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愛姫の悩み


 相変わらず、フォルの小型龍が孵化せず、とうとう集まりの日。


 ゼロに選んでもらったドレスに身を包んだエレは、良く分からず、集まりに参加するの。


「わざわざきてくれてありがと」


「ぷみゅ。フォルの頼みだからくるの。お話ってなんなの?」


 お話の内容を聞いていないから、気になるの。


 みんな、今日はとっても華やかなの。こういう格好をしているのも、新鮮で良いの。


 前に集まりにきた時は、そんなの見る余裕なんてなかったから。


 普段着とは違う、王子様みたいな格好。本当素敵なの。


「今日は、エレシェフィールの守り手の話をしたかったんだ。エレシェフィールは、守り手の話を知ってる?」


「ふみゅ。エレの護衛のような感じなの。エレの護衛は誰なの?」


 愛姫は、他のみんなみたいに強くないから、護衛が必要なの。それが守り手なの。


 確か、守り手は二人。誰になるんだろう。


「エレシェフィールの守り手は、ゼムレーグと、フィージェティンルゼアの二名。反対意見がなければ、これで決定する」


 ゼムとフィルなら安心なの。


「よろしくなの」


「うん。よろしく」


「よろしく」


 今回の集まりは、これを発表するためにエレを呼んだのかな。みんな、エレの事を考えてくれて嬉しいの。優しいの。


 この喜びをぎゅぅで表現したい。ゼロにぎゅぅで表現するの。


「みんな、ありがと」


「……りゅりゅ、にゅにゅは感じるんだ」


「りゅりゅも感じます。これは、共有です。エレシェフィール様とゼーシェミロアール様はきっと、共有の才があったんです。これは、喜ぶべき事でしょう」


 共有って、フォルとフィルがやっていた事だよね。覚えてるの。どうしてそれが、エレとゼロが使えるようになるんだろう。


 エレとゼロに共通点なんてないと思うの。


「……エレは、ゼロに可愛いをあげるの」


「……フォル、共有ってどんな事ができるんだ?」


「まずは、互いの感情を知る事からやってみれば?そこから、色々と知れるようにするのが良いと思う。共有は、色々と便利だけど、どんな事ができるかは、自分達で実際に体感して知るのが一番だと思うよ」


 ふみゅ。分かんないの。


「……感情を知る……エレシェフィールは、フォルの事ばかり。フォルが本当に大好きなんだろうな」


「ふぇ⁉︎ふみゃ⁉︎」


 なんだか分かんないけど、どきどきなの。なんでこんなにどきどきなんだろう。


「ゼロ、帰るの。お家帰るの。早く帰るの」


 きっと帰れば、このどきどきはなくなるの。だから、早く帰って、どきどきなくすの。


 フォルも、みんなと一緒なら、寂しくないと思うから。


「……フォル、エレが、フォルといるとどきどきだから帰りたいって」


「そうなの?」


「ふ……ふみゅ。どきどきなの。分かんないけど、とってもどきどきなの。だから、帰りたいの。お家帰るの」


 どきどきの理由は分かんないのに、どうして止まらないんだろう。


「なんでこれで孵化しねぇんだろうな。一番孵化しそうなのに」


「分かんないの!分かんないの……ふぇ」


「えっ⁉︎わ、悪い。余計な事言った」


 ゼロが焦ってるの。分かんないの。


 エレは、愛姫の役割果たせないのかな。ずっとがんばってるのに、フォルの小型龍は孵化しないの。


 みんなのだって、孵化した理由分かんないの。分かんないまま、孵化してるから、エレが愛姫の役割を果たしているからじゃないと思うの。


「……僕は今日はこれで。どうせみんなもう知ってんだろうから言うけど、この前倒れてから、まだ日が浅いから、あまり動いてるとフィルが心配するんだ。だから、何か話があればまた今度。行こうか、エレシェフィール」


「ふ、ふみゅ」


 フォル、エレのために、そう言ってくれたのかな。


      **********


「エレシェフィール、なんで泣いてたか話してくれる?いやなら良いけど」


 フォル、泣き止むまで、ずっと側にいてくれた。何も聞かずに。


「エレは、愛姫の役割果たせないの。孵化だって、エレが愛姫の役割を果たせてたら、フォルも孵化してるはずなの。エレが、愛姫の役割を果たせてないから」


「……そっか。ずっと不安だったんだね。ありがと。話してくれて。大丈夫だよ。君は十分すぎるほど役割を果たしている。僕だけがいまだに小型龍が孵化しないのは、君だけの問題でもなさそうだから、あまり気に病まないで?」


