選ばれた理由
フォルって、幻想的な景色だいすきなの。エレ知ってる。だって、フォルが逃げる先にある景色って、いつも幻想的な景色なの。
フォルは、幻想的な景色がだいすきだとしか思えない。それ以外に理由があるなら、エレが知りたいの。
「見つけた。フォル、探したの」
「……」
「フォルが、ぎゅぅとか近すぎるとだめみたいだから、ちょっと離れて座るの」
本当はお隣さん通り越して、フォルのお膝の上にちょこんと座るのが一番良いんだけど、フォルが逃げないように、エレが我慢するの。
エレは、いつもより離れた場所に座るの。
「ここ、危ないから、戻った方が良いよ。みんなもきっと心配する」
「フォルがいるから戻らないの。エレがいなくなるの心配もあるけど、フォルがいなくなるのもみんな心配するの。エレは心配するの」
「僕は、君よりかは、護身術とか身につけているから。少しくらい外に出ても平気だよ」
フォルはエレを遠ざけたいんだと思うの。だって、エレは、一緒にいたいのに、こうやってエレを帰そうとするんだから。
「エレはフォルと一緒にいるのが良いの。みんなといるのは楽しい。ゼロは、おにぃちゃんみたいで、エレの事を一番見てくれる。でも、エレは、フォルと一緒が一番良いの。フォルと一緒は、きらきらで、ふわふわで、エレは、それがだいすきなの」
どうしてフォルだけにって思うけど、きっと、フォルはエレの特別なんだと思うの。
「……僕も、好き……だけど、エレはみんなの妹だから、僕だけが、独り占めはできない。そうじゃなくても、エレと一緒にいると、熱くなって、離れたくなって、でも、離れたくなくて」
フォルが泣くのはいつもの事なの。フォルは、とっても泣き虫で可愛いの。
エレは、フォル慰めたいだから、フォルの頭を撫でて慰めてあげる。そうするときっと慰められるから。
「ごめん、エレが、僕と一緒にいたいのは分かってるのに」
「ぷにゃ⁉︎フォル、ひじょぉじたいなの!ぷにゃ⁉︎なの!」
魔物さんが現れた。エレは何もできないの。で、でも、フォルを守るの。エレが守らないとなの。
フォルは今、悲しいだから、というか、フォル、魔物さんをの前に倒れたの。エレが守らないとなの。
「ぷ、ぷしゃぁー!」
エレの威嚇なの。威嚇したのに、エレの威嚇、全然効いてない。
威嚇……もっと、威嚇すれば
「しゃぁー!」
「グォォォォ!」
ふみゃ⁉︎
こ、怖いけど、負けないの。威嚇負けないの。
「しゃぁー!」
「グォォォォ!」
「ぷきゃ⁉︎」
いたいの。魔物さんの尻尾攻撃なの。
尻尾がぶんぶん振ってるの。当たったの。
「エレ、フォルの側にいて」
ゼムだ。エレ達の事探しに来てくれたのかも。
エレはフォルの側いるの。
「ふにゃぁ」
魔物さんが凍った。これで安全なの。
怖かった。
「ふにゃ。フォル」
「突然魔力の流れが変わったからだと思う。早く帰って寝かせてあげよう」
「ぷ、ぷにゅ」
フォル心配なの。身体が弱いっていうのは知ってたけど、こんな事になるなんて知らなかったの。
フォル、大丈夫なのかな。
**********
お家着いたの。エレは、フォルが心配で、側にいるの。
「……ん……えっ……エレ?もしかして、ずっと側にいた?」
「うん。フォルが心配だったの」
「嬉しい……ん……もう夜か。なら、このまま一緒に寝ようか」
違うの。いつものフォル違うの。どこが違うっていうのはせつめい……できるの。性格がもう違うの。
フォルは、こんな事言わない。自分が逃げられない状況だと、逃げたくなる事言わない。
「フォルがやだと思うから良いの。エレは自分のお部屋で寝る」
「僕はいやじゃないよ?一緒に寝てくれるなら、ぎゅぅしてあげる。それに、君がやりたい事は全部やってあげる。だから、一緒に寝てくれる?」
フォルが誘惑的なの。とっても誘惑的なの。
エレ……エレは、それでも、なんてできないの!
