな)
若者たちが叫んでいた詠唱――あれは、正直、ひどかった。
あちこちに似たような命令が重複し、処理の順番もバラバラ。
制御もないまま、ひたすら長ったらしい命令を繋げていただけ。
典型的な――
(スパゲッティコードだ……!)
ぐちゃぐちゃに絡み合った、見るも無惨なプログラム。
そりゃあ、無駄に魔力も消耗するわけだ。
(こんなの、俺ならもっと効率よくできる)
胸の奥に、静かな確信が芽生えた。
プログラマーだった俺には、常識だ。
コードは整理し、まとめ、必要に応じて呼び出すべきだ。
もしこの世界の魔法コードを、関数化して最適化できれば――
魔力の消費も抑えられ、詠唱も短縮できる。
誰よりも早く、誰よりも強く魔法を撃てるはずだ。
(この世界、俺がぶっ壊してやる――)