魔法、それはコーディング
月明かりだけを頼りに、俺は草原をひたすら歩いた。
運が良かったのか、凶暴な魔物にも遭遇せず、しばらくすると、灯りの点る小さな集落が見えてきた。
(助かった……!)
命からがら、俺はその集落……いや、村と呼ぶべきか……へと駆け込んだ。
木造の家々、土の道路、行き交うローブ姿の人たち。
完全に中世ファンタジー世界のそれだった。
村の中央広場らしい場所にたどり着くと、何やら騒がしい。
人々が集まり、真剣な面持ちで何かを囲んでいる。
「急げ! 魔物だ! また森から出てきた!」
「若い連中は、魔法詠唱班に加われ!」
魔物……? やばいのか?
そう思った瞬間、どこからか、ズシン、と地面を揺らすような足音が聞こえた。
(マジでモンスターいる世界かよ……!)
俺は人混みに紛れつつ、前方を覗き込んだ。
そこには、鋭い牙をむき出しにした巨大なオオカミ……
いや、明らかに化け物サイズのビーストがいた。
立ち向かうのは、五、六人の若者たち。
彼らは何やら詠唱を始めた。
「フレイム・システム、インスタンス生成、ターゲット指定……!」
「リソース注入、スパークプロセス、ファイアボール起動!」
……え?
俺は思わず耳を疑った。
(いやいやいや、待て待て、今こいつら……プログラミングっぽいこと言わなかったか?)
まるで、魔法を発動するために、プログラムコードを音読しているような……
そんな、信じられない光景だった。
詠唱が終わった瞬間、若者たちの手元から、火球が生まれ、ビースト目がけて飛んでいく。
……ドゴォン!
爆音とともに火球が炸裂し、ビーストを吹き飛ばした。
周囲の村人たちは歓声を上げたが、俺はそれどころじゃなかった。
(ちょっと待て……この世界の魔法って、コード詠唱で動いてんのか!?)
心臓がドクドクと音を立てる。
そんな世界……俺にとっては、プログラマーだった俺にとっては……
(むしろ、得意分野じゃねぇか……!)
思わず、口元に笑みが浮かんだ。
新しい世界。新しいルール。
でも、これはきっと、俺にとって追い風だ。