エレだけの魔法
あの後、みんなから褒められた。しかも、みんなから魔法教わった。メモくれたから、それで練習中。
「どこまでできるようになったんだ?」
「半分くらい」
「早いな。少し休憩しろ」
「みゅ」
ゼロが紅茶を淹れてくれる。
「最近は休む時間が減って疲れが抜けてねぇだろうから、少しでも疲れが取れるように新作作ったんだ」
「ありがと」
ゼロの趣味なの。紅茶とかハーブティーを作るのが。お花の交配とかもしているの。
淹れてくれた紅茶を一口。苦味が少なくて、とっても飲みやすい。それに、落ち着く香り。
「ゼロ、そういえば、エレを保護した日の事って聞いても良い?」
「ああ。そのくらいなら。お前は、俺らが保護したらすぐに寝たから覚えてねぇんだろ」
それで覚えてなかったんだ。寝れないの限界きてたんだと思う。あそこにいた頃は、気軽に寝る事なんてできなかったから。
「保護は、何かあったわけじゃねぇからな。見つけて保護したくらいしか話す事はねぇよ。そのあとは、こことフォル達の方どっちで保護するかの話し合いをしたんだ。その結果は、分かってんだろ」
「ふみゅ。ゼロ達なの」
「ああ。俺らが保護してすぐに一度起きたんだが、フォルらぶ。ゼロもらぶしてあげるとか言って寝た」
「全然記憶にないの」
「だろうな。保護の時の事で俺が話せるのはそのくらいだ」
まだ何かありそう。でも、別に知らなくても良い事だろうから、聞く必要はないのかな。
そんな事より、魔法をいっぱい覚えて、フォルに自慢するの。それに、エレもみんなみたいになんか、特殊な魔法が欲しい。エレしか使えない魔法が欲しい。
みんなは、自分達だけしか使えない魔法持ってるのに、エレだけないから。
「……エレだけの魔法……難しいの」
「なぁ、魔法の組み合わせって知ってるか?複数の魔法を組み合わせる事で、単体とは違う効果の魔法ができるんだ」
それは良いかもしれない。それでエレだけの魔法を考えるの。
「どんな魔法にしようかな。フォルが笑顔を見せてくれる魔法が良いの」
それなら、きれいな景色ときれいな音とかどうかな。音魔法と空間魔法の組み合わせ。
きれいな音ってずっと聞いてたいの。きれいな景色ってずっと見ていたいの。だから、この二つを足してみる。
でも、これ練習するのに、場所を考えないといけないかも。どこか良い場所あるかな。
ここの事は、ゼロとゼムに聞くのが一番なの。
「ゼロ、どこか良い練習場所知ってる?エレだけの魔法を練習したいの」
「それなら、俺らが、魔法で遊ぶ時に使う場所に連れてってやる。今日は疲れてるだろうから、明日だが」
「ふみゅ。ありがと」
そういえば、最近は遅くまで起きている事が増えた気がするの。今日は早めに寝ようかな。
「ゼロ、寝るからこっち」
「またか。最近甘え多くねぇか?」
「良いの。ゼロは家族なんだから」
ゼロと寝るのは普通なの。エレにとって。ゼロは、エレの大事な家族だから。
ゼロもエレと一緒の方が寝れるって言うから。
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良いあだ名の。でも寒い。寒いからあったかい格好してお外に出ないと。
って言うのまでは分かるんだけど。重いの。
「ゼロ、これなに?」
「フォルからもらった。エレが寒くないようにって……心配、してくれてんだ。その、センスとかそういうのは……考えずに着てやれ」
「……みゅ」
重いの。色々と重いの。もこもこのハートのお洋服が。
「……これをこうして……これで……これなら大丈夫だろ」
「服もだいぶ重いの。重量的意味で」
「それは諦めろ」
「……みゅ」
お洋服が重いのは我慢するの。ゼロが、自然な感じにしてくれたから。
「弁当持ったし行くか。あっ、そうだ。エレシェフィール、次の集まり参加してくれ。大事な話があるんだ。エレシェフィールにも関わる事」
「うん。行くの」
転移魔法を使えばすぐだけど、遠くないから歩きなの。基本的に、エレ達のいるここではみんな転移魔法を使わずに歩くんだ。使う時もあるけど。
