“魔導皇子”との頂上決戦
王都にそびえる魔導院の最上階――「星環の間」。
そこは王国最上級魔導士だけが招かれる、魔法の実践と試練の舞台。
篠宮蓮は、今、その中心に立っていた。
対するのは――《魔導皇子》と呼ばれる男、リゼル=ヴァン=エルトリア。
現王の甥であり、王国随一の魔力容量と天性の詠唱技術を持つ天才。
「蓮殿。ここまで来た君の実力は、もはや疑う者は少ない。だが……王国の魔導体系は、千年にわたり磨かれてきたものだ」
リゼルは静かに言う。
「それを“数行のコード”で凌駕できるというなら……この俺に、証明してみせろ」
蓮は魔導端末を握りしめ、口角を上げる。
「そのつもりです。……“関数魔法”の真価を、あなたに見せます」
「《光芒断罪陣――解放ッ!》」
リゼルが詠唱を開始すると、空間が光で満ちる。
宙に浮かぶ詠唱陣が五重に展開され、天空から雷と光が迸った。
伝説級の魔術《光芒断罪陣》。
魔力制御と多重詠唱を同時に成立させる、王国でも彼しか扱えぬ一撃。
一方、蓮は魔導端末を操作しながら、低く呟いた。
――――――
def multiBarrier(layers: int, duration: int):
for i in range(layers):
generateBarrier(radius=3.0, duration=duration)
――――――
「multiBarrier(5, 10)」
五層の魔力障壁が瞬時に展開。
上空から降り注いだ光撃を、全て受け止める。
爆音と閃光が交差し、石床が焦げる。
リゼルは詠唱を続ける。
「《星火転律・昇華剣》ッ!!」
眩い星光を剣に変え、光速で突撃する――その一歩先。
蓮はすでに、カスタム関数を選択していた。
――――――
def autoEvade():
if detectThreat():
blinkTo(safeZone())
――――――
「autoEvade()」
リゼルの剣が彼に届く直前、蓮の身体が消失。
次の瞬間、別の場所に再出現していた。
剣は虚空を斬り、リゼルはわずかに瞳を見開いた。
「これで……終わりです」
――――――
def bindStrike():
cast("Bind", power=6)
delay(0.3)
cast("PiercingBolt", power=10)
――――――
「bindStrike()」
拘束魔法がリゼルの動きを封じ、続けざまに放たれた雷の槍がその胸前で爆ぜた。
耐久結界が砕け、リゼルは膝をつく。
重く、静かな空気。
数秒後――審判の魔導士が声を上げた。
「勝者――篠宮蓮!」
歓声が会場を包む。見学していた魔導士、貴族、王族たちの間にどよめきが走る。
「まさか……あのリゼル殿を……!」
「コード魔法……本当に、魔術の未来なのか……」
リゼルは静かに立ち上がり、蓮へと手を差し出した。
「……見事だった。君の“魔法”は、紛れもなく“新しい力”だ。私は、君を認めよう」
蓮もその手を取る。
「ありがとうございます。けど……これが始まりです」