愛姫の役割
なんだか、とっても怖い事を聞いちゃったの。
世界を簡単に滅ぼせちゃうの。
仲良くなって、良い人達って知って、忘れかけていた。王達はみんな、簡単に世界を滅ぼせるって。
「……怖い?簡単に、そんな事ができる僕らが。最も恐れられている生命魔法……世界から全てを消し去る魔法を持つ僕が」
「……」
怖い。そんなの聞いて、知っちゃって、怖くないなんて言えるわけない。
自分だけは大丈夫なんて、そんなにもないんだから。
再認識……ううん。初めて認識した。エレは……私は今、世界一危ない場所にいるんだって。
安全とも言えて危ないとも言える場所。そんな場所にいる。
「……久々にこんな魔法を使って疲れたな。ごめん、今日は帰るよ。また、暇になったら会いにくるから」
フォルがそう言って立ち上がる。このまま帰したら、今度いつ会えるかなんて分かんない。もしかしたら、ずっと会えないなんて事にもなるかもしれない。
愛姫が怖がっているなら、離れた方が良いって思うかもしれない。
フォルだけじゃない。他のみんなだって。
今までは、何も知らなかったから、楽しくお話ししていられた。でも、こんなを知って、今まで通りできるか分かんない。
それで、離れていくのなんてや。
「待って!」
怖いのを隠す?
ううん。それはだめ。もう、フォルは気づいているから。
寂しいって言う?
それだと、王達以外と交流を持つようにってやるかも。
なら、嘘なんてつかない。寂しいからなんて言わない。
エレは、愛姫だから。愛姫らしく、自分の役割を果たすの。
「怖いよ。怖い。でも、それでも、離れないの!エレは……私だけは、みんなの怖さを知って、それに向き合う!怖くたって、側にいるの!」
「むりしなくて」
「むりなんかじゃない。それに、私は愛姫なの。王達に愛されているんだから、愛を理解できないから、愛するなんて言えないけど、一緒にいるの!それが、愛姫、エレシェフィールの役目なんだから!」
自分のやるべき事。それは、ちゃんと分かっているわけじゃないんだと思う。エレも、フォル達も。
一緒にい続けるのが、役目じゃないかもしれないけど、それでも、一緒が良いって思うの。これは、エレが思っている事。愛姫としてなんかじゃない。
それと、それと、もう一つ絶対言わないとな事あるの。
「あと、エレ、フォルの魔法は怖いものもあるかもだけど、とってもきれいって思うの。フォルだけじゃない。ゼロやゼムも、アディやイヴィも……きっと、他のみんなも。魔法を使う所作は、とってもきれいで、エレはそれを見入っていたの……見惚れていたの?」
「……ほんとに変わんないね。そうやって何がなんでも、僕らと一緒にいようとするとこ」
ふぇ。な、なんだか、楽しそうなの。にこにこが、ぞわぞわなの。
「ねぇ、僕の可愛いエレシェフィール」
あれ?気のせいなのかな。なんだか、様子が変というか、雰囲気が別人なの。おかしいの。
「ふぇ⁉︎そ、そういえば、魔法を教えてくれるって言っていたの。それの再開なの」
なんだか、この先に進みたくなくて、つい。フォルが何を言おうとしたのかは気になるけど。
「……良いよ。僕が、その身体に覚えさせてあげる」
な、なんだろう。どっかの氷の王より氷なの。寒いの。逃げないって言ってたけど、逃げたいの。
「まずは、基礎をどれだけ覚えてるかのテストだ。エレシェフィール、魔法の構築式は何のために存在する?」
「ふぇ⁉︎えっと、その……魔法を構築するため」
「……」
笑顔で無言怖いの!
もしかして間違ってたのかな。でも、ゼロにはそう教わったの。
「構築式は、命令のようなものだ。魔力に、こういう魔法を使いたいって頼む。まぁ、魔力は拒否権なんてもらえないんだから、頼むというより命令。例えば、さっきの氷の花なら、氷と花の組み合わせを創れと命令する。実際の式となると、もう少し複雑だけど」
「……主の使いである魔力達が、人の願いを叶えるのに分かりやすくしたのが、魔法式。魔力は、魔法式を見て、人の望みを叶えてきた。魔力も生物と同じ。進化した事により、人と同化する術を覚え、人と魔力が意思疎通を図る魔法式は、必要なくなっていった」
「良くそんな事知ってるね」
「ふぇ?なんだか、勝手にお口が動いたの」
感心してるところ悪いんだけど、なんなら、言った事も分かんないの。半分以上。
なんだか、大事な事の気がするけど。
「……世界の名を持つ愛姫は、世界が争いを止めるために選んだ子。僕とフィルだけは、それを聞かされ続けていたんだ」
王達と仲良くで平和を願ってたら、おっきすぎる役目を言われた。でも、意外とびっくりしてない。王の意思一つで、世界は簡単に滅んじゃう。そんな中にいるからなのかな。
「そんな子だから、こういう事も知ってるんだろうね」
「ふみゅ。分かんないの。でも、その世界様に助けられているのかもって思う事はあるの。生きてる事とか、生きてる事」
エレの今の状態だと、それがもう奇跡みたいなの。今は、ゼロとフォルの側で加護を受けているから良いけど、加護を受け取る前は、違うの。
エレは、昔から、好かれちゃいけないような子達に好かれちゃうから。それで、何度も危ない目に遭ったの。でも、誰かに守られていたのか、生きていられたの。
それが、きっと世界様に守られていたからなんだと思うんだ。
「そんな特別なお姫様が選んでくれるなら、幾千幾億と転生しようと、ずっとお姫様を大事にしてあげる。ずっと、お姫様を好きでてあげる。この記憶がなくてもね」
「ふぇ」
「エレシェフィール。絶対に逃さないから。どれだけ時が経とうとずっと」
どきどきなの。緊張しているのかもしれない。でも、どうして?