「ちなみにどのくらい?」
「二十分」
意外と近かったの。もっとかかると思ってた。
という事で、ゼロ達の遊び場までお出かけ。
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とっても広くて何もない場所。これは、遊び場にはぴったりなの。何かあれば、邪魔になっちゃうから。
「ここなら魔法使いたい放題だ」
「みゅ。早速使ってみるの。えっと、音と空間魔法」
音がなる空間。空間は何もない。真っ白。上手くできないの。
もう一度やってみる。ってやっても変わらない。何かだめなところがあるのかな。
「ゼロ先生」
「エレシェフィールは、どんな魔法を使いたいんだ?」
「きれいな音と魔法」
「具体的に。どんな景色とかどんな音とか」
具体的にって言われても、お外の事をあんまり知らないから、想像できないの。もっと、いろんな景色を見てまわれば少しは想像できるようになるのかな。
ゼロ、エレのためにお悩みみたい。ちょっと黙っておこうかな。
「エレシェフィール?こんなとこ出会えるなんて。何していたの?」
「ふぇにゃ⁉︎」
フィルなの⁉︎突然のフォルなの⁉︎
どうしよう。どうしよう。魔法の練習はばれたくない。びっくりさせたい。今度こそびっくりさせたい。でも、隠すの苦手。
どうしよう。
「この服」
「ぜ、ゼロに着せてもらったの。フォルからって」
「えっ?あれフィルが送ったんだけど?寒いから部屋着にって、暖かそうなの」
「えっ?えっ?フォルからじゃねぇのか?」
ゼロがびっくりしてるの。これは、勘違いが起きている気がする。どうしてこんな勘違いが起きているかは分かんないけど。
「あー、フィル手紙入れるの忘れてたか。なんかごめん。勘違いさせて」
「こっちこそ悪かった。勘違いで、勝手にセンス疑って」
ゼロとフォルって仲良いと思っていたけど、これが仲良い秘訣なのかな。
「それで、エレシェフィールは何をしてたの?」
「ふぇにゃ⁉︎」
「魔法の練習だ。自分も自分だけの魔法を使えるようになりたい出そうだ。それで、音魔法と空間魔法を合わせたいらしいが、全然成功しないみたいで」
ゼロに全部言われた。秘密にしたかったのに。八つ当たりなの。
攻撃力ないけど、猫パンチなの。
「こういうのはフォルに聞くのが一番なんだ」
「ふぇ?」
「そんな事はないと思うけど、悩んでるならほっとけないかな。君の言っている魔法だと、こんな感じかな」
ふぁぁぁ。
光る動植物に、雲ひとつないきれいな夜空。
とってもきれいで、幻想的で、ずっといたくなる。
「蝶々なの」
淡く光る蝶々がとってもきれい。ついつい追いかけたくなっちゃう。
「迷子になるから追いかけんなよ」
「追いかけないの。それにしても、音も心地良いの」
「ありがと」
「でも、エレだけの魔法はできてないの」
フォルが簡単に使えてるから、別の魔法を考えないと。そんな魔法が良いんだろうって悩もうとしたけど、ゼロが声を出さずに笑ってるの。
「むにゅぅ」
「可愛すぎ。全部顔に出てる」
「うん。エレシェフィール、オリジナルの魔法を作る方法を教えてあげるよ」
「みゅ」
「オリジナルの魔法を作るには、土台が必要だ。その土台として、この魔法を使うっていうのはどうかな?」
それは良いかもしれないの。それで決まりなの。
そう決まれば、まずは土台を練習する。土台の練習のために、ゼロに……でも、でも、恥ずかしい……でも、でも……恥ずかしくてもがんばるの。
「フォル、魔法、教えて?」
「うん。いくらでも教えてあげる」
なんだか、なんでもないはずなのに恥ずかしいの。なんなんだろう。これ。
「俺、お邪魔みたいだから」
「だめなの!帰っちゃだめなの!ゼロは……保護者なの!」
フォルと二人っきりは、恥ずかしいから、どうにかしてゼロをここにいさせる。ゼロがいれば、恥ずかしいのも少しは無くなっていると思うから。
「まずは、どんな景色が良いか、それを決めようよ。いろんな景色でできれば良いけど、慣れるまでは、一つの景色に絞っていた方が良いから」