「一緒に寝る」
「うん」
一緒に寝たの。欲には逆らう事ができないから。でも、後悔はないの。あるとすれば、フォルの方なの。
フォルがぎゅぅしてくれる。嬉しいけど、本当に良いのかな。
「愛してる。僕のエレシェフィール」
「エレ……ふみゅ?」
「君の本名だよ。世界の名を持つお姫様」
知らないの。そんな事を言われたって感じはしたけど、知らないの。
「気に入らない?世界とおんなじは」
「気に入らないとかじゃないの。エレは……世界ので、エレじゃないみたい」
「……エンジェリルナレージェ」
「ふぇ?」
「気に入ってくれない?君のためだけに考えたんだけど」
フォルが考えてくれたなら、どんな名前でも気にいるって言うの。
使われる事なんてなかったとしても、これは、エレがだいすきな人がエレのためにくれたものだから、大切なの。
「気に入ったの。ありがと」
「うん。愛してる。僕のお姫様」
「ぷみゃ⁉︎エンジェリアなの!」
「エンジェリア」
「ふみゅぅ。満足」
エレは満足したから、寝るの。今日はぐっすり寝れそうなの。
「……愛してる。可愛いよ。僕だけのものだよ」
寝れないの。フォルが睡眠学習させてくるの。気になって寝れない。
「フォル、気になるから、だめなの」
「……やだ。エレが僕のものになってくれるまで、ずっとやる予定だから」
「ぷみゃ⁉︎え、エレはとっくにフォルのなの。だから、心配しなくて良いの!寝るの。寝ないと良くならないの」
フォルが寝てくれるまで、エレは寝れない。
安心して寝る事ができない。
「……おやすみ」
ちょっぴりいやそうな感じで、フォルが寝てくれた。これでエレも寝る事ができるの。
**********
フォルは、時々こんな感じになるって後から、フィルに教えてもらった。だから、あの日、フォルとの距離が縮まったなんて事はなかったの。
「お外、まだみんな争ってるの。やなの。みんな仲良くして欲しいの」
エレの願いは届かない。みんな、争い続ける。それが、今のこの世界。
「フォル、今日はエレも畑手伝う。エレにだって、できると思うから」
「ありがと。一緒にやろうか」
「うん」
手を繋ぐ事くらいはできるようになった。じゃなくて、逃げないでいてくれるようになった。
エレは、フォルと一緒に畑仕事をして、みんなでお昼を食べたの。
お昼寝しようと思った時、世界様の声が聞こえてきたの。
愛姫の役割は、みんなに愛を与える事。だから、エレは、決めたんだ。みんなとこれからも一緒にいるために。
世界様の与えた役割を果たすために。
「ぎゅむぅ」
世界全体に愛の魔法。この魔法で、世界様が与えられなかった愛を与えるの。
エレは、これで、愛姫の一番重要な役割を果たしたの。
これで、愛姫の役割を終えたってわけじゃないけど。これからは、みんなと一緒にいる愛姫。みんなのためだけの愛姫になるの。
それが、愛姫の役割だから。
愛姫は、みんなの守るべき存在。みんなの側にいる存在になるの。
今もだけど。
「エレ、フォルとぎゅぅしたい」
「うん。良いよ。少しだけなら」
「ふみゅ。フォル、だいすき。エレは愛姫の役割の一番重要なのを果たしたの。だから、これからは、みんなの愛姫なの」
「愛姫って知ってたんだ。知らないと思ってた」
知っていたんじゃない。エレは、愛姫であるって知ったのは、ついさっきなんだから。
「愛姫の役割ってなんなの?」
「愛の魔法を使う事。それと、みんなが、エレをだいすきになってもらう事。こっちは、後から与えられた役割なの。エレは、愛の魔法を使えば、あとはどうでも良かったみたいだけど、みんなが、フォルがエレを見つけてくれたから。別の役割を与えられたの」
「……世界はそんなに残酷じゃないよ。きっと、君を助けたくて、僕らと出会うようにしたんだ」
フォルが、エレの手の甲にちゅぅしたの。
「僕らは、ずっと、君のものだよ。君が僕らのものだって言うように。ずっと、君だけを愛している」
フォルは気づいていたんだと思う。エレが、愛姫が、誰にも愛されないで良い相手を選んでいたのを。
エレは、一人で、ずっと誰もいなかった。こんな世界だから、その方が良い事なんだろうけど。