分かんないの。フォルのこの、どこか勝気な笑顔を見ていると、どきどきなの。
回復魔法覚えておけば良かった。そうしたら、この症状も止められるのに。
……待って。フォルが使えるの。回復魔法なら。
「フォル、なんだか、おかしいから、回復魔法使って?」
「それで治ればいくらでも使ってあげる。でも、それで治るなんてないと思うよ?その症状は」
「ふぇ⁉︎じゃ、じゃあ、どうすれば治るの?にっがい、エレが苦手なお薬を飲むの?治るなら、我慢するの」
飲みたくはないけど、治らないよりは良いと思うの。
「ふふっ、無自覚なのも可愛いなぁ」
「ふぇ」
「今日こそは逃さないから。僕の……」
急に止まったの。顔真っ赤になったの。
良く分かんないけど、いつもフォルって感じがするの。
「ごめん!僕、またエレに」
「むにゅ。びっくりするから、ああいう事はやなの……ふみゅ?エレも普通に戻ってるの」
どきどき止まった。びっくりするとどきどきする事あるって聞くから、それだったのかな。
「エレシェフィール、美味しい果物のお裾分け。フォルと一緒に……って、何かあったのか?」
ゼロが、水々しくて美味しそうな果実を持ってきたの。畑で育ててたのが実って、それのお裾分けなのかな。嬉しそう。
「ふみゅ。フォルが突然、いつもと違う感じになったの。それでびっくりしたの」
「ああ。またか。本当にフォルって、俺の時と違って、なる時分かんねぇんだな」
「ふぇ?エレに分かるように説明なの」
「俺とフォルは、普段から暴走を抑えるためにって封印魔法の類を使ってるんだ。その魔法でも抑えられず、漏れ出た時に、別のもんも抑えられなくなるんだ」
良く分かんないの。でも、どうしてだろう。さっきフォルにびっくりしたけど、落ち着いたら、懐かしいって思うのは。
昔、あんな感じのフォルと一緒にいたってなんとなくだけど思うの。
「……あれはちっちゃい頃のフォル?」
「違うよ。どうせ、思い出せば分かる事だからいっか。僕は、あの魔法と似た魔法を使って、自分の役目を果たせるようにしてたんだ。でも、すぐに、自分からどうする事ができるようになったんだけど、あの魔法で、時々、その状態になるんだ。しかもなぜか、あの魔法の影響でエレシェフィール大好きが追加された」
「ふぇ?理解不能なの」
「そう言われても、僕らも、この魔法の副作用に関しては、あまり知らないから」
エレ的には、本質というか、その種の本能的なあれが、顕著に出ているだけな気がするんだけど。でも、それもちょっと違う気もする。
多分、なんだけど、フォルの過ごしてきた環境が大きく関係しているんだと思うの。
フォルの思う理想?が、何かのきっかけに、溢れ出るって感じがするの。
って、良く分かんなくなってきた。とりあえず、今のフォルも、さっきのフォルも、両方併せ持っているものだと思うの。だから、王達仲良し作戦のためにも、あっちのフォルとも仲良くなる必要があると思うの。
なんて、色々考えたけど
「……案外、理由なんて単純な気がするの」
「それも、なんとなく?」
「みゅ。なんとなく思ったの」
「そうかもしれないね。僕が、見ようとしていない僕とか」
「エレ的には、感情抑え癖が変な方向にいったのと、フォルの一部分って可能性もある気がするの」
お話してて何も考えてなかったら出てきたの。意外とこういうのが真実でしたとかあり得そう。
「なぁ、ところで、いちゃついてたのは分かったから、勉強したのか?」
「魔法学教える前に、この子に、僕らが世界を簡単に滅ぼせるって事実を、再認識してもらってたんだ」
「それも重要か。けど、それだと、一つも覚えられてねぇから、一つくらい覚えろよ」
果実置いて部屋出てったの。もしかして、ゼロは一日一つ魔法を覚えさせようとしているのかな。厳しいの。
「……とりあえず、これ食べて休憩しようか」
「みゅ。休憩大事なの」
後の事は後で考えれば良い。今はそんな事より、美味しそうな果実で休憩を楽しむ事にするの。
そうすれば、きっと、覚えが良くなる。なんて事になってくれれば良いのに。