「そんなの、分かんないじゃん。エレが、エレは愛姫として、何もできなくて、フォル達にいつも迷惑かけて……エレ……」


 みんなは加護を調整して役割を果たしてる。でも、エレは違うの。役割を果たしてなんていない。誰かに助けてもらっているだけ。守ってもらってるだけ。


 エレは、何もできてないの。


「そういう事か。フォル、悪いけど、俺に任せてくれ。これは、俺以外にはできねぇ事だから。それと、多分、かなり泣くと思うから、そうなったら慰め頼む」


「……うん。分かった。任せるよ」


 ゼロ、全部聞いていたのかな。本当は、フォルにも聞かれたくないような事なのに。


「エレシェフィール、また後で」


 やだ。ゼロと二人だけにしないで欲しい。フォルもいて欲しい。


 でも、エレのそのわがままを言う前に、フォルが部屋を出た。


「エレシェフィール、愛姫の役割はなんなんだ?」


「……知らないの。孵化しか知らないの。みんなに世界を滅ぼさせないしか知らないの。でも、エレはそれも……」


「知らねぇのに、なんで果たせてないなんてなるんだ?知らずに果たせてるかもしれねぇだろ。つぅか、孵化については、フォルにだけ求めるもんが違うから時間がかかるだけだろ。お子様なエレシェフィールには、恋なんて分かんねぇらしいからな」


 孵化は愛情なんだから、恋なんて関係ないの。愛情さえあれば、恋なんていらない。


「……不安だったら言えば良いだろ?それとも、お前にとって、俺らは他人で、本当に悩んでいる事は何一つ相談できねぇ相手なのか?俺らの事は、ただの世界を滅ぼす危険人物とでも思ってんのか?」


「そんなわけない!それだったら、すきになんてならないの!怖い一面もあるけど、エレには優しいって知ってるの!エレは怖がる必要ないって知ってるの!そんな事言うゼロきらいなの!」


「きらいになりたいならなれば良い。それで俺がエレシェフィールから離れる事なんて絶対にないから」


「ふぇ」


 ゼロがエレをぎゅぅしたの。エレは、やなの。やなのに離してくれないの。


「みんなはエレシェフィールに優しいからな。甘やかすからな。こんな事言わねぇだろ。フォルも、お前が忘れてる記憶の事があって、何か言うなんてできねぇみたいだからな」


 エレはそれでも良いの。怖いのやなの。怒るのやなの。


「俺が怒ってるなら、それは、お前が本当に大事な存在だからだ。大事だからこそ、一人で悩むエレシェフィールを許せねぇだけだ」


「ふぇ」


「なんでフォルの小型龍が生まれねぇか教えてやろうか?俺らの小型龍が、自我を持たねぇか教えてやろうか?全部、自分で気づいているからこそ、こんな事言ってんだろうが」


 やなの。ゼロやなの。


 エレが、やな事ばかり言ってくる。言って欲しくない事いっぱい言ってくる。


「お前が自分で壁を作ってるからだ。小型龍は、お前とその相手の愛情なんだろ。壁なんてあれば、できるわけねぇだろ」


「ゼロやなの!エレ一人にしろなの!」


「するわけねぇだろ。あいつは反対するだろうが、今のままだと、何も進まねぇな。エレシェフィール、自分の過去を知る気はねぇか?ちゃんと過去を知って、俺らがどれだけ大事に思ってるか知れば、少しくらい信用してくれんだろ」


 やなの。エレの過去なんて、良い事ないの。だから、思い出さなくて良いの。思い出したくないの。


「やなの」


「良い事、か。お前にとって、過去の……俺らが出会った頃が一番良い事なんじゃねぇのか?悪い事もあるかも知れねぇが、それでも、思い出す事で、愛姫の役割を知る事にも繋がるはずだ。今のお前は、愛姫として生きる事だけみたいだからな」


「……知るの」


 愛姫の役割を知れるなら、知らないといけないの。


「……ありがと。記憶を思い出すようにした後は、フォルに側いてもらうから安心しろ」

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