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生命の双子


 僕は、この世界の創造者の子供。それに、他の王達と交流があるから、エレシェフィールを守って欲しいと言う事くらい簡単だ。


 それを理由に、エレシェフィールに愛してもらうなんてしたくない。そんな卑怯な手段であの子の心を手に入れても、何も嬉しくない。


 でも、僕が創造者の子供で、あの子は僕がいなければ動く事すらできないかもしれないという時点で、十分卑怯だ。


 それを全て隠して、僕は言った。


「君以外は考えたくない。必ず君に愛を理解させる。でも、勘違いしないで。これは、愛姫としての力を目覚めさせるためなんかじゃない。幼い頃からずっと、僕は君が好きだったから」


 理由は隠す。知ればきっと、あの子は気にしてしまう。ゼロも、それが理由で今まで隠してきたんじゃないかな。


 こんなふうに言えば、僕から離れるかもしれない。そう思ったけど、それでも、それだけは伝えておきたかった。


「……私は、さっきも言ったように、幼い頃の記憶はなく、愛というものを知ってはならないと言われて育って、愛を理解できません。なので、愛するなんて言えません。ですが、フォーリレアシェルス様以外を選ばないと言う事くらいはできます」


 あの子は、僕の嘘を見抜いたんだろう。でも、その嘘の中身については見抜いていない。それなら良いんだ。


 もう少しだけ、もう少し、あの子の精神状態が安定するまでは、この事は隠しておかないとだから。


「ですが、そんなふうに強要するのは卑怯とおっしゃるのでしょう。なので、私にまいに……定期的に会いにきて……私も会いに行きます。それで、愛を理解させてみてください。私は、ずっと信じて待ちますから」


 それは、僕は卑怯じゃないよと言ってくれているようだった。


「……うん。愛を理解させるよ。だから、信じて待ってて」


 時間がかかっても良い。


『フォーリレアシェルス。今日は、エレがお外へ出してあげるの』


『僕、まだ安静にしてろって』


『ふっふっふ。お外っていうのは、景色がお外であればお外なのです。見て見て。メロディーズワールド。エレのお歌の世界』


 昔、無邪気に笑うあの子に僕は何度も救われた。自分だって、僕とゼロがいないと立つ事すらできない状態のくせに、身体の弱い僕に毎日のように笑顔を見せにきた。


 その度にゼロが大人しくしてろって怒っていた。


 僕は、そんなあの子が好きだった。


 魔法を制限していれば、倒れる事が昔よりかなり減った。まだ、あの子を守れるとは言えないけど、一緒に出かける事ができる。


「君が僕から離れたくなくなるくらい、たっぷり甘やかしてあげる。愛を与えてあげる」


 それが、僕にできる事。


「眠ったのか?」


「ああ。ほんと、可愛い寝顔だよね。このまま、何も知らずに生きてくれればって、それはむりな話か」


 いつかは知らなければならない。そんな事、分かってるんだ。


 僕は、エレシェフィールの頭を撫でる。


「フィル、あれからエクシェフィーの動きは?」


「大事な娘がいなくなったと民を騙して探している。この神域から出なければ安全……と言いたいけど」


「いつ、神域にまで来るか分からない、か」


 エレシェフィールを守るためにも、常に同行は探っておかないと。


 エクシェフィー家に絶対にエレシェフィールは渡さない。


「……寝れない」


「ごめん、うるさかった?」


「怖い夢見ないか不安。真っ暗な場所で、真っ赤な袋がついた注射器が付いていて、それで、その真っ赤な液体が入ると、苦しくて」


 エレシェフィールの覚えてないはずの記憶の一部。この子が、僕らに守られてないといけない理由に繋がる部分。


 だからこんなにも不安定なんだ。記憶がなくても、ずっと、夢で見ていたから。


「いつもはそういう時、どうしてる?」


「ゼロが、手、繋いでくれる」


 寝ぼけてるのか。この子は僕らを呼ぶ時、愛称で呼ばない。それに様付けするのに、愛称で呼んでる。


 昔は、僕らの事、愛称で呼んでくれたんだけど。これは、直ぐに直ぐ変えられないか。


「そっか。なら、僕も手を繋いであげる」


 不安にさせないように、笑うんだ。笑えなくても、むりやり笑う。ただでさえ、不安で手が震えているエレシェフィールに、これ以上不安の種を増やしたくない。


「うん」


 僕がエレシェフィールと手を繋ぐと、少しだけ安心してくれた。


 でも、ゼロは手を繋いでるのは安心させるためで、夢を見出せないのは別なんだけど。


「……エレシェフィール、君は、花が好きだったよね?それに可愛いものと綺麗なもの」


「幻想的な景色もすきなの。フォルが、見せてくれて、すきになった」


 寝ぼけてると、記憶の蓋が開きかけるのか。


「なら、幻想的な世界へ招待するよ」


「フォル、あまり魔法は」


「このくらい平気」


 夢の花で、エレシェフィールと僕の夢を繋ぐ。しかも、夢の花が夢を見せるから、見たい夢というか、景色を選ぶ事ができる。


 昔、これを使って、エレシェフィールと一緒に遊んだんだ。夢の中なら、僕もこの子も、身体の事を気にしなくて良いから。


「また、夢の中で一緒に遊ぼう」


「……隣で寝てくれたの」


「ん?」


「ゼロは隣で、エレを抱きしめて寝てくれたの」


 えっ?それしろと?


 僕は、構わないというか、むしろ嬉しいけど。でも、さっき告白とか好きとか言ってた相手だよ?


 ……って、この子寝ぼけてるんだから、言うだけむだか。


「……これ」


 服の隙間から見えたアザ。僅かに感じる呪いとも言われている魔法の痕跡。


「どうする?」


「エクシェフィー家に全ての加護を与えない」


 僕らの加護がなければ、自然の恩恵すら受けられなくなる。


 今、この世界にある自然の恩恵は、僕らの加護によるものだ。


「分かった。連絡しておく」


「明日でも良いよ。この子の事も大事だけど、君もちゃんと休んで」


 フィルは、他の王達との連絡役を担ってくれてる。


 人里の様子も定期的に見に行ってくれている。だから、いくらエレシェフィールの事だとしても、優先度が高くないから、休んだ後にして欲しいんだ。


「フォル、暇だから遊びきた」


「ごめん、忙しいのに。ゼロ止められなくて」


 ちょうど良いとこに来てくれた。氷の双子、ゼロとゼム。


「エレシェフィールの様子は?会ってプロポーズでもしたのか?」


「どうだろうね?それより、エクシェフィー家への加護を最大にして」


「は?そんな事すれば」


 良く考えてみれば、加護を全て奪うなんて事するより、加護を調整する方が良い。


 自然の加護は、調和が取れているからこそ、恩恵を得られるんだ。自然の加護以外もあるけど、それもおんなじ。


「生命と土と光と時と創造の加護は完全に消す。他は、少し調整してもらう」


「全部消さねぇと意味ねぇだろ」


「ゼロは勉強不足だなぁ。なんて、これ僕とフィル以外は教わらないから仕方ないか」


 僕とフィルは、調整役。だから、どう調整しておけば良いか、変えればどうなるか。それを学んでいる。


 こんなの使う事ないと思っていたけど、他でもない、愛しいエレシェフィールのために使う事になるなんて。


「加護は、全て消せば良いわけじゃないんだ。確かに、全部の加護が奪われた場所では生きられない。他の場所へ行くしかない。でも、僕らの目的は逃げられなくする事。氷の加護を最大にすれば、氷が守る代わりに外へ出れない。生命の加護を消せば、植物は育たない」


「おれ達の目的は、あの子から手を引いてもらう事。あの子から手を引かなければどうなるか。それを身をもって体験してもらう。それが、今回の計画だ」


 さすがは僕の片割れ。その通り。


 愛しいエレシェフィールは、争いなんて望まない。だから、自分達から手を引くと言ってもらわないとなんだ。


 エレシェフィールを悲しませたくないから。


「……みゅぅ。なんだか、ゼーシェミロアール様の気配が……でも、今日はこっちなの。ゼロにはまた今度、妹の愛情をあげるの」


「お前愛情なんて知らねぇだろ」


 突っ込むとこそこ?


 もっと他にある気がするけど。


「ありがと、エレシェフィール。ずっと大事にするから」 


 エレシェフィールが起きたから、話は中断。と言っても、やる事はもう言ってあるから、別に良いんだけど。


「ぷみゅぅ」


「エレシェフィール、ちゃんと寝てないとだめだからね?」


「ぷみゃ⁉︎……ぷみゃ?……ふみゃ⁉︎ふぇ?フォーリレアシェルス様?私、寝ぼけて変な事言って」


「ないよ。だから、そんな事気にせずに、休んで?それで、元気な君と話したい」


「……優しい。噂は噂なの」


 うん。その噂は嘘じゃないから。君には見せない部分なだけで。


「フィル、話は明日って事で。明日集まりあるからそこでするよ」


「えっ?あっ!」


 やっぱ忘れてたか。そんな事だろうと思ったけど。


 明日の集まりで、エレシェフィールの紹介に、加護の話。どうやってバレずにするか考えておかないと。